チフネの日記
DiaryINDEX|past|will
| 2011年12月23日(金) |
2011年リョーマ誕生日話 跡リョ |
「なんだよ、跡部君来ないのかよー」
つまらなそうに唇を尖らす父親の言葉を、リョーマは顔を背けて無視をした。 だが、そんなことで諦めるような人ではない。 リョーマの前まで回りこんで「振られたのか?」と真顔で尋ねる。 だから間髪入れずに、父親の足を踏んでやった。
「痛えっ!お父様になにしやがる」 「黙れ、クソ親父」 「跡部君に振られたからって、八つ当たりするとはどういうことだ」 「振られてないから」 「だったら、なんでお前を迎えに来ねえんだよ。いつもは目も当てられない位、べったりしてるくせに。 誕生日に一人にするとはどういうことだ」 「……」
説明するのも面倒だが、振られたと思われるのも癪だ。 リョーマは仕方無いというように口を開いた。
「あの人の家、こういう時ってパーティーとか色々付き合いがあるの。 俺の誕生日だけど、世間一般ではクリスマスでしょ」 「あー、なるほどな。イヴに生まれたせいで、彼氏と過ごせないのかー。 そりゃ可哀相だな」
ニヤニヤと笑う父親に、もう一度足を踏んでやろうかと考える。
「跡部君来ないんじゃ、貢物のお酒も期待出来ないなあ。 ちぇっ、しょうがない。安い酒で我慢するか」 「あんた、あの人から何受け取ってんの」 「いやあ、未来の息子はなかなか話が分かるやつだよなあ。 俺のご機嫌取りの為に必死なところが、また笑えるというか」 「……」
渾身の力を込めてさっきと同じ場所を踏んでやると、 父親は家中に響くような悲鳴を上げた。
(しょうがないじゃん……。跡部さんだって色々忙しいんだから)
お前の誕生日だから絶対一緒に居たいと騒いでいたが、リョーマは家の用事の方が大事だろと言って跡部の要求を跳ね除けた。 母親はいつだって自分の誕生日を優先して祝ってくれたからクリスマスイヴに生まれて損したと思ったことはないが、今回ばかりは少し恨みたくもなる。
(跡部さんの誕生日も、ずっと一緒に過ごせないからなあ)
何かと客を招待したりと忙しい家を持つ跡部と交際している時点で、諦めなければならないことは色々ある。 跡部の誕生日は勿論、クリスマスイヴと重なった自分の誕生日も過ごせないとは。 ……ついてない。 でも、それを跡部に言うわけにはいかない。 そんなことをしたら、無理にでも側にいようとするだろう。
(駄目だ。そんなことしたら、周りになんて言われるかわからない)
跡部がこれまでテニス以外でも努力していることは知っている。 それを自分の誕生日に側に居て欲しいという我侭で台無しにするわけにはいかない。 このまま、付き合っていけるかどうかもわからない。 だから一時の感情を優先して、無責任な行動は取るべきではない。 面倒くせえと渋る跡部をパーティーへと送り出したのはリョーマなりに跡部のことを気遣っているからだ。 家のことを蔑ろにして、跡部の立場が無くなったら申し訳無いと思うだけでは済まない。
(そりゃ俺だって、今日くらいは一緒に居れたらと思うけど……)
跡部がこれまで築いてきたものを台無しにする位なら、離れた方がマシだ。 たかが、誕生日。 プレゼントもちゃんともらったのだから、これ以上望むものは無いはずだ。 いつもと変わらず、誕生日は家族と祝う。それでいい。
(お腹いっぱいになった……)
母親の気合いの入った料理と、菜々子が作ってくれたケーキのおかげで満腹になった。 プレゼントは希望通り、新しいゲーム機とソフトを買ってもらった。 菜々子からもマフラーと手袋を受け取った。 跡部には前日に新しいシューズをもらっている。 こんなにもプレゼントがあって嬉しい。良い誕生日だったと思う。
ベッドに横になって、リョーマは軽く欠伸をする。 風呂に入らずこのまま眠りたい気分だ。 跡部の方はそろそろパーティーが終わる頃だろうか。 もうちょっと続いているかなと考えていると、不意に携帯が着信を知らせる。 表示を確認して、ぎょっと目を見開く。 ―――跡部からだ。
「もしもし……?」 「俺だ。今、家の前にいる」 その言葉に、リョーマは部屋を飛び出した。 何で今ここにいるのとか、全部終わらせてから来たのとか、言いたいことはあrが、 それよりも先に顔が見たかった。
「よお」 リョーマが玄関を開けると、跡部は片手を挙げてニヤッと笑った。 ここまで乗ってきた車が路地を曲がって行くのが見えた。 そこに置いてあると邪魔だから気を使って移動させたのだろう。
「よお、じゃないよ。パーティーは?終わったの?」 跡部はまだスーツ姿だ。 会場からここまで車で来たのはわかるが、終わるには少し早くないだろうか。 まさか抜けて来たのではと、不審な目を向けるリョーマに「ちゃんと挨拶も済ませて来たぜ」と跡部はこちらに近付きながら言った。 「そんな心配すんな。折角送り出してくれたのに、それを台無しにする真似なんてするわけないだろう」 ふん、と息を吐いて跡部はリョーマの鼻を軽く抓んだ。
「家を背負っている俺に色々気を使っていること位、わかっているぜ。 だからきっちりとやるべきことはやって来た。 けど、その後の時間は好きなようにしてもいいだろ」 なあ、と跡部の手は鼻から頬へと滑り、上を向かされる形になる。
「……それで車を飛ばして家に来たってこと?」 「そうだ。悪いか」 「悪くないけど疲れているんだから、休めばいいのに」
自分で言ってもわざとらしいということがわかる。 だってなんだかんだと言っても、跡部が来てくれたことは嬉しい。 いつものように素っ気無い態度が上手く出来なくて、跡部の手から逃れるようにして俯く。
「で?お前は俺に帰って欲しいのかよ」 こちらの本心に気付いているくせに、跡部はそんな風に言う。 ニヤニヤしている顔に一瞬ムッとするが、来てくれたことに対してこちらも素直にならざるを得ない。
「そんなこと言ってない。家に上がって休んでいったら?」 「その答えを待ってた。 あ、南次郎さんはいるか?手土産持って来たぜ」 「あんた、親父のご機嫌取りもほどほどにしときなよ。付け上がるから」
やっぱり持って来たのか。 呆れるような声を出すと、「この程度で交際を認めてくれるなら安いものだろ」と跡部は肩を竦めて言う。
「お前と一緒に居られるなら、なんてことないだろうが。 色々あるかもしれないけど、俺は諦めてないからな。 この先も続けられるようにと、いつだって願っている」 「……」
瞬きして、跡部の顔を見る。 茶化した空気はそこにはなく、真剣なものだ。
それは家のことで、別れなくちゃいけない未来などないと否定する意味に聞こえて。
「うん、ありがと」
跡部の手を取って、家の中へと昼。
その言葉がリョーマにとって一番の誕生日プレゼントとなった。
終わり
チフネ

|