チフネの日記
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2012年02月28日(火) 満足している 2 不二リョ

オフの日は、出来る限り日本で過ごす。
決して長くない休日を、リョーマは日本を往復することに費やしている。
周囲からは時間の無駄だと何度も言われた。
「いくら恋人に会いたいからって、よくやれるな」
「こっちで別の相手を見つけろよ」
「リョーマならいくらでも寄って来るやついるだろうに」
同じクラブに所属している選手達からの助言を、リョーマは軽く聞き流して日本へと渡る。
おかげで変わり者というレッテルを貼られたが、気にするようなことじゃない。
それより心配なのはいつも突然連絡をして押し掛けていることが、不二の迷惑になっていないかということだ。

リョーマの恋人である不二は現在、大学生。
時間はある方だと思うが、いつもいつも訪問するのを拒んだりしない。
学生って暇なもんだなと最初は思っていたが、やがて彼が都合を会わせてくれているのだと気付いた。
一度くらい、「ごめん。今回は予定があるんだ」と断ってもいいはずなのに、
「わかった。越前の食べたいもの作って待っている」という返事ばかり。おかしい。有り得るわけがない。
自分の知らないところで、スケジュールを調整しているのだと、さすがにわかってしまった。
だったらもう会いに来るのは長期の休みが取れてからにするかと考えたが、
そんなことをしたら「なんで会いに来てくれなくなったの」と不二に詰め寄られそうだ。
遠慮なんてしなくていい。越前が会いに来てくれるだけで嬉しいと、
何度も何度も囁かれた言葉は嘘とも思えず、結局突発だろうがなんだろうが、会いに来ることにしてる。

とはいえ。
ここに来るまでに体力も使うので、大体は不二の部屋で寝て過ごすことが多い。
何時間も飛行機に乗ってやっと部屋にたどり着いた時には、外に出るのさえ面倒に感じる。
外出するよりも不二と二人でいる時間を大切にしたい。
外に出たら、どうしても人の目がある。
邪魔されずに過ごすには、じっとここに留まっているのが一番だ。
そういった過ごし方を不二は不満に思ったりする所か、むしろ喜んでいるみたいだ。
「越前が他の人から注目を浴びる心配がなくなるからね。
デートするよりずっといい」
気を使ってくれているのかと考えたが、に不二はどこにも行かないでこの部屋でだらだらと過ごすのを望んでいる。
それがわかったから、リョーマもあえて「外に出よう」と言うのは止めた。
閉じた部屋の中では何か起こるわけでもなく、ただのんびりと過ぎて行くだけだ。
お互いにそれを心地良いと感じているから、このやり方を変えようとは今の所考えていない。

(もう、夕方過ぎてる……)

目を開けると、窓の外にはうっすらと暗くなった空が見える。
ゲームしていたまま眠っていた為、横になったままの体勢でリョーマは大きく伸びをした。
帰国をしたのが平日だったので、不二は授業に出る為に午前中から出ていた。
夕飯の用意を買って来るよと言っていたのを思い出す。
きっと今日も好物を作ってくれるのだろう。
不二の料理の腕前は毎回上がっている。ここに来る楽しみの一つだ。
少し腹は減ったが、お菓子を食べるのは我慢する。その方が夕飯が美味しく頂けるからだ。
帰って来るまでゲームでもして紛らわすかと電源を入れようとしたところで、
「ただいま」と声と同時に玄関の扉が開いた。

「ごめんね、買い物してたら少し遅くなった。
すぐ夕飯の支度するから待ってて。新しい料理覚えたんだ。
越前に是非食べてもらいたくってさ。食べたら感想聞かせてよ」

買い物袋を下げてにこにこと笑う不二に、リョーマは立ち上がって正面から抱きつく。

「どうしたの?何か、あった?」
不意打ちの行動に驚くこともなく、不二は袋をゆっくりと床に下ろしてリョーマの背中に両腕を回す。
「何も。ただ、先輩に言いたくって」
「え?」
「おかえり。……ありがと」

次のオフには何を作ってもてなすか、そんなことばかり考えているであろう不二の気持ちが嬉しくて、
なんだか幸せな気持ちでいっぱいになって、
言葉で伝えるよりも先に抱き締めたいと思ったからそうした。

不二はちょっと目を見開いたが、わかっているというように背中を優しく撫でてくれた。

普段は簡単に会える距離にいなくて、寂しいと思うことも無いわけじゃないけど、こんな風に抱き合う度になんだって乗り越えて行ける、
そんな風に思えるのだ。

おわり



チフネ