チフネの日記
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| 2011年11月13日(日) |
二つの寂しい恋 不二→リョ (塚←リョ要素有り SQ12月号ネタバレ含む) |
手塚がいなくなってから、僕の中でますます越前を自分のものにしたいという気持ちが大きくなていくのがわかる。 治療の為に九州へ行った時とはわけが違う。 今度はいつ戻って来るかわからない。 全国大会までに、という約束すらないからひょっとしたらこのままずっと帰らないかもしれない。 きっとこの選抜には戻って来ることは無いだろう。 その事実が、蓋をしていた僕の気持ちを揺らしている。 今まで、気持ちを告げようなんて考えたことすら無かったのに。 言った所で、越前の答えはわかっている。 付き合えないと、ただそれだけを言うのだろう。 本当の理由は手塚が好きだからなんて言うわけがない。 だけど、僕は知っている。 手塚を特別視する目は隠しようもない。 しかし越前は手塚の告白する素振りは一切見せなかった。 どうしてだろうという疑問は、全国大会が終わってすぐに知ることになる。 越前は最初から、アメリカに帰るつもりだったのだ。 別れが来るとわかっちたから、何も言わずに去った。 そして季節が変わり、U−17の合宿の招待と共に再び日本に戻って来た。 だけど手塚がドイツに行くことまでは予想出来なかったようだ。 戻って来ても迎えたメンバーの中に手塚がいないことを知り、越前はがっかりしたような顔を見せた。 成長した自分を見て欲しかったのだろう。 越前は常に手塚に認めてもらいたがっている所がある。 あの視線は、真っ直ぐにただ一人に向けられたままだ。 でも手塚がいなくなった今なら、ひょっとしてなんてずるい考えが浮かぶ。 会わないままでいたら、会えないままが続いたら、越前だっていつか忘れるかもしれない。 僕にだって、チャンスがあると考えてもいいはずだ。 いつもより寂しそうな越前の横顔を見て、そんな風に考えた。
負け組が帰って来てすぐに一軍の下位ナンバーとのひと悶着があって、 今度は代表を決める為の試合が始まることになった。 全く、落ち着かないことだ。 明日に備えて各自で調整をすることになる。休息を取る者、トレーニングに励む者と、方法は人それぞれだ。 僕は軽く汗を流した後、飲み物でも飲もうと食堂に立ち寄る。 そこで一番コートの徳川と越前が並んで歩くのを見掛けた。 二人共ラケットを持っている。 今から、テニスをするのだろうか? まだはっきりとした実力は明かされていないが一番コートにいるからには相応の選手であろう徳川が、越前を練習相手に誘うなんてどういうつもりだ。 この合宿に参加した中学生のことを少しは認めてくれている、ということか。 いずれにしろ放っておくことは出来なくて、僕はこっそりと二人の後をつけた。
僕が物陰から見ているとも知らず、越前と徳川は誰も使っていないコートに移動して打ち合いを始める。 それは試合というよりも、一風変わった練習のようだ。 ボールをいくつも放って、それぞれのコートに返して行く。 その中の一つがどんな所に飛んでも全て返し続ける。普通なら無理なことなのに、二人共動じることなく互いのコートに打たれたボールを返している。 一体、越前はいつの間にこんなことが出来るようになったのだろう。 徳川と越前は真剣だけど、まだ少し余裕のある顔で打ち合っている。 その間にボールの数を増やして、最終的に10球を超えたところで二人は練習をここまでと言って切り上げた。
「明日の試合い備えて、今日はもう終わった方がいい」 「そうっすね」 「意外」 「何が?」 「もっとやりたいと食い下がってくるかと思った。この間の勝負も預けたままだったから」 徳川の問いに越前は少し首を傾げ、「でも明日のこともあるから」と言った。 「選抜メンバーに入ることが、そんなに重要?」 コートは無人で、他からも少し離れている為にとても静かだ。 二人の会話だけが、僕の耳に入って来る。 こっそりと立ち聞きしているなんて、きっと知らないのだろう。
「重要っすよ」 越前は声を低くして言った。 「もっと強くなって、それで世界とも渡り合える位になりたい。 こんなところで足踏みしているんじゃ話しにならないっすよ」 その目は遠くを見ていた。 ああ、きっとドイツにいる手塚のことを思っているんだろうなと、僕にはわかった。 日本代表なんて、小さな目標に過ぎないんだ。 いずれ手塚がいる所まで名前が知れるような、そんな選手になると越前は決意している。
「強気だね。でも、一軍の上位メンバーはそれほど甘くないよ」 「わかっているっす」 頷く越前に「そう、頑張って」と意外にも徳川が励ましの言葉を掛けた。 「うん……、あんたもね」 「俺は負けないよ。今度こそ、勝ってみせる」 顔を見合わせてどこか意気投合した二人は、コートから去って行く。 今日はもうこれで休むことにしたのだろう。 明日の試合が本番だ。 ここから合宿所へ向かって行く越前の背中から、僕は目が離せないまま立ち竦んでいた。
越前は手塚へと向かって迷うことなく進んで行くのだろう。 どこまでも脇目を振らずに一直線に。 僕は、どうしようか。 越前が手塚しか見ないように、僕もまた越前にしか気持ちが動くことはない。 だとしたら僕も同じようにいつか届くかもしれないと信じて、強くなっていくしかないのだろう。
振り返ることのない人を追っているという点で、僕らはとてもよく似ている。 諦めが悪いという点も。 そんな共通点を見つけても嬉しくないなと苦笑いしようとして失敗する。 今笑うのは無理だった。
どちらかというと、泣きたい気持ちの方が近かったからだ。
終わり
チフネ

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