チフネの日記
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2012年02月29日(水) |
2012年 不二誕生日話 |
もしも恋人から「今日はなんでも望むことをしてあげる」と言われたら。 嬉しくないはずがない。
しかし、不二はちょっと違っていた。
「越前……僕と別れたいの!?」 「どうしてそうなるんすか」
ツッコミを入れるリョーマを前にしても、不二は信じられないという目を向けた。
「だって君がそんなこと言うなんてあり得ない。 別れる前にせめていい目を見せてあげようとか、そういう情けを掛けてくれてるのかと思って」 「……不二先輩の頭の中ってどうなっているんすか。 あんた、今日誕生日なんでしょ。普通にプレゼントとかって思わないの?」 「そうだけど!でも越前に限ってそれだはないでしょ。 好きにしてなんていったら、僕がどんな要求するかわかっているから絶対に口にしないはずだ。 むしろ黙って実行しようとする僕から全力で逃げることを考えるよね?」 「……よくわかってるじゃん」 「じゃあ、どうして好きにしていいなんて言ったの?何か企みがあるとしか思えないよ!」 「好きにしろとは言って無いんだけど。 して欲しいことがあったら言って、とじゃ全然違うっすよ。 とにかく落ち着いて、先輩。 別れたいならわざわざ飛行機に乗って日本に来たりしない。連絡を絶てば済むことでしょ」
なんだか怖いことを平然と言われた気がすると、不二は少し冷静になった。
今、リョーマと不二は遠距離恋愛真っ最中だ。 アメリカと日本。距離は遠過ぎるけれど、付き合いは続いている。 プロの道を歩んだリョーマはとても忙しく、滅多に会うことも出来ないが、それでもお互いの気持ちさえあれば乗り越えて行けると、不二は思っている。
だから贅沢なんて言わない。 誕生日にリョーマと会えなくても、おめでとうの一言のメールさえ届けば満足だと自分に言い聞かせていた。 それが突然のサプライズ。リョーマは今日、わざわざ日本へ、不二の元へと来てくれた。 ぎりぎりまでどうなるかわからなかったから、知らせることは出来なったらしい。後、びっくりさせたいという気持ちもあったとさっき教えてくれた。
それだけでも心臓が破裂しそうな程嬉しいのに、 「今日は先輩の誕生日でしょ。して欲しいことがあったら言って。俺が出来ることなら、叶えてあげる」と言われた。 実にリョーマらしくない台詞だ。 パニックを起しても無理も無いだろうと、不二は思った。
「越前が嘘を言っているんじゃないってことはわかった。 だとしたら僕は今、非常に都合の良い夢を見ているってことになるのかな」 「今度は夢だと思ってんすか!?いい加減にしてよ」
ぺしっと額を叩かれる。 「痛い」と言うと、「夢じゃないっすよ」と言われた。
「でも、どうして?嬉しいけど誰かに入れ知恵でもされたの?」 「それも外れ。俺は誰かの意見を聞いたりしないっすよ」 「そっか……。そうだよね」 頷くと、リョーマはこほんと咳払いして話を続けた。
「先輩の誕生日って四年に一回しかないでしょ。 そんな時位、祝ってあげたいって思うのが恋人ってもんじゃないんすか。 遠距離で寂しい思いをさせている分、何かしたいと思っての言葉だったんだけど。 あんな反応されるとは、予想外っすよ」
喜んでくれるかと思ったのに、と言うリョーマに、 「嬉しいけど驚きの方が大きかったんだ!」と言い訳をする。
「それじゃ、改めてして欲しいことを言ってもいい?」 「先輩。なんか目が怖い……」 「大丈夫。無茶なことは言わないから」 「本当っすか?ま、俺も腹括って来たから、いいっすよ」
どうぞと身構えるリョーマの手を取って、不二はその甲に軽く口付けをした。
「僕のことを、好きだって言って欲しいな」 「え。そんなんで、いいの?」
意外そうな顔をするリョーマに、「大切なことだよ」と不二は返した。 「だって越前に最後に好きだって言ってもらったのは、半年以上も前で、 それもベッドの中でなし崩しに言ってくれた感じだったから」 「最後まで言わなくていい!わかった、その願い、叶えるっす」
ちょっと座ってとベッドに腰を降ろすよう指示される。 言う通りにすると、リョーマは直ぐ目の前に立った。 そしてゆっくりと不二の肩に両腕を回し、耳元に口を近付ける。
「好きだよ、周助。誕生日おめでとう」
初めて呼ばれた名前に、不二はカッと顔を赤くする。 耳の色で気付いたのだろう、リョーマが小さく笑うのが聞こえた。
だから不二もリョーマの背に手を回し、「ありがとう」と礼を言う。 「来てくれて、僕の願いを叶えてくれて嬉しいよ。……リョーマ」
びくっと肩を揺らしたリョーマに、不二もお返しとばかりに笑う。
すごく幸せな誕生日だ。
さて、次は何を叶えてもらおうかなと、腕にぎゅっと力を込めて考えた。
終わり
チフネ
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