チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2011年09月11日(日) 彼の言う好きに引き摺られる    跡リョ

「お前のことが、好きだ」

つい先日、跡部から告白されたことを思い出し、リョーマは反射的に立ち上がった。

(俺、何やっているんだろう。
告白された相手の家で寛ぐなんて、まずい状況なんじゃないの)

跡部への返事はしていない。
しようとは思った。
「俺はそういう意味で好きになることは出来ない」
だって跡部はどこからどう見ても男で、どうせ付き合うのならリョーマだって女の子の方がいい。
これでもポニーテールが似合う女の子といつか巡り合えたらいいな、なんて理想を持っている。
跡部にポニーテールなんて、考えただけで怖過ぎる。それ以前に、男だ。付き合う対象にはならない。
だから付き合えないと言おうと思ったのに。

「よく考えてからでいい」
跡部の言葉に、その場で断ることが出来なかった。

考えるって、いつまでかは言われていない。
どうしたら良いのだろうと思ったが、あまり悩んでも仕方無いとリョーマはその問題を脇に置くことにした。こういう時の切り替えは早い。
それに跡部の態度も変わることが無かったので、何も無かったことにしていいんだと思ってしまった。
跡部の家で打つのも恒例になっていたので、何も疑うことなくついて来て、お互い満足がいくまでコートで打ち合った。
その後風呂を借りて、跡部の部屋に来て飲み物とお菓子を頂いている。
これも前と変わらない。
変わらないのだけれど、やっぱりこれは良くないんじゃないかと思い直す。

(仮にも、俺に告白して来た相手なんだから……)

跡部はリョーマとは違う風呂を使って汗を流している。この家に風呂やシャワールームがいくつあるのか、見当もつかない。
身支度を整えるのに時間が掛かるらしく、いつもリョーマは自室で待たされている。
ファンタとお菓子があるので特に不満に思ったことはないが、あの告白があった後なので今日は余計なことを考えてしまう。

(もし、跡部さんが気持ちを抑えきれずに行動を起こして来たら?)

二人きり、しかも跡部の自室で待っているこの状態。襲われても文句は言えない。
まずい、とリョーマの中で危険信号が点滅する。

(でも、あの告白自体が気の迷いかもしれないし)

考えたところで、いや、違うなと首を振る。
好きだと言った時の目は真剣そのもので、嘘を言っているようには見えなかった。

だったら尚のこと、少し距離を取るべきかもしれない。
冷静になれば跡部もつい、うっかり口に出してしまっただけと考え直すかもしれない。

こんな無防備に寛いでいる場合ではない。
これからはテニスをするだけにしようと、リョーマは荷物を手にした。
適当な理由を言って帰ろう。
しばらくやり過ごせば、告白したことも無効になるはずだ。

よしとドアに向かった瞬間、「なんだ、帰るのか?」と跡部が部屋に入っていた。

「あー、うん、そう。急用を思い出した、帰る」
我ながら、固い声だった。演技が下手なのは、リョーマも自覚している。
跡部はふん、と鼻を鳴らして「嘘だな。俺には全てお見通しだ」と言われる。
「は?何がわかんの?」
「いいから座れよ。それとも一緒に居ると意識しそうになって恥かしいから帰るっていうのか?」
「そんなわけないだろ!」

バカじゃないのと声を上げると、「じゃあ、もう少しここに居ろよ」とドアを閉められる。
しまった。こんな単純な挑発に乗るなんて、と後悔しても遅い。
頬を引き攣らせるリョーマに、「ファンタ飲まねえのかよ?」と跡部が手付かずのままのグラスを勧めて来る。
「お前の為に用意させたんだぞ。胸が高鳴って飲めないのというのなら、無理にとは言わないが」
「飲むよっ!だらかそういう言い方は止めろ」
グラスを奪って、一口だけ飲む。
いつもは美味しいと思えるはずなのに、なんだか味がよくわからない。
跡部にわけのわからないことを言われている所為だ、と眉を寄せる。

「そんなに固くなるなよ」
リョーマの様子を見ながら、跡部が苦笑する。
「別に今すぐ取って食おうってわけじゃないんだからな」
「食う!?」
「そこ、過剰反応するな。なんで、距離を取ろうとしているんだよ」
「なんとなく」
跡部の発言から、リョーマは後ろへとこそこそ移動していた。
「だから、そんな目をすんな!今はまだ何もしねえよ」
「今は……?」
「そこに食い付くな。とにかく手を出さねえって約束するから、そんなに構えるな」

跡部の剣幕に押され、リョーマは「うん」と頷いた。
本当かどうかはわからないが、疑っても仕方無い。
まずは信じようと、体から力を抜いた。

「予想以上の反応だな。
お前のことだから、翌日には忘れているのかと思ったぜ」
「そんなわけないじゃん。
あんたの方こそ一時の気の迷いかと思った。本気、だったんだ」
「本気に決まってるだろうが。
言っとくけど、俺から告白したのは初めてなんだからな。有り難く思え」
「そこで威張る理由がわからないんだけど……」

やれやれと小さく笑うリョーマに、跡部は「そういうことだから、お前も真剣に考えろよ!」と目を逸らして言う。
「けど、答えを出すまでは今まで通りでいい。
テニスして、飯食って、話をして。そんな普通の関係を壊したくない」
「壊そうとしているのは、あんたの方からなんだけど。
だったら告白なんかしなきゃいいのに」

正論を告げると、跡部はムッとした後、顔を赤くしながら口を開く。

「しょうがないだろ。好きになったら黙っていられるかよ。
何もしないで指を咥えて見てるなんて俺のやり方じゃねえからな。
ぼさっとしている間に、誰かに取られたら後悔してもし切れないだろ。
だったら振られても、告白することを選ぶぜ」
「……」

照れ臭いのか捲くし立てた後、跡部は目を会わせようとしないで下を向いている。

自信の塊のような彼がこんな顔をするなんて意外過ぎて、言葉が出て来ない。

(そんなに、好きなの?)

うわ、とリョーマの顔も赤くなる。

いつものように偉そうに言ってくれればいいものの、あんな真剣な顔して言うから調子が狂う。
赤くなるな、と自分に言い聞かせ、「あんたの気持ちはよくわかった!」と勢いよく立ち上がる。

「だから、やっぱり今日は家に帰る。ゆっくり考えたから!」
「待てよ!今まで通りで構わないって言っただろ。そんな直ぐ帰宅しなくても」

引き止められるように捕まれた手に驚いて、思わず払ってしまう。

「あ……、ごめん」
「いや、俺の方こそ」
「とにかく、今日は帰るから!」

急いで跡部の部屋を飛び出す。

今まで通り?
そんなの出来るわけない。
跡部の顔を見る度に、さっきの告白を思い出してしまうのに、どうしろというのか。

(跡部さんの手、すごく熱かった……)

意識していく間にも、こちらの体温も上がってしまいそうだ。


普通に接するって、どうやるんだっけ。

考えても、思い出せそうになかった。



終わり


チフネ