チフネの日記
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| 2011年09月18日(日) |
不二リョ 諦めの悪い恋 不二→リョ(塚←リョ要素有り) |
施設の一部を壊し搔けた枕投げの所為で、僕らは全員廊下に正座させられた。
だけど、その中に越前の姿だけは無かった。 逃げたのかな、と考える。越前なら、コーチに命じられても面倒くさいとさっさと部屋に入って寝ていそうだ。 でもそれなら同室の遠山君が「コシマエだけ、ずるいわー!」と騒ぎそうなものだ。 おかしいなと思い、解散時に僕はこっそり遠山君に話し掛けてみることにした。
「ねえ。越前は?一緒に枕投げしてたんじゃないの?」 遠山君はきょとんとした後、「コシマエなら、飯食ってからずっと姿見てないで。枕投げしようとわいも探しとったんやけどなあ」と言った。 「そう、なんだ」 「あいつ、どこに行ったんやろ。おーい、コシマエー!」 騒ぎ出した遠山君を「金ちゃん、もう遅いから静かに、な」と白石君が包帯を外しながら言う。 そしてこれから説教と、ずるずると引っ張って行ってしまった。
(越前、どこに行ったんだろう)
無意識に彼を探してしまう自分に、未練がましいなと思う。 だけど、好きなんだから仕方無い。 例え一度振られたって、気持ちが消えてしまうわけではない。 好きでいるのは、自由だと思う。 越前の迷惑にならない範囲なら構わない、といい訳をする。
「あ、ひょっとして……」
ふと思い立って、コートへと向かう。 そうだ。越前がやる事と行ったら、一つしかないじゃないか。 なんで思い付かなかったんだろ。 早足で外に出る。
(居た)
照明はとっくに消えていて、街灯の光だけを頼りにして、越前は壁打ちをしていた。 中で起きた騒動など気付かず、ここで一心不乱に打っていたに違いない。 負け組が復帰出来たからといって、浮かれるような彼ではない。 目指しているのはもっと上の、……考えたところで嫌になる。
(嫉妬したってどうしようもないって、もうわかっているんだけどな)
手塚のドイツ行きを聞いた時、越前は一瞬裏切られたような顔を見せた。 正直過ぎる反応に、ああ、やっぱりなあと思うしかない。 越前はこの合宿所で手塚と居られることを楽しみにもしていたんだ。 もっと一緒に居られると思ったのに当てが外れてがっかりしている。 だって、越前は手塚のことが好きだから。特別な存在だと思っている。 伊達に片思いしていたわけじゃない。 越前の気持ちがどこに向いているか位、知っていた。
(なのに告白するなんて、我ながら無謀過ぎだったな……)
好きだよと、無意識に口から出ていた。 当然、越前は驚いていた。 それは僕も、同じだった。言うつもりは無かった。 手塚のことが好きな越前に言ったとしても、振られるのはわかっている。 なのに、部室に二人きり。 越前が珍しく可愛い顔を見せたものだから、うっかりというか、つい言ってしまった。
当然というか、結果は振られた。
『俺、そういう意味で不二先輩のこと考えられないっす』
だよね、と頷くしかなかった。 わかり切っていたことだ。 聞いてくれてありがとう、とだけ言って、会話を打ち切った。
越前はあの告白は聞かなかったかのように、翌日もそれからも前と変わらない態度で接してくれた。 有り難いのだけど、もしかして全然心に届かなかったのかなあと、少し落ち込んでしまう。 これが手塚からの告白だったら……。 顔を赤くして「はい」と答えるんだろうか。 考えても仕方無いことなのに、想像をして勝手にまた沈んで行く。
(しょうがないんだけどね。手塚は本当に強いし、越前が気にするのも無理はない)
ドイツに行く前に、一度だけ試合してと頼んだら、あっさりと了承してくれた。 全国大会での約束を覚えてくれていたみたい。 全力を出してくれた手塚に、僕も懸命に応えた。 今なら勝てるかもしれないって、気持ちの上でも負けるつもりは無かった。
だけど、後一歩が届かなかった。
(あーあ。結局、勝ち逃げされたか……)
せめて試合に勝っていたなら、もう少し自信持って越前に話掛けることが出来たと思う。 だけど、まだ手塚に及ばない僕は越前が壁打ちしているのを見てるのが精一杯で。
(やっぱり、戻ろう)
今は退散するしかないかと足を引いた瞬間、 「不二、先輩?」と怪訝な声が耳に届く。 振り向くと、ラケットを下ろした越前がこちらを見ていた。
「や、やあ。越前、偶然だね」 「偶然って、こんな暗いところに何しに来たんすか?ラケットも持っていないから、自主練ってわけでもなさそうだけど」 「……」
うわあ、読まれてる。 顔を引き攣らせながら、僕は正直に答えることにした。 「えーっと、正座の時に越前の姿を見掛けなかったから、どこに行ったのかと思って」 「正座?」 「うん、枕投げの罰としてコーチに言い渡されたんだけど」 「枕投げ?」
どうやら越前はかなり前からここで打っていたようだ。 事の次第を説明すると、「良かった、巻き込まれなくって」とほっとした顔をする。
「それより、そろそろ部屋に戻らないと。消灯時間に遅れたら、それはそれで怒られるよ?」 「そうっすね。それでわざわざ俺のことを呼びに来てくれたんすか?」 「え、それは、まあ」
しどろもどろになって答えると、越前は「どうも」と帽子をぎゅっと下げて礼を言う。 表情はよく見えなかったけど、ちょっとだけ嬉しそうにしていた。
(可愛い)
越前の僅かな変化に、こんなにもドキドキさせられる。 そういえば、告白する前にも可愛い顔を見せてくれたっけ。
でも、あれは……。 手塚の話をしていたからで。 部活が始まる前になんとなく流れで一年の頃の手塚の話をしていたら、越前が「部長も一年生の頃があったんすね」と言って笑ったんだ。 あの顔があんまりにも可愛くて、思わず告白するなんて本当に馬鹿だった。 僕自身が越前を笑顔に出来るまで、どうして待てなかったんだろう。
「不二先輩?戻らないんすか?」 動かない僕に、越前が声を掛けて来る。 先に行くんじゃなく、待っててくれたのが嬉しくって駆け足で追い付く。
「ごめん、ぼーっとしてて」 「正座なんてしてるから、疲れたんじゃないっすか?」 「そうかもしれないね」 「早く寝た方がいいっすよ。俺も、もう眠い……」
ふわあ、と欠伸する越前に、「うん、明日も早いから寝た方がいいよ」と返事する。
普通の先輩・後輩の距離で僕達は歩いて行く。 まだ手塚に追い付いていなくて、越前を笑顔にすることも難しいけれど。
(いつかもう一回、告白出来る位に自信をつけよう)
手塚が不在の間、自分が強くなるだけの時間も、リョーマとの距離を縮めるだけのチャンスもある。
二度目の告白をする時は、もう少し食い下がってみよう。 越前が困る位に、翌朝になって何事も無かったようにされない位に。
「じゃあ、おやすみ」 自分の部屋に向かって歩こうとする姿に、「送って行くよ」と声を掛ける。 「別に、いいのに」 「責任持って最後までちゃんと見届けたいんだよ」 「何すかそれ。子供じゃあるまいし……」 「僕がそうしたいんだよ」 「もう、勝手にすれば」
面倒臭そうに言う越前に「うん、そうする」と頷く。
一度振られても、好きな人がいるからってこの恋を投げ出すことは出来ない。
(それに)
諦めの悪い人は、嫌いじゃないんでしょ?との顔を見てにっこりと微笑んでみせた。
終わり
チフネ

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