チフネの日記
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2012年02月27日(月) 満足している  不二リョ

リョーマの帰国はいつも急だ。不二は文句も言わず、それを受け入れる。
もし断ったら、次いつ会えるかどうかわからない。
そんな事情をわかっているから、「明日、そっち帰るんだけど」と唐突に言われても、
「わかった。待ってるね」と不二は返している。
予定は全てキャンセル。けれど、リョーマに文句を言ったりはしない。
プロとして活躍しているリョーマは忙しい間を縫って、不二に会いに来てくれる。
その気持ちだけでも、感謝しなければならないとわかっているからだ。


「なんか、不二って駄目な男に嵌っている女子みたい〜」

笑いながらそう言ったのは菊丸だ。
中等部の途中でリョーマがアメリカに渡ったことで、「不二、振られたのか。可哀相に!しょうがないから、今日は俺の奢りで何か食べに行こう!付き合ってあげるから!」と盛大に勘違いしてくれた友達。
いや、振られてないからと理解してもらうのに一ヶ月以上掛かった。
それからも続いているの?まだ?まだ、付き合っているの?とと聞かれて、その都度「うん」と頷き、納得してもらえるまで説明している。
別れていないというのは菊丸も理解してくれたのだが、この頃は違うことを言われる。
主に不二とリョーマの、過ごし方について、だ。

「駄目な男って何?越前は毎日毎日忙しくて、試合だっていっぱいしていて、今や手塚と並ぶくらいの注目されてる選手で」
リョーマがいかにすごいかと主張する不二に「違う、違う」と菊丸は首を振った。
「おチビがすごい選手だってことは、俺の家族だって知ってるよ。知れ渡っているでしょ。
でも俺が言いたいのはそういうことじゃない。不二の家での過ごし方ってこと」
「どういうこと?」
意味がわからない。何がまずいんだろうかと不二は考えたが、答えは出てこない。
黙ってしまった不二に、やれやれとばかりに菊丸は大袈裟に溜息をついてみせた。

「だって話聞いていると、おチビって不二の部屋に引き篭もってほとんど寝て過ごすだけなんでしょ。折角こっちに帰って来ているのに、不二がいない間も、寝転がってゲームしているか寝てるかだけ。ご飯もお風呂も洗濯も不二の仕事!おチビは何もしなくても、不二がぜーんぶやってくれる!」
「それは、僕の部屋だから」
「不二が一人暮らししてから、おチビの駄目っぷりに磨きが掛かった気がする。
前はもうちょっとデートらしいことしてたじゃん」

たしかにそうだった。少し前は不二もまだ両親のいる家で暮らしていたから、リョーマはホテルに宿泊していた。家に来てよと言っても、迷惑になるからといって断っていた。人様の家で一日中ごろごろしているわけにはいかないからだ。
その頃は外にご飯を食べに行って、買い物とかしたりとたしかにデートらしいこともしていた。
不二が大学に進学し、一人暮らしをしてからリョーマは外に出たがらなくなった。
食事は不二が作る、ベッドにずっと寝ていても咎めるものはいない。それは最高の状況だろう。

「いい若者がそれは駄目だよ。もっと広い世界に出なくちゃ!」
自分も若者のくせにそんなことを言って、菊丸笑った。
それを聞いて不二は(いつも越前は広い世界相手に戦っているんだけど)と内心で思った。
「不二はそういうの不満に思わないの?おチビばっかり好きなことしてさ、都合の良い時に会いに来て、さっさと帰って行く。ほら、駄目男に嵌っている女子みたいじゃにゃい?」
「僕は、そんなこと思ったことないけど」
「甘いなあ、不二。だからおチビがどんどん我侭になるんだよ」
「そうでもないと思うけどなあ」
不二の言葉に、菊丸は「不二は欲がないなあ」と呆れた声を出した。






眠っているリョーマを見て、不二は菊丸との会話を思い出す。

(駄目男に嵌っている女子、か)

自分の都合だけで会いに来て、こちらからはなかなか会いたいとも言えず待っているしかなくて、
会えたと思ったら好きなだけごろごろして帰って行く。
なるほど。世間一般からしたら、そんな風にも見えなくもない。


(だけど)

リョーマの頬にキスを落とす。無防備なままで寝ている姿に、つい手を伸ばしてしまう。
昨日の濃厚な行為を考えるともう少し寝かしてもいいかなと思うけど、朝食兼昼食が出来上がったところだ。折角だから、温かい食事を食べさせてあげたい。リョーマは寝ていることも好きだけど、和食を食べるのも好きだから。

「越前、起きて。ご飯、出来たよ」
「ん……、もうちょっと寝てる」
「気持ちもわかるけど、もう12時過ぎたよ?お腹空いたでしょ?」
「ヤダ。起きない」
「そう。だったらいいよ」

僕一人で食事するから、とリョーマの首元に触れてそのまま胸元に滑らす。
あやしい動きに、リョーマはバッと体を起こした。

「おはよう、越前」
「……先輩、今何しようとしてた?」
「食事するって言ったじゃない」
「俺は食べ物じゃないっす」
「似たようなものでしょ」

僕にとってはご馳走、と笑うと、顔を赤くして枕を投げて来た。
それをひょいっと避けて、「服着て、顔を洗って来て」と優しく言った。
さすがにもう眠る気は無くなったらしく、リョーマは黙って不二が用意していた服を身につけて、洗面所へと向かった。


部屋から出ないで好きなようにだらだら過ごして、そして帰って行く。
リョーマとの時間に、不満なんかなかった。
むしろ一人暮らしして良かったとさえ思う。誰にも邪魔されずに二人きりの時間を過ごすことが出来る。
それに、リョーマは空いている時間を全部ここに帰る為だけに使ってくれてる。どんなに忙しくても、不二に会いに来てくれる。
幸せと言わずに、何と言うのか。

(誰がなんと言おうと)

すごく満足しているんだ、と不二は笑って洗面所から戻ったリョーマの手を引いて、温かい食事を取る為にテーブルへと導いた。


終わり



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