チフネの日記
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2012年10月10日(水) 流される話 跡リョ

部屋に入るなり抱きついて、そのまま床に押し倒そうとして来た跡部に、
「ストップ、ストップ」と、リョーマは力を込めて押し返した。

「なんでいきなりこういうことになるわけ!?俺、疲れているんだけど」
「だからテニスはほどほどにしようぜって言ったじゃねえか。俺の言うことを聞かないからだ」
「こっちが悪いみたいに言うな!とにかく一旦座ろう。さっき休憩するって言ったよね?」

逃れるようにリョーマはソファへ移動する。
すぐ隣に座ろうとして来た跡部に、「あんたはあっち」と向い側の椅子を指差す。

「なんで自分の部屋なのに、お面に指図されないといけないんだ」
「隣に座ったら、また触ろうとするだお。ほら、あっちに行って」

チッと舌打ちしながら椅子に座る跡部を見て、ようやく落ち着いたと胸を撫で下ろす。
全く。跡部の好きにさせていたら身がもたない。
立派なテニスコート(しかも貸切)で思い切り打てるのは良いが、終わった途端に体を触られるというのは考えものだ。
来る度これでは、さすがにうんざりする。

(俺もなんだかんだと流されているし……)

最初の頃は慣れなくて、嫌だ、無理と本気で抵抗していた。それを跡部も仕方無いと言って引いてくれた。
しかし近頃はどうだ。
触れ合うことの気持ち良さを知ってから、振り解こうとする手に力が入らない。
結局跡部の要求に応えてしまっている自分に気付き、これじゃいけないと思い始めた。

「おい、もうそっちに行ってもいいか?」
リョーマの気持ちなど知らず、跡部はすぐにもこちらへ来ようとする。
「5分も経っていないのに、もう、とか言うのはおかしいんじゃない?」
「おかしくもなるだろ。目の前にお前がいるのに触れられないんだぞ!」
「少し位我慢しなよ。毎回毎回、発情していて恥かしくないんすか?」
リョーマの言葉に跡部は少し黙ったあと、「言っておくが、体だけが欲しいわけじゃないぞ」と、神妙な顔をして言った。

「は?」
「いや、だから不安になったんだろ?体だけかもしれねえって、悩んでいたのか。気付かなくて悪かった。
けど、仕方無えだろ。好きな奴が目の前にいて、我慢出来るはずがない。
これでも理性には自信があるんだが、お前が可愛過ぎるのが問題だ。
側にいると無意識に押し倒したくなる。けど中身の方も同じ位愛しく思える。
生意気な言動も、俺には甘いスパイスみたいなもんだ」
「……。一体、なんの話?」

本気で意味がわからないと、リョーマは静かに尋ねた。
跡部の頭の中でどういう物語が進行しているのだろう。
前から変な人だと思っていたけど、甘いスパイスとか言い出す辺り、正気とは思えない。

「俺がお前をちゃんと好きかどうか、聞きたいんじゃなかったのか?」
「そうじゃなくって」
「安心しろ。付き合い始めた頃よりも、もっと好きになっている。
果てが見えなくて怖いくらいだ」
「……」

何故か胸を張って答える跡部に、日本語って難しいねと、リョーマは視線を逸らした。
良い事を言っただろ?という顔をこれ以上見ていたら、殴ってしまいそうだったからだ。

どうして自分は跡部と付き合うことになったのか、記憶を探る。
(そういえば、最初からこんな感じで、何言っても俺のことを好きだって返してきて、それで会話するの諦めたんだっけ。
で、あんまりしつこいから、じゃあまず友達からって流されて……)
今と同じだ。
跡部の言動に流されて、絆されて、許してしまう。

「おい。考えごとは終わったのか?」
「え。……って、なんで近付いてんの!?座ってろよ!
「もう待てるか。お預けするには十分だろ」
「いや、まだ我慢してろよ。なんでそんな堪え性がないんだよ」
リョーマの言葉に、跡部は当たり前のことを聞くなよ、とため息をつく。

「そんなの、お前が好きだからに決まっているだろ。
好き過ぎて我慢出来ない。理解出来るよな?」
「そんなこと言って、また言い包めようとしてるんじゃないの」
「なんでそんな言い方するんだ。……お前は、もう俺のことを好きじゃないのかよ?」

いつもとは違って自信なさげに尋ねて来る跡部に、
(ああ、もう)と、唇を噛む。

こんな時だけしおらしいなんて、本当にずるい。

「好きに、決まっているよ」
「リョーマ!

後はもう、跡部に翻弄されるままだ。

(結局、こうなるんだよな)

本気で抵抗しない自分のことは棚上げして、
跡部の背に腕を回して、ぎゅっと抱き締めた。



終わり


チフネ