チフネの日記
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2011年09月14日(水) 呼吸すら忘れる 不二→リョ(菊リョ要素含む)

先を歩いているリョーマの姿を、捉える。
すぐ横を歩いていた菊丸も見付けたようで、「わー!おチビだっ!」と声を上げて駆け出した。

主人を見付けた犬のようだと、不二は思った。
猫っぽいと言われる菊丸だが、こんな時は子犬のようだ。
構ってとじゃれつく姿なんてそっくり。
最も、抱きつかれた方は迷惑そうな顔をしている。

「不二先輩!見ていないで、助けてください!」
こうして呼ばれるのは、不二の役目だ。
仕方無いなと言いつつも、内心では喜んでいる。

(越前に、頼られている)

普段は人の手を借りようとしないプライドの高い子供が、この時ばかりは何とかしてくれと自分を呼ぶ。
他の誰でもなく、訴えるのは自分にだけ。
菊丸は手塚の説教はどこ吹く風で聞き流し、大石はパートナーに甘いから、必然的に役目が回って来るのだろうけど。
それでもリョーマに頼られるのは悪い気分ではない。

「英二。越前に迷惑を掛けちゃ駄目じゃないか」
リョーマの肩に回している菊丸の腕をぎゅっと掴み、解放してやる。
すると、ほっとした顔を向けられる。
この瞬間が、不二は好きだった。

「だって、おチビ可愛いんだもん!会ったら抱きつきたくなるよ」
「可愛いなんて言われても嬉しくないっす!」
ムッとするリョーマを見て、「そうだよ、英二。何言ってるの」と不二も同意する
本当は可愛いと思っているけど、口には出さない。リョーマが可愛いと言われるのを嫌いだと知っているからだ。
「越前は可愛いんじゃなくて、格好いいの。テニスをしている姿を見たらわかるでしょ?」
ねえ、と言うと、リョーマは照れた顔をして「まあね」と頷く。
「ええ!?おかしいよ。おチビはちっちゃくて、可愛いの!」
「それ以上言ったら、本気で怒るから」
「おチビー!?」
「越前、ごめんね。英二がバカなことばっかり言って。
でも悪い奴じゃないんだ。そこはわかってもらえるかな」

菊丸のフォローを入れると、リョーマは渋々というように「不二先輩がそう言うのなら」と言った。

「俺をのけ者にして話を進めるなよー!」
「うるさいよ、先輩」
「そうだよ、英二」
「うわーん!大石に言い付けてやるー!」
ダッシュして、菊丸は行ってしまう。
勿論、引き止めたりしない。とっとと先に行けと、不二は微笑んだ。
これで短い間だけでも、リョーマと二人でいられる。
「全く、英二はしょうがないね。放っておけば、その内機嫌も直るだろうから気にしないで」
「最初から放っておくつもりだったっす」
「アハハ、越前らしいね」

この生意気な後輩のことを、不二はとても気に入っていた。
好意以上のものを抱いているといってもいい。
リョーマがテニスをしている姿に目を奪われ、決して折れない志に惹かれた。

彼の目を、自分だけに向けたい。

今はまだ少し頼られている位の(主に菊丸を上手く追い払う為)先輩というポジションだが、
少しずつ親しくなって、いずれは告白してお付き合いを始めたいと考えている。
その為にも好感度を着実に上げていくしかない。
もっと親しくなれば、リョーマも自分の魅力に気付いてくれるはずだ。
そう信じて、疑わない。

だけど、世の中はそうそう思い通りにいかないのが常だ。



(遅くなっちゃった)

日直の仕事で職員室に寄ったら、別の先生に捕まって思った以上に時間が掛かった。
今日は手塚が生徒会で不在なので、多少遅刻しても大目に見てもらえる。

(でも、英二には先に行ってもらうべきだったなあ)

「俺、ここで待っているからー!」と言ってくれたが、こんなに遅れる位なら、やっぱり部活に行ってもらうべきだった。
遅いって文句が来るだろうなと、足早に教室へと急ぐ。

(あれ……)

到着したところで、不二は足を止めた。教室から、話し声が聞こえたからだ。
一人は菊丸で、そしてもう一人は少し幼い声だ。
まさか、と聞き耳を立てる。
こんな所に、彼がいるはずがない。
そう思っても、あまりにもリョーマに似過ぎている。
そして菊丸と親しげに話しているものだから、中に踏み込むことが出来ない。
立ち竦んでしまう。

(英二との、いつものやり取りと違う……)

リョーマの声色に、どこか甘えた響きが聞こえる。自分には絶対言わないような、そんな声。
不二は口に手を当てて、じっとしたまま二人の会話を聞いた。

「不二のやつ、遅いなー。何してるんだか」
菊丸の愚痴に、「さあ?先生に用事でも言いつけられているんじゃないっすか」とリョーマが返事をする。
「こんなことなら、先に行くって言えば良かった!ま、おチビが居てくれるのなら、俺はどっちでもいいけどね」
「暇だからって、俺のこと呼び出さないで欲しいっす。あのまま部活に行きたかったのに」
「でも、来てくれたじゃん。
嫌ならメールを無視して、行くことも出来たよ?」
「……」
「おチビは俺のこと大好きだもんねー?」
「そんなことは」
「ないって、言えるのかにゃ?」
「……。先輩、感じ悪いっすよ」
「ええ?おチビにはいつも優しいでしょー。
抱きつかせてくれないって、怒ったりもしないのに」
「人前ではヤダって言っているだけじゃん」
「じゃあ、人前じゃなきゃいいの?」
「先輩。ここ、教室」
「誰もいないよ」

沈黙の後、二人が何をしているか想像したくもなくて、耳を塞ぐ。
静かに、この場から立ち去る。

(どこか、ここじゃない所に行かなくちゃ……)
階段を駆け上がり屋上まで出た所で、不二は蹲った。

(苦しい、苦しい、苦しい……!)

二人はいつから付き合っていた?何故、何も言ってくれなかったのか。
自分一人で勝手に夢見て、すごく惨めだ。

様々な思いが、不二の心をかき乱していく。

「―――、ッ、ゲホッ」

咳き込んだ所で、自分が呼吸するのを忘れていたことを認識する。
涙が溢れ、大きく息を吸って、吐く。

落ち着いたところで、冷たいコンクリートの上に倒れこむ。

(こんなに苦しいのは、きっと)

リョーマのことを諦め切れないからだ。
二人の会話を聞いても、まだ認められない。
認めたくない。


(いっそのこと)

告白をして、最後の息の根まで止めてもらおうか。

リョーマへの恋心を思い切り粉々にされたら、
諦めがつくのかもしれない。



終わり


チフネ