チフネの日記
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部屋に入るなり抱きついて、そのまま床に押し倒そうとして来た跡部に、 「ストップ、ストップ」と、リョーマは力を込めて押し返した。
「なんでいきなりこういうことになるわけ!?俺、疲れているんだけど」 「だからテニスはほどほどにしようぜって言ったじゃねえか。俺の言うことを聞かないからだ」 「こっちが悪いみたいに言うな!とにかく一旦座ろう。さっき休憩するって言ったよね?」
逃れるようにリョーマはソファへ移動する。 すぐ隣に座ろうとして来た跡部に、「あんたはあっち」と向い側の椅子を指差す。
「なんで自分の部屋なのに、お面に指図されないといけないんだ」 「隣に座ったら、また触ろうとするだお。ほら、あっちに行って」
チッと舌打ちしながら椅子に座る跡部を見て、ようやく落ち着いたと胸を撫で下ろす。 全く。跡部の好きにさせていたら身がもたない。 立派なテニスコート(しかも貸切)で思い切り打てるのは良いが、終わった途端に体を触られるというのは考えものだ。 来る度これでは、さすがにうんざりする。
(俺もなんだかんだと流されているし……)
最初の頃は慣れなくて、嫌だ、無理と本気で抵抗していた。それを跡部も仕方無いと言って引いてくれた。 しかし近頃はどうだ。 触れ合うことの気持ち良さを知ってから、振り解こうとする手に力が入らない。 結局跡部の要求に応えてしまっている自分に気付き、これじゃいけないと思い始めた。
「おい、もうそっちに行ってもいいか?」 リョーマの気持ちなど知らず、跡部はすぐにもこちらへ来ようとする。 「5分も経っていないのに、もう、とか言うのはおかしいんじゃない?」 「おかしくもなるだろ。目の前にお前がいるのに触れられないんだぞ!」 「少し位我慢しなよ。毎回毎回、発情していて恥かしくないんすか?」 リョーマの言葉に跡部は少し黙ったあと、「言っておくが、体だけが欲しいわけじゃないぞ」と、神妙な顔をして言った。
「は?」 「いや、だから不安になったんだろ?体だけかもしれねえって、悩んでいたのか。気付かなくて悪かった。 けど、仕方無えだろ。好きな奴が目の前にいて、我慢出来るはずがない。 これでも理性には自信があるんだが、お前が可愛過ぎるのが問題だ。 側にいると無意識に押し倒したくなる。けど中身の方も同じ位愛しく思える。 生意気な言動も、俺には甘いスパイスみたいなもんだ」 「……。一体、なんの話?」
本気で意味がわからないと、リョーマは静かに尋ねた。 跡部の頭の中でどういう物語が進行しているのだろう。 前から変な人だと思っていたけど、甘いスパイスとか言い出す辺り、正気とは思えない。
「俺がお前をちゃんと好きかどうか、聞きたいんじゃなかったのか?」 「そうじゃなくって」 「安心しろ。付き合い始めた頃よりも、もっと好きになっている。 果てが見えなくて怖いくらいだ」 「……」
何故か胸を張って答える跡部に、日本語って難しいねと、リョーマは視線を逸らした。 良い事を言っただろ?という顔をこれ以上見ていたら、殴ってしまいそうだったからだ。
どうして自分は跡部と付き合うことになったのか、記憶を探る。 (そういえば、最初からこんな感じで、何言っても俺のことを好きだって返してきて、それで会話するの諦めたんだっけ。 で、あんまりしつこいから、じゃあまず友達からって流されて……) 今と同じだ。 跡部の言動に流されて、絆されて、許してしまう。
「おい。考えごとは終わったのか?」 「え。……って、なんで近付いてんの!?座ってろよ! 「もう待てるか。お預けするには十分だろ」 「いや、まだ我慢してろよ。なんでそんな堪え性がないんだよ」 リョーマの言葉に、跡部は当たり前のことを聞くなよ、とため息をつく。
「そんなの、お前が好きだからに決まっているだろ。 好き過ぎて我慢出来ない。理解出来るよな?」 「そんなこと言って、また言い包めようとしてるんじゃないの」 「なんでそんな言い方するんだ。……お前は、もう俺のことを好きじゃないのかよ?」
いつもとは違って自信なさげに尋ねて来る跡部に、 (ああ、もう)と、唇を噛む。
こんな時だけしおらしいなんて、本当にずるい。
「好きに、決まっているよ」 「リョーマ!
後はもう、跡部に翻弄されるままだ。
(結局、こうなるんだよな)
本気で抵抗しない自分のことは棚上げして、 跡部の背に腕を回して、ぎゅっと抱き締めた。
終わり
チフネ
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