チフネの日記
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2012年10月06日(土) かわいそうな話  跡→リョで塚←リョ

※U−17合宿での話(手塚がドイツ行く前。時間的に厳しいけど、そういうことにして下さい)


跡部が手塚に絡むのはいつものことだ。
大会の時も手塚を見掛けては、わざわざ絡みに出向く位だ。
周囲もライバル視しているからだと、気にする者はいない。
だけどたった一人、手塚に近付くのを快く思わない奴がいるのを跡部は知っている。
そいつにわざと見せ付けるかのように、
「よお、手塚」と、一人で座っている手塚に声を掛けた。

「跡部か。どうした?」
「お前が暇そうにしていたから声を掛けただけだ。
合宿所まで来て勉強か?ずいぶん余裕だな」
断りもせずに手塚の前の席に座る。
青学の他の部員達は何か別のことをしているらしく、カフェスペースにはいない。
ただ、一人を除いて。

手塚は跡部が座っても気にする事もなく、「休息も必要だ」と答えた。
「むやみやたらに練習すれば良いというものではない。
それにこの施設は様々な資料が揃っているからな」
そう言った手塚の手元には’釣り〜いかにしてぬしを釣るか’という本がある。

「釣りか。当分出来そうにないな」
「ああ。しかしこうして本を眺めているだけでも気分転換になる」
「そうか。じゃ、次貸してくれよ」

ニッと笑って本を掴むと、手塚は動揺することなく「ああ」と頷いた。

なんてことの無い会話。
しかしさっきから苛立っているような視線を跡部は感じ取っていた。
右後方にいる、越前リョーマからだ。


(またそんな気付かれない所に座っていやがる。
手塚に話し掛けたいのなら、さっさと近くに寄って来いよ)

しかし跡部が知る限り、リョーマが積極的に手塚へ話し掛けるのを見たことがない。
今みたいに気付かれないところで、じっと手塚を見守っているだけ。
もっと親しくなろうとする気はないらしい。

まるで届かない月を眺めている子供のようだ。
それでいて手塚に近付く跡部のことは気に入らないようで、敵意のある視線を向けてくる。

(ムカついているのなら行動に起こせよ。
大体、てめえらしくないだろ。考えるより先に行動するんじゃないのかよ)

だけどリョーマはどんなに挑発しえも、手塚塚に近付こうとしない。
望みがないと思っているのか、それとも大切過ぎてそっとしておきたいと思っているのか。

(面白くねえ)

手塚のことだからきっとリョーマの想いには、ずっと気付かないままだろう。
そしてリョーマは遠くから手塚のことを想い続ける。
決着をつけるつもりがないのなら、諦めるまで何年も掛かるに違いない。
ひょっとしたら、ずっとこのまま片思いをしている可能性だって有り得る。

苛々した気持ちを隠して、跡部は手塚の腕に軽く手を触れた。

「跡部?」
「休みが取れたら一緒に釣りに行こうぜ。どっちが多く釣れるか競争しないか?」
「構わないが」
「よし、約束したぜ」

ぎりぎりと奥歯を噛むような音が聞こえた気がした。
kじょの会話を聞いて、煮えくり返るような気持ちになっているに違いない。
それでも邪魔することさえ出来ずに、動けずに座ったままでいる。

(かわいそうな奴)

顔を上げると、ほとんど殺しそうな目で跡部を睨んでいるリョーマが見えた。

(どんなに憎んだって、何も変わらないぜ。手塚には伝わらない。
……俺と同じだ)

リョーマの視界に入る為に手塚に近付いている自分も、同じくらいかわいそうな奴だと思った。

終わり


チフネ