チフネの日記
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2012年08月05日(日) |
lost 悲劇編 38.跡部景吾 |
氷帝が準決勝で当たったのは、立海だった。 真田と幸村は中等部を卒業後、それぞれプロを目指す為に留学していて主力二人が抜けた状態だ。 付け入る隙があると考えたが、全国大会常連校は甘くなかった。 ダブルスはあと一歩の所で負けてしまい、次に跡部が勝ちを拾ったが、結局次のシングルスで負けて、氷帝の夏は終わってしまった。 全国制覇の夢が破れた三年生達は肩を落とし、泣いている者もいる。 来年こそは、と跡部は顔を上げてコートを見渡す。 次にここに来た時は負けない。立海だろうが青学だろうが、どんな相手にも負けない。 来年こそはか必ず大会を制覇してやると心に誓った。
「負けてもうたな。すまん、跡部」 シングルスの試合を落として謝罪するおに「お前の所為じゃないだろ」と跡部は柄にもなく慰めの言葉を口にした。 「もう終わったことだ。それより次の目標に向かって今より強くなれよ」 「……そうやな」 忍足は曖昧に笑った後、「これから反省会するか?」と誘って来た。 「皆で騒いでベスト4に残ったことを素直に祝おうや」 「いや。今日はこれから用事がある」 「なんや。大会終わったら早速デートの予定か? 忙しくて会えなかった分の埋め合わせをせなあかんのか」 そんなんじゃないと言い返そうとしたが、直ぐに思い直して曖昧に頷く。 本当の用が何か、忍足には話せないからだ。
「そういうことならしゃあないな。また後で改めて集まろうや」 「ああ。俺抜きで楽しんでくれ」 「そうするわ」
忍足が去ってから、「今、聞かなくて良かったのか」と宍戸が声を掛けて来た。 「ああ。惚けられたらどうしようもないからな。裏を取ってからにする」 「俺はこういうやり方、好きじゃないんだけどな」 常に正々堂々とを好む宍戸は、こそこそ探るような真似を快く思わないようだ。 それでも情報を集めてくれることには協力してくれた。 犯人が誰なのか、宍戸としても放っておけなかったのだろう。
「その、忍足とジローのファンだって二人組みと今日、会うんだろ?」 「ああ」 「もちどっちかが噂の件と関わっていたら、お前はどうするつもりなんだ?」
本当のことを言うと、二人が関わっていると考えたくなかった。 けれど有耶無耶にすることも出来ず、結局中等部の二人組みと会う約束を取り付けた。 勿論、ジローと忍足には内緒で、ということも言ってある。破ったらどうなるか、少し脅しを入れたことは宍戸には言えやしない。だがあの二人が知らない間に片付ける必要がある。 宍戸に打ち明けたのはこれまで協力してくれたのと、ジローと忍足が関わっている可能性があるか、聞いてみたかったのもあった。
「そりゃ普通に考えたらジローだろ。あれだけ越前のこと嫌っているって態度を取っていたからな。 そう思われても仕方無いぜ」 納得出来る回答だが、本当にそれで合っているのかはわからない。 そもそもジローは跡部がリョーマに近付くことを阻止したかっただけだ。 噂を流す必要が無いように思える。 忍足に至っては動機すら思いつかない。 リョーマとの接点はほとんど無いに等しい。 それでも直接自分が確認するまでは、二人のことを完全に信用することが出来ない。 もしかしたら、と疑う心が消えない。
「俺も一緒に行こうか?」 心配そうな目を向ける宍戸に、「大丈夫だ」と跡部は答えた。
「俺一人で行った方が向こうも話してくれるだろう。ここは慎重にしたい」 「けど、もしあの二人のどちらかが関わっていたら、」 宍戸はそこで口を噤んだ。 その後、跡部が冷静でいられるか、心配しているのだろう。
「その時はその時だ。もう腹は括った。どんな結果が出ても驚きはしねえよ」 「跡部……」 「結果はまた後で話す」 「ああ。けど俺は青学に犯人がいるって説も捨ててない。千石にも協力してもらってるけど、聞き込みは続けるつもりだ」 「そっちは頼む」 「ああ」
じゃあなと挨拶だけして、跡部は車へと向かった。 何が暴かれようが、もう受け止めるしかない。 リョーマに関する噂をばら撒くことだけは止めさせなければならない。 考えるべきは、その一点だけだ。
チフネ
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