チフネの日記
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| 2011年10月23日(日) |
秘密の恋でもかまわない 不二リョ |
仲良く手を繋いで歩いて行く男子生徒と女子生徒の姿に、リョーマは顔を上げた。 普通なら気にもしないところだが、不二を待っていて暇だったのだ。 何気ない光景にも、視線が向いてしまう。
校内だというのに人目を憚ることなく手を繋いでいる二人。 きっと周囲にも公認の仲なのだろう。 楽しげに話をしながら歩いて行く。 恋人という名称がしっくりとくる、とリョーマは思った。
それに対して、自分はどうだろう。 不二と付き合っているとはいえ、大っぴらに公言出来る仲ではない。 同性同士、だから。堂々と言えるものじゃない。 ましてやあんな風に手を繋いで歩くことなんて出来ない。 小さな子供ならともかく、中学生男子がそんなことしていたら周囲からなんて思われるか。
別に、手を繋ぎたいわけじゃない。 人前でベタベタするのは苦手なので、万一不二に繋ごうと言われても「ヤダ」と自分は断るだろう。 だったら、何故こんな気持ちになるのか。
先ほどの二人の背中は、遠くなっている。 それでもまだ手を繋いだままでいるのは、ここからでもわかる。 そんな二人の当たり前のような幸せが少しだけ羨ましくなったのかもしれない。
(もし、俺が女の子だったら、不二先輩とあんな風に過ごすことが出来るのかな)
普段なら考えないような思考に、リョーマは慌てて首を振る。
不二は、ありのままの自分を好きだと言ってくれた。 男だからとか女だからとかそういうのは関係ないと、真剣な顔して言った告白に、 リョーマの心が動いた。 思いを受け入れたことに、後悔なんてあるはずない。 不二と一緒に居るのが楽しくて、嬉しくて。 このままでも幸せとわかっているのに、それ以上のものを望んでしまうなんて贅沢だ。
(手を繋げない位、なんだよ)
バカらしいと否定したところで、「お待たせ、越前」と不二の声が聞こえた。
「不二先輩」 慌てて、リョーマは寄り掛かっていた壁から背を離した。 「思っていたより遅くなっちゃった。別の先生に捕まって、話が長くなったんだ。ごめんね。 お詫びにファンタ買うから、許してくれる?」 お詫びじゃなくても不二はよくリョーマの為にファンタを買ってくれるのだが、 話に乗った振りをして、「いいっすよ」と答えた。
「じゃ、帰ろうか」 不二の笑顔に、こくんと頷いて並んで歩き始める。
するとさっきの二人の姿を思い出し、リョーマは急に空いている距離が気になり始めた。
手と手を繋いで幸せいっぱいの空気を振り撒いて、この人が好きなんだと周囲に知らしめているような、そんな恋人同士の二人。 自分と不二が並んでいても、そうは見えないんだよな……、と少し寂しく思う。
「どうしたの、越前」 「え?」 「何か、元気ないね」 見透かすように言う不二に、「そんなことないっすよ」と否定する。 だけど聡い不二は「嘘。何か考えているんでしょう」と追求をして来た。 「悩んでいることがあるなら、言って欲しいな。 越前からしたら、僕なんて頼りないかもしれないけど」 「そんなこと無いっすよ!」 「そう。だったら、話してくれるよね」
にっこりと笑う不二に、しまったと思うが遅い。 じっと見詰められて、渋々口を開く。
「不二先輩は、その……俺が女の子だったら良かったって思ったりしないんすか?」 「は?え、何、どういうこと」 「だって、本当なら女の子と付き合うのが普通でしょ。もし俺が女だったら、もっと楽に付き合えるんじゃないかって思って」
リョーマとしては決死の覚悟で言ったつもりだったが、 黙っていた話を聞いていた不二は「なあんだ、そんなことか」と肩から力を抜いて笑った。
「前にも言ったよね。僕は今ここにいる越前のことが好きだって。 性別なんて関係ない。 一緒に居てくれる、そのままの越前が好きだよ」 「でも」 反論を遮って、不二は続ける。 「それに普通って何?そうしなくちゃいけないって誰が決めたの? 越前が男の子だからって好きになっちゃいけない、そんな世界なんて僕は嫌だよ。 誰に反対されたって、僕は越前のことが好きなんだから」 「……」
誰に聞かれるかわからないのに、そんなこと言うな、と怒る気になれなかった。 不二の言葉によって、さっきまで沈んでいた気持ちが浮上するのがわかった。 恥かしげもなく好きと言われたら、悩んでいるのがバカらしくなってしまう。
「でも、なんで急にそんなこと思ったりしたの?」 首を傾げて顔を覗きこんで来る不二に、「えーっと、」と口篭る。
「越前?」 「……」 「何があったのかな?」
最後まできっちりと聞かせてもらうと、顔を近付けてくる不二に観念する。 リョーマは先ほど浮かんだ考えを全て吐き出した。
通り掛っていた二人が堂々と手を繋いでいて、ちょっとだけ羨ましかったこと。 話しながら、リョーマの顔は赤くなっていた。 恥かしい。こんなことで悩むんじゃなかったと後悔もしていた。
「ふうん。じゃあ、僕らも手を繋いで帰ろうか。 越前が望んでいるようだから、遠慮なく」 言うと思った。 慌ててリョーマは体を引いて、「絶対ヤダ。出来るわけないじゃん」と言った。 「だって羨ましかったんでしょ?」 「そうじゃなくって……。もういい、気が済んだから」
誰かに認められなくてもいい。 ただ不二を好きだという気持ちがここにあって、そして同じだけ返してくれる、それこそが幸せだと理解した。 当たり前に過ぎて行く日々こそを大切にすればいい。 そう結論を出したのだが、不二は納得してくれない。
「えー、気が済んだって何? 僕は越前と手を繋いで帰りたいんだけどなあ」 「だからヤダって言ってるじゃん」 不満げな声を出す不二にきっぱりと断りを入れるが、まだ食い下がって来る。
「どうせ誰も見ていないよ。だから、いいよね」 「そんな根拠がどこにあるんすか」
やっぱり余計なことは言うんじゃなかった。 溜息をついて、手を伸ばしている不二に「しないっすよ」と返事する。
でもそれだけだとあまりにも素っ気無いかと思い直し、 「どうせだったら、先輩の部屋で恋人しか出来ないことしてみない?」と誘いの言葉を口にした。
目を丸くした後、不二が大きく頷いたのは言うまでもない。
終わり
チフネ

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