チフネの日記
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| 2011年09月25日(日) |
仲直りはクッキーの味 跡リョ |
(今日も、メール無しか)
リョーマがマメな奴じゃないことはわかっている。 だけど期待してしまう自分がいて、嫌になる。 こんな時に、連絡を寄越すわけが無いのに。
本当ならこちらからするべきなのかもしれない。 しかし拒否されるのが怖くて、出来ないのだ。 臆病者だと、跡部は自分を笑った。
だったら、あんなケンカをしなければ良かった。 つまらないことを言って、怒らせた。今は後悔している。
(わかってる。全部、俺の勝手な言動の所為だ)
自分と一緒にいるのに、同じ部の先輩から来たメールに返信するのを見て、腹が立った。 そいつらとは毎日会える。なのにそっちを優先するとは、どういうことだ。 怒る跡部に、リョーマは最初は何を言われているのかわかっていないようだった。 「明日の朝練のことで連絡回って来ただけっすよ。 わかったって返事しただけなのに」 「俺といる時にするなって言っているんだ。帰ってからでもいいだろが」 すると、リョーマは傷付いたような顔をした。 言い過ぎた。 直ぐに反省するが、口から出た言葉は取り返せない。 口篭る朝練に、リョーマは静かに切れた。
「そんなことまで、あんたに干渉されたくない」 「そんなことだと?」 「くだらない。たかが1分も掛からないことも我慢出来ないんすか。カルピン以下だよ」 「てめえ、俺が猫以下だって言うのか」 「猫の方がいい。比較するのも失礼だね」 「……」
リョーマが帰る!と怒って出て行くまで、言い争いは続いた。
今になって思うと、くだらない話だ。 冷静になると、たかが連絡網にあそこまで熱くなる必要は無かった。 少しだけ我慢すれば良かったのに。
(リョーマに対してだけ、抑えが利かない)
これまでの女性関係は付き合ったと言えないようなあっさりしたものばかりだ。 去るものは追わない。しつこしくされたら、すぐに終わりを告げる。 相手が他の誰かと電話しても、興味など無い。 こんなにも心を乱すのは、リョーマだけだ。 独占したい。他の誰かが近付くのが許せない。 特に青学の連中は無条件で信頼を得て、リョーマと毎日会えるのだ。嫉妬するのも当然だ。 ただの言い掛かりだとわかっても、腹立つものは仕方無い。
しかしこちらから歩み寄らなければ、いずれリョーマから三行半を叩きつけられるだろう。 いや、既に呆れられているかもしれない。 子供みたいに我侭を言う跡部に愛想を尽かし、青学の誰かと付き合うことを決めたということも……。
(まだ俺の妄想に過ぎない。落ち着け)
気持ちを静めるように、大きく肩で呼吸をする。 先走った考えで絶望している場合ではない。 謝罪は苦手だが、この際形振り構っていられない。 リョーマの所へ行こうと、跡部はようやく決意した。 さすがにメールで「悪かった」の一文で済まされないこと位はわかっている。 顔を見て、謝ろう。
(で、来てみたのはいいが……)
「景吾様、いつまで走っていれば良いのですか?」 さっきから車は越前家の周りをぐるぐると走っているだけだ。 不審な声を出す運転手に「もう少しだ」と跡部は告げた。 心の準備が出来ていない。 リョーマと会う勇気が後一歩足りないのだ。 いっそのこと出直そうかと考えた瞬間、越前家の玄関が会いた。
「リョーマ!?」 跡部の声に驚いたのか、運転手が急ブレーキを掛ける。 前につんのめりそうになるのを、手で咄嗟に堪える。 その間にリョーマは車に向かって走って来た。 そして窓を小さくノックする。 慌てて跡部はドアを開けた。
「何してんの。人の家の周りを何度も走って、近所迷惑なんだけど」 「あ……。いや、悪かった」 そんなつもりでは無かったが、思った以上に目立っていたようだ。 溜息をつきながらリョーマは「ここで話をするのもなんだから、家に上がって」と言う。 「だけど」 「車はどこか余所にやってよ。この辺に停めると道が塞がれるから」 「あ、ああ」 話をしに来たのだ。リョーマから家に入ってと言われて、断る理由も無い。 跡部は運転手に一度家に帰るよう指示を出し、車を降りた。
リョーマの後に続き、家の中に入る。 さっきドアを開けた時にも思ったのだが、リョーマの体から何だか甘い香りがする。
(菓子でも食っていたのか?それとはまた違う気がするが)
家の中に入ると、その香りがもっと強くなる。 そうか。菓子を焼いているのかと、納得する。 同居しているリョーマの従姉はよく菓子作りしている。 ここに来るとお茶と一緒に出されるので、跡部も何度か食べたことがあった。
すると奥からその従姉が「リョーマさん。早かったですね」と顔を出した。
「あら、跡部さん?」 「こんにちは」 挨拶をすると何故か彼女は「まあ、丁度良かった」と笑って手を合わせる。 「ねえ、リョーマさん。手間が省けましたね」 フフッと微笑む従姉に、わけもわからず跡部は首を傾げる。 「菜々子さん、しーっ。 跡部さんは俺の部屋に行ってて。お茶、持って行くから」 「いや、気を使わなくても」 「いいから!先、行ってて」
追い立てられるようにして、跡部は階段を上った。 一体、なんなんだ。 何を隠している?
リョーマの部屋のドアをそっと開ける。 相変わらず散らかっていて、空いているスペースに腰を降ろした。 室内をぐるっと見渡し、ここに来るのが今日で最後にならないようにと願う。 その為にも、これからの会話が重要になる。 上手く出来るだろうかと、跡部は柄にもなく緊張していた。
「お待たせ」
リョーマの声に、ぴくっと反応する。 思わず正座すると、「何、改まってんの」と苦笑交じりで言われる。 「いつも通りにしたら?なんか、あんたらしくないっすよ」 リョーマは片手にトレイを持っている。ジュースが注がれたグラスと、クッキーが入った籠が乗せられているのが見える。 さっき従姉が焼いていたものだろうと、察する。
「あのさ、跡部さん」 トレイを持って近付いて来るリョーマに、、「この間はすまなかった!」と跡部は勢い良く頭を下げた。 「え、どうしたんすか」 困惑してるのがわかったが、構わず謝罪を続ける。 「自分でも大人気ないことをしたと反省している。 もう、あんなことは言ったりしない。だから別れるなんて言わないでくれ!」
必死、だった。見捨てられたりしたら、どうしたら良いかわからない。 考えただけで、泣きそうになる。 こんな見っとも無い謝罪を受け入れてくれるかわからないが、他にやり方を知らない。
何も言わないリョーマにやっぱり怒っているのかと、下げたままの頭をそのまま床に突っ伏したくなる。
だが、「別れるなんて言うつもり無いけど」と、さっきより柔らかい声が聞こえた。 「本当、か?」 恐る恐る顔を上げると、「うん」とリョーマは頷く。 「この間はムカついたけど、俺ももう少し冷静になるべきだった。その点は反省している」 「リョーマ」 「けど、連絡網くらいは許して欲しいんだけど。 跡部さんのことを蔑ろにしているわけじゃないんだから、理解してよ」 「わってる。この間のは気の迷いだ」
本当はまだちょっとだけ青学の連中に対して嫉妬する気持ちはあるのだが、そんなの挙げていたらキリがない。 どこかで折り合いを付けるしかない。リョーマとこの先ずっと付き合う為にも、自分の気持ちをコントロールするべきだ。 まだまだ成長が必要だと、跡部は呟いた。
「それで。はい、これ」 「なんだよ?」 トレイを押し付けられて、跡部はぽかんと口を開けた。これが、なんだと言うのだ。 今の話と関係あるのか。 「クッキーだよな?菜々子さんが焼いたんだろ」 「よく見てよ」 「……?」 丸型のクッキーにチョコレートペンで模様が描かれている。 菜々子にしては歪な模様だ。一枚一枚違うのかと確認すると、それが文字だということに気付く。
「タイギスメンゴイ?何の暗号だよ」 「あ、持って来る途中で入れ替わった!」
慌ててリョーマは籠の中身を手で弄り始める。 一体何なんだと、先ほど読んだ文字を頭の中で反芻する。
(イタイスギ?違うな。ダイスキ…?って、違う文字入っているじゃねえか)
考えている間に、リョーマが「はい」と改めて籠を差し出して来る。
「イ・イ・ス・ギ・タ・ゴ・メ・ン……。お前、これって」
顔を上げると、「な、菜々子さんが素直に話せないのなら、こうするのがいいって言うからアドバイスに従っただけ」と顔を赤くしたリョーマが目に入る。
「これ、お前が作ったのか?」 「ほとんど菜々子さんに手伝ってもらったけどね。でも、文字は俺が書いた」 「……」
リョーマの手作りクッキー。 感動で、跡部は言葉も出ない。 こんな可愛い仲直りをしてくるやつ(例えそれが従姉の入れ知恵でも)、他にいない。
「一緒に食べよう。それでこの間のことは水に流す。それでいいよね?」
にこっと笑って一枚のクッキーを差し出すリョーマの手を、跡部は掴んだ。
「どうしたんすか?」
どうもこうもない。 どれだけ嬉しいか、リョーマはわかっていないらしい。
「食べたくないんすか?」 違う、と首を振って、跡部は答えた。
「そうじゃなく、勿体無くて食べられそうにない」
永久的に保管するのは可能だろうか。
見る度に自分のバカさ加減と、これを作ったリョーマの気持ちをする思い出す為にも、 このままずっと残しておきたい。
真剣な顔して主張する跡部に、リョーマは「またそんなことわけわかんないこと、言い出して……」と呆れた顔をする。
「いいから、食え!ほら!」 「おい、越前!」
口を開けた所に、無理矢理クッキーを詰め込まれる。
仲直りする為に作られたそれは、とても甘い味がした。
終わり
チフネ

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