チフネの日記
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| 2011年10月02日(日) |
二人、間違う 不二→←リョ |
不二side:
こんなつもりじゃなかった。 何度も不二は心の中で繰り返した。 自分が間違っていること位、わかっている。 だったら、今すぐにでも止めるべきだ。まだ間に合う。 拘束している手を自由にして、彼の上からどいて、それから謝罪をする。 許してもらええなくても、謝るべきだ。悪いことしたら、「ごめんなさい」と言う。幼児だってわかる、簡単なこと。 殴られても、蹴飛ばされても謝り続けなければならない。 どんな仕打ちを受けても謝罪しか口にするべきではない。 ごめんなさい、ごめんなさい、と。
(わかっているのに、どうして)
不二は自分の下でもがくリョーマを、冷静に見詰めていた。 嫌だ、止めろとさっきから拒絶の言葉を吐いている。 拒絶。そうだ。リョーマは自分を受け入れようとしない。 当然だろう。好きでもない男に組み敷かれて、抵抗しないバカはいない。 リョーマが好きなのは自分では無い。 他の男を想っているのだ。
「越前」
謝罪をするべきなのに、出たのは全く違う言葉だった。
「暴れても無駄だよ」
どうしてだろう。ごめんなさい、が出てこない。 どこで自分は間違えたのだろう。
「どうせ誰も来ない。 君の大好きな手塚も助けに来ない。可哀相に、ね」 「なんで、」
大きく目を見開くリョーマに、こんな時だというのに不二は笑った。
気付かれていないとでも思ったのだろうか。 リョーマが手塚を特別視しているのは誰の目から明らかだった。 手塚がコートに出る度、ラケットを振る度、熱心に視線を注いでいる。もはや執着、と言ってもいい。
あれが自分に向けられたら、どんなに良いだろう。 何度も思うたびに、不二の心の中で淀んだような感情が溜まっていった。 決して一番になれない自分。どんなに走っても追いつけない、手塚との実力の差。 そして入学以来目を付けていたリョーマの心さえ、手塚に向けられている。 もう限界あった。 このままでいても手塚に敵わないのなら、いっそ力尽くで奪ってしまたい。
そして、チャンスが訪れた。 手塚は今、腕の治療の為に九州に行っている。 大石も氷帝との試合前に怪我した腕を見てもらう為に病院に行くと言って部活を休んだ。 「だったら今日は僕が部室の鍵を預かってあげる」 不二の申し出に大石は疑うことなく、鍵を差し出した。悪いな、とまで言ってくれて。 後は、簡単だった。 部活が終わった後、ちょっとだけ打っていかないかとリョーマを誘うとすぐに乗って来た。 中断された雨の日の試合の続きをしたがっているのは前からわかっていた。
「今度は俺が勝つっすよ」 疑いもなく言うリョーマに、不二は「そう、頑張って」と曖昧に微笑んだ。 この後、何が待ち受けているかなんて想像もしていないのだろう。なんて馬鹿で無防備な子なのか。 一時間程打った後、暗くなったのを理由に終わりを申し出る。 勝つまでは止めないとリョーマはごねたが、これ以上残っていたら怒られるよと宥めて、片付けに入る。
「また決着がつかなかった。 今度、フルセットで相手して下さいよ。曖昧なままで終わるのってムカつく」 「はいはい。それよりさっさと部室に行くよ」 急いでね、と言うとリョーマは疑いなくついて来た。 先にリョーマを部室に入れて、不二はそっと鍵を閉めた。 見回りが来ると厄介なので、電気も消す。
「不二先輩?なんで、電気消したんすか?」 戸惑うようなリョーマの声に構わず、無防備でいる小さな体を抱き締める。 「不二先輩……?あの、」 「ねえ、越前」 逃さないように、ぎゅっと抱き締めたまま耳元で囁く。 ああ、やっと捕まえることが出来た。嬉しくてたまらない。 こんなこと間違ってるのに、わかっていても止められない。
「今日はもう帰れないよ」
君の心が手塚に向いているのは知っている。 だったら、無理矢理でも壊してでもこっちを向いてもらおうか。
リョーマside:
こんなこと、間違っている。 不二の体を必死で押し退けようと、リョーマはもがいていた。抵抗していた。
「手塚は助けに来ないよ。悲しい?辛い?」
問い掛けて来る不二に、何を言っているんだろうと思った。 どうしてここで手塚の名前が出て来るのか、リョーマにはわからない。 何か誤解させるようなことがあったのだろうか。 勿論、リョーマは手塚のことはある意味、意識している。 それはいつか追い抜いてやりたい、勝ちたいという気持ちが強い。 実力は認めている。同世代の中では、手塚が一番かもしれない。 だけど、それだけでだ。 不二の言う意味で手塚を思っているわけではない。 なのに勘違いしたまま、不二は自分を暴こうとしている。
リョーマの頭の中に浮かんだのは嫌がらせという言葉だ。
不二は、手塚のことが好きなんだろうか。 それで周りをうろちょろしている自分が気に入らないから、こんな風にして遠ざけようとしているのか。 歪んでいる。 手塚のことが好きなら、こんなやり方をするべきではない。 大体、自分よりも手塚の周りにはファンだとかいう女子生徒達が沢山いるではないか。 そっちの方がよっぽど脅威のはずだ。女子、というだけで手塚に堂々と告白して恋人に発展する可能性が高い。 同性の、ただの後輩でしかない自分に危機感を抱くなんて不二は本当にどうかしている。
(そんなのもわからない位……)
よっぽど、手塚のことが好きなのか。
考えて、リョーマは悲しくなった。
不二に居残り練習を誘われて嬉しかったのに、待ち受けていたのがこんな結末だなんてあんまりだ。 手塚のことを好きで、自分を組み敷いてまで牽制しようとする不二の心に悲しくなる。 そんなに好きなら、手塚に言えばいいんだ。裏で妨害するよりも、よっぽど近道だ。 でもそれで上手く行ったら、もう不二は一切自分のことなど見てくれなくなるだろう。 憎まれても、こうして存在を認めてくれる方がよっぽどマシだということにリョーマは気付いた。
嫌がる振りをしても、リョーマは全力では抵抗しない。 衣服を剥ぎ取られても、不二の手が乱暴に体を撫でても本気を出して突き飛ばすことはしない。
「越前……」 こんなことしているくせに、不二の声は優しい。そして悲しげにも聞こえた。 手塚を思って、泣いているのだろうか。 今だけは自分を見て欲しいのにと、リョーマも泣きそうになる。
「ごめんね」
謝罪の声の共に激痛が走る。 痛みの所為にして、リョーマは涙を零した。
こんなことは間違っているのに、不二が自分を抱いてくれるなんて嬉しいなんて。
どうかしている。
小さく呟いた声は不二に届くことなく、静かな空気の中に消えて行った。
終わり。
チフネ

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