チフネの日記
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| 2011年10月04日(火) |
それよりも、君が側にいてくれること 跡リョ |
退屈なパーティー。誰の為の誕生日だというのだろう。 愛想笑いをしつつ、跡部は心の中で何万回目かの溜息をついていた。 この中の何人が自分の誕生日を心から祝っているのだろう。 きっと一人もいないな、と考える。 ここにいるのは跡部の家との繋がりで付き合いとして来ている人々ばかりだ。 勿論それについて責めることは出来ない。 これもビジネスの中の一つだ。 跡部家の子息として相応しい振る舞いをするべきだ。今まで教えられた通り、ちゃんとやれる。 たとえ両親がこの場にいなくても、その程度の処世術も身に付けている。 愛想よく振る舞い、利用出来る者とそうでない者を見抜いて振り分けて行く。 これからも、そうやって生きて行く。 自分の道はここにあると早くから自覚していたはずなのに。
今年に限って不満に思うのは、リョーマに出会ったからだ。 損得無く、心から好きになった跡部の大切な人。 その人と一緒に誕生日を静かに過ごしたいと思って何が悪い? 自分だって人並みの幸せが欲しい。 誕生日くらいは恋人と一日ゆっくりいちゃいちゃとした時間を楽しみ、祝ってもらいたい。
だけど、そんな我侭も通せない。 跡部の家を背負っている以上、勝手な振る舞いは許されない。 もし、パーティーを放り出してリョーマとの時間を選んだら、 両親は決して許さないし、その原因の追求に乗り出すだろう。 そうなったら、リョーマに迷惑が掛かる。二人の中を引き裂くために、どんな手段を選ぶかはわからない。 今はまだ、リョーマを守れるほどの力を持っていない。 だからこそ大人しくしている必要がある。 どんなに一緒に居たくても、いられない。 その事情はリョーマもよくわかっていて、「しょうがないよね」と笑って受け入れてくれた。
「跡部さんが、色んな付き合いを大事にしないといけないのはわかってる。 俺は、こうして一緒に誕生日の朝を迎えただけでも充分っすよ」
当日を共に過ごせないのなら、せめて前日は泊まりに来て欲しい。 跡部の我侭を、リョーマはあっさりと叶えてくれた。 普段はヤダとか、なかなか言うことを聞かないくせに、こんな時はすんなりと跡部の望みを受け入れてくれる。 平日の泊まりということで父親に色々文句を言われたようだが、絶対に遅刻しないという約束をして、跡部の元へと来てくれた。 一番最初に「おめでとう」と言って、キスしてくれた。 そんなリョーマを放せないと思ったが、いつまでも引き止めていたら父親との約束を破ることになる。 渋々車で学校へと送って、また明日会おうなと約束した。
(あいつの顔が見たい。今すぐに、だ)
こんなおざなりの「おめでとう」を言う連中とでなく、リョーマと過ごしたい。そんなささやかな望みも、今は叶わない。 強張りそうな顔をどうにか笑顔にして、いつになったら叶えられる力を得られるんだろうなと、そんなことばかり考えていた。
結局、お開きになったのは22時を過ぎてからだった。 平日で、明日も学校がるという跡部の立場を考えてか、それ以上ぐずぐずと留まっている客もおらず、それぞれ帰って行った。 (疲れたな……) 風呂に入って明日の支度を終えたら、今日は寝てしまおうかと考える。 いつもより早い就寝となるが、くだらない話に延々と付き合っていた所為で気力が消耗している。 (早く明日になればいい) そうしたらリョーマの顔が見られる。。部活があるからその後でしか会えないが、それでもいい。 上辺ばかりの会話をしていた所為か、遠慮も何もないリョーマの言動が無性に恋しくなっていた。 (こんなこと位で疲れるなんて、俺もまだまだ、だな) リョーマの立場を守る為にも、自分は強くならなくてはいけない。 早く大人になりたいものだと、そっと溜息をつく。
「景吾様」
使用人の声に、跡部は慌てて背筋を伸ばした。 まだ気を抜いていい時間ではない。しっかりしなくては。 「どうした」 「お客様がいらしています。今、客間にお通ししました」 「こんな時間に?誰だ」 非常識だな、と顔を顰める。招待状を出さなかった誰かが終わった頃を見計らって挨拶にでも来たというのか。迷惑な話だ。 しかし誰かわからないのに、追い返せとも言えない。 今後両親の仕事に繋がるような人物なら、丁重にお迎えするべきだ。 「誰だよ。名前は聞いたのか?」 「それが、いらしているのは越前様で」 「リョーマが!?」 「はい、」 最後まで聞かずに、跡部はその場を飛び出した。
どうして、リョーマがこんな時間に家に来るのか。 何かあったのかと逸る気持ちで廊下を走る。 目的地のドアを慌しく開けると、「走っている音、聞こえたっすよ」と立ち上がったリョーマが笑顔を浮かべて言った。
「お前、どうしたんだ……こんな時間に、家出か?」 よく見ると、リョーマは昨日と同じようにラケットバッグを持っている。 服装は違うから一旦家に帰ったのはわかる。 着替えてから学校に行く準備をして、またここに来たのだろう。 「家出なんでするわけないじゃん。親父とはちょっとケンカしたけど、何とかなるでしょ」 「ケンカ?どうして」 「今日もここに泊まるって言ったら怒られた」 真っ直ぐこちらを見て言うリョーマに、「今日も?どういうことだ」と尋ねる。 約束なんて、勿論していない。パーティーが何時に終わるかも伝えていなかった。 それなのに良く来たよなと、味跡部は首を捻る。 父親に怒られてまで、来る必要があったのか、と。
すると、「だって昨日、俺に散々愚痴っていたじゃん」とリョーマは少し呆れたように言った。 原因はお前にあるというような言い方だ。 「パーティーなんて面倒だ。つまらねえ、疲れるだけだって言っていたの忘れたんすか?」 「いや、それは忘れてないけど、なんでお前がここに来ることになるんだ?」 「だから!そんなのに付き合わされて、へとへとになっているんじゃないかと思って様子を見に来たんだけど?」 「……」
それ位わからないのか、とリョーマは少し責めるように言った。 あまりに意外な理由だったので、跡部は返事をするのに少し遅れた。 まるで、心配されているような。 (違うか、本当に心配されているんだな) 年下のこの小さな恋人の気遣いに、じんわりと心が温かくなる。 だけど、全面的に受け入れるわけにもいかない。 時間も遅く、しかも父親の反対を押し切って来たというのはやはり良くないことだ。
「見に来たってそんな理由かよ。親父さんとケンカするまでのことじゃねえだろ」 本当は嬉しかったが、ここは年上らしくたしなめるべきだ。 リョーマの負担になるようなことはあってはいけない。 両親の心証が悪くなることは避けて当然のことだ。
そんな風に思う跡部に対し、リョーマはフッと小さく肩を竦めた。
「好きな人のことを心配するのは当然じゃないっすか。 親父が何を言おうが関係ない。 俺がそうしたいから、ここに来ただけっすよ」 「リョーマ」 「でも迷惑だって言うのなら、帰るけど」 「いや、駄目だ。帰るな!」 荷物を手にして今にも部屋から出て行きそうなリョーマの肩を掴み、引き寄せてぎゅっと抱き締める。
「来てくれて嬉しかった。つまらねえパーティーなんかより、やっぱりお前といる方がずっといい」
本音を伝えると、「知ってるよ」とリョーマは腕の中で笑った。
その笑顔に、疲れもどこか飛んでいくのを感じる。全く、現金なものだ。 疲れているだろう恋人を気遣って来てくれた気持ちは、どんな豪華なプレゼントも敵わないだろうな、と跡部は思った。
「ところで明日、俺のこと家まで送って行ってくれるっすか?」 「当然だろ、そんなの」 「多分、親父が嫌がらせして家に入れてくれないと思うから、一緒に言い訳考えてくれる?」 お願いというように見上げて言うリョーマに、「ああ」と跡部は頷いて、髪にキスを落とす。 それ位、お安い御用だ。
「俺の為にここまで来てくれたんだからな。言い訳でも謝罪でも、一緒にしてやるよ」 「じゃあ先に言っておくけど、殴られそうになったらすぐに逃げてよ」 「なぐっ……!?」 「何、怖いの?」 「そんなわけないだろ!」
覚悟はしないといけないなと思いながらも、 明日のことはその時考えればいいか、と直ぐに頭を切り替える。 今は何より、リョーマが近くにいることを感じていたい。
「まだ、俺の誕生日は終わってねえ。最後まで付き合えよ」
自室に行こうとリョーマの手を引っ張ると、 「いいよ」と素直に頷いてくれた。
今日という日の締め括りは、気分良く終われそうだ。
終わり
チフネ

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