チフネの日記
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2012年08月07日(火) lost 悲劇編 40.跡部景吾

千石からの電話は意外過ぎる程の報告だった。
リョーマの噂をばら撒いていたのは元彼女の友人で、しかも謝罪の場に現われなかったという。
だがリョーマはその結果を受け入れ、これ以上大事にしないと決めたらしい。
あいつらしいな、と跡部は思った。

親友の為に、リョーマを陥れようとした。
見知らぬ連中から中傷誹謗を受けたことを、いい気味とでも思って眺めていたのか。
一体、どういう気持ちなんだろう。そんなことをしても親友は喜ばないとわかっているだろうに。
それとも、もっと別な恨みでもあるのかもしれない。
例えば、本当はリョーマに好意を寄せていて、だけど親友と付き合うことになったから身を引いた。
好意を寄せてたからこそ、これだけ憎むようになったという考えもある。
最も、直接その人物と話をしたわけじゃないから想像に過ぎない。
どちらにしろこんなやり方は間違っている。歪んでいるとしk思えない。


「ねえ、信じられる!?あのメールの所為でリョーマ君がどんなに迷惑したのか、そういう所全く気にしていないいだよ!」
千石の興奮は収まらない。大声にもう少しトーンを落とせと思いつつ、
「越前が決めたことだろ。それ以上騒いでも無駄だろ」と告げる。
「そうだけど……。あ、でもメールを出した人は他にもいるんだって!
これってまだ解決してないてことだよね?
青学の中には、もういないってことかなあ。宍戸君とか慣れないながらも頑張っていたのに、結局他校生に出来ることは限られるね」
「ああ、宍戸と鳳に会ったんだってな。お前も青学の方を探っていたとか」
「そりゃ、可能性あるなら情報を得る為に足を運ぶよ。
青学の犯人はわかったとして、氷帝の方はどうなのかな?」
千石の言葉に、跡部は少し考えてから結局伝えることにした。
掴んだ情報は公開するべきだろう。千石もずっとリョーマの為に動いてくれていた。黙っているわけにもいかない。
「いや。そっちの方の犯人ならもうわかった」
「え、跡部君、わかっちゃったの?いつから?」
「わかったのは昨日だ。それで越前にどう連絡するか考えていた所だ」
跡部にしては珍しく一晩悩んだ。
犯人の所へ行って、お前がやったのかとかと問い詰め、リョーマに謝罪させる為に引っ張って行くか。
それともリョーマに話して、判断を任せるべきか。ずっと考えていた。
「ひょっとして、もう一人の犯人って、跡部君の知り合いとか?」
勘の良い千石は今のやり取りだけで何か気付いたようだ。
「ああ。理由はわからないがな。そいつがやったのは確かだ」
「それで、どうするつもり?」
「お前の話を聞いて、どうするか決めた。
越前とそいつを引き合わせる。謝罪するかはわからないが、やったことは認めさせる。
その上で越前がどううしたいか決めてもらう」
「引き合わせるって、どうやって?」
「そこはお前の出番だろ。うまく言い包めて越前を連れ出して来いよ」
「えー、でも跡部君と会いたくないって言われているのに?
騙して会わせたら絶対怒られるよ。そんなのやだなあ」
「言ってる場合か。なんとかしろ。
偶然を装って会ったことにするとか出来ないのか」
「無茶言わないでよ。……待てよ。そうでもないかも」
ハッと思いついたように千石は声を上げた。
「いい考えでもあるのか?」
「偶然を装うとしたら、これしかない。跡部君、明日は時間ある?」




千石が思い付いたアイデアは悪くないもので、すぐに決行することにした。
これならリョーマと自然に外で会うことが可能だ。
―――全国大会決勝戦の、会場。
青学と立海の試合に、リョーマも観戦しに来ている。
中傷や絡まれることを恐れて、こういう場には来ないかと思ったが、
千石の話では青学の先輩達に是非と言われたらしい。
二年前の大会で遅刻した上、記憶を失くして決勝に間に合わなかったリョーマを呼ぶなんて、
どういうつもりだと思ったけど、もしかして彼らは苦い思い出を乗り越えて欲しいかrこそ会場へ呼んだのかもしれない。
あの時はリョーマが間に合わなかった為、優勝を逃したとも言われている。
だけど青学の連中はそんな風には思っていないはずだ。
一人一人力を出し尽くし、その結果が準優勝だっとしても彼らは胸を張ってそこに立っていた。
手塚も悔いはないという顔をしていた。
青学の連中が納得しているというのに、どうして外野があれこれ言うのか、跡部には理解出来ない。
記憶を取り戻した今、テニス部に本人が戻りたいと思うならそうさせてやればいい。阻止するのは間違っている。
リョーマが戻りたくないと考えているなら、そっとしてやればいい。
苦しんでいる彼をもっと思い詰めたいと考え、噂をばら撒こうとするなんてどういう気持ちなんだろう。
全く理解出来ない。

気がつくと、コートの観客席に歓声が飛び交っていた。
ダブルスで先制勝ちした青学は次のS1では負けてしまった。
勝敗が決まるS2では不利かと思ったが、接戦の末ついには立海の選手を追い詰め、勝利を掴んだ。

「青学の優勝か」

呟いた後ちらりと後ろを見て、「行くぞ」と声を掛ける。
この後、リョーマを一緒に来た千石と合流することになっている
偶然を装い、会場で顔を合わせたという設定だ。
わざとらしいがこれしか方法が無い。
ぼやぼやしていると人混みに紛れて見付けることが難しい。
そう思って外へ出ると、ちょうど立ち止まって千石と話しているリョーマを発見した。
跡部が来ると思って、千石はここで引き止めてくれたようだ。

「おい、あれって」
後ろから聞こえた声を無視して、大股で二人に近付いて行く。

「よお。お前らも来ていたのか」
「あ!跡部君」
「……」
跡部の登場にリョーマは目を見開いた後、すぐに俯いた。
拒絶の反応に傷付くが、今はそんな場合じゃない。
「ちょっと話出来ないか」
「何言っているんすか。俺はもうあんたとは」
「大事な話だ。今しか出来ねえ」
「だからもうそういうのは困るって言っているのに」
「目を合わせないよう顔を背けるリョーマに「例の噂の件だ」と跡部は言った。

「そうだろ、忍足。お前、越前に言わないといけないことがあるよな?」
関わりたくなさそうに距離を取っていた忍足に向かって、そう告げる。
今日ここに決勝を見に行かないかと誘った時に怪しまれるかと思ったが、
忍足は「たまには付き合うか」と言って乗って来た。リョーマに引き合わせる為とは疑ってなかったおかげで、スムーズに事が進んだ。
忍足とリョーマを顔を合わせて、そして全てを話してもらう。その目的の為は達せられそうだ。

「俺が越前に?なんのことや」
惚けようとする忍足に「全部わかってる」と冷静に告げた。
「お前が命令していた後輩達から話を聞いた。
もうわかっているんだ。指示してメールをばら撒いていたのも、あの二人から聞いた。
言い訳出来る状況じゃねえんだよ」

忍足はそれを聞くと、はあっと溜息をついた。
「なんや。結局俺の名前出したんか。俺の為にとか言うても、案外もろいもんやな」
「え、え?じゃあ、あの噂をばら撒いていたのって忍足君?
なんで?リョーマ君を恨む理由ってあったっけ?」
千石が場違いのような声を上げる。
忍足に理由があると思えず、驚いているのだろう。

「少し場所変えるぞ。ここで話をすると面倒だろ」
会場からは人がぞろぞろと出て来ている。
誰かに聞かれていい内容ではない。
「俺もいかなあかんのか?」
面倒くさそうに言う忍足に、「当たり前だろ」と睨みつける。

「誰の所為で越前が迷惑したと思っているんだ。
言い訳の一つくらい、してみせろ」
「言い訳ねえ……」
ちらと忍足はリョーマを見て、「ま、ええけど」と言った。

「越前も来い。どうするのか決めるのはお前だからな」
ここで拒否されても無理矢理引っ張っていくつもりだった。
声にそんな決意が滲んでいたのか、リョーマは目を逸らしたまま「わかった」と頷いた。


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