チフネの日記
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| 2011年08月30日(火) |
素直成分が足りない 跡リョ |
時折、プライドの高い自分の性格が恨めしくなる。
目の前に気になっている子がいても、素っ気無い態度を取ってしまう。 お前のことなんてこっちは全然気にしてねーよ、と誰に言い訳しているのかわからない。 なのに自然とそんな風に演じてしまう。 裏返せば、相手から話し掛けて欲しい、気に掛けて欲しいのだ。 しかし表に出る態度からは、こちらの気持ちが伝わるわけがない。 無関心を装えば装うほど、距離は広がって行く。 当たり前のことなのに、上手くいかずに苛々してしまう
「素直になった方が、ええんとちゃう?今のままだと誰かに取られても文句は言われへんで」
跡部のあまりにも遠回しなやり方に痺れを切らしたチームメイトが、苦言を呈する。 その時は反発したものの、よくよく考えたら確かに何も始まらないと気付いた。 素直になるってどうするのかはわからないが、自分なりの言葉で伝えてみるべきだろう。
「おい、越前リョーマ」 「……何、っすか」
声を掛けた時、震えそうになる手を一生懸命堪えていたことは跡部だけの秘密だ。 テニスに誘う、そんな事すら軽く言えなかったなんて、恥かしくて言えるはずがない。
「コシマエー。なあなあ、それ一口くれんか」 「ヤダ」 「ええやん、一口くらい。もーらった!」 「一口ってサイズじゃないじゃん!」
和気藹々として同じテーブルに座っている遠山とリョーマを見て、 跡部は顔を引き攣らせた。
負け組みが合宿所に戻って来てから1時間。風呂だ、腹が減っただの騒ぐ彼らは、すっかりここに馴染んでいる。 リョーマが戻って来たことは嬉しいのだが、ずっと隣に引っ付いている遠山の所為でなかなか話し掛けることが出来ない。
(なんだ、あいつは。やけに馴れ馴れしいな。気安くあいつに触りやがって……!)
遠山に悪気や下心がないのは見ていてもわかる。 あれは子供同士のじゃれあいで嫉妬する程のものではない。 わかっている。わかっているけど、腹が立つのも事実だ。
まだ、付き合う前。 リョーマに声を掛けるまで、どれだけ時間を必要としたか。 プライドが邪魔をして、テニスに誘うことすら口に出せなかったというのに。 遠山は無邪気にリョーマに話し掛けて、肩に手を触れて昔からの友達のように接している。 あまりの人種の違いに、くらくらと眩暈すらする。
「コシマエ、そんなに怒らんでもええやん。わいのステーキ一口やるから。ほれ」 「いきなり口に入れようとするなよ!」 文句を言いつつも、リョーマは遠山が差出したステーキに被り付く。 食べないと遠山が騒ぐからだと、渋々譲歩したのだろう。 だけど目の前で見せられた跡部はたまったものじゃない。
(お前、今やつが使ったフォークを口にしたんだぞ!? 俺とだってしたことないのに。羨ましい……じゃなくて、ちょっとは拒む素振りをしたらどうだ!)
喚き出したくなるのを必死で堪えて、大きく息を吐く。 ここに居たら何をしでかすのかわからない。 そう思って、跡部は食事もそこそこに立ち上がってこの場から退散した。
(負け組で一緒に行動している間に、親しくなったのか? 俺も向こうに行っておけば良かった……って、そんなわけあるか)
試合で手抜きをするなんて許されない。 氷帝の部長として、日吉との試合だけは負けるわけにはいかなかった。先輩として伝えるべきことを、試合で教えたつもりだ。自分は間違っていない。 大体、試合を放棄するような真似をしたリョーマが悪い。 ペアマッチにきちんと参加さえすれば、勝ってこちらに残っていたはずだ。
いや、そうなっても遠山がリョーマに近付くのは止められないだろう。 同じ学年で実力も近い二人はライバルとして認め合っている。親しくなるのも当然だ。 せめて遠山が人懐っこい性格でなければ、良かった。 一定の距離を保っているのなら、こんな気持ちにはならない。
初めて会った頃、自分はリョーマに近付くことさえ出来なかった。 気にしていてもわざと無視したりして、傍から見たらバカとしか言いようがない。 なのに遠山はどうだ。開けっぴろげな笑顔でいとも簡単にリョーマの心を掴み、会話も触れることも許されている。
(納得出来ねえ……)
重く溜息を吐いたところで、「跡部さん」と名前を呼ばれる。 「え、越前!?」 振り向くとそこにリョーマっが立っていた。 「こんな所で、どうした」 「どうしたも、何も。食べ終わったら出て来たんだけど。 跡部さんこそ突っ立ったまま何してんの?」 廊下の真ん中で目立ってるよ、と言われる。
「なんでもねえよ」 誤魔化しながら、側に遠山がいないことを確認する。 てっきり一緒にいるのかと思ったが、別行動をしているようだ。 「遠山は一緒じゃないのか?」 「四天宝寺の人達といるよ。もうちょっと遊ぼうって誘われたけど、断った」 「断った?なんでだよ」 遠山といる時のリョーマは、いつもより楽しそうに見えた。 嫌なら纏わりついてくる遠山を拒否するだろう。 しないってことは、それだけ親しみを感じているに違いない。 断ったなんて、意外だ。 そんな顔をすると「跡部さんが出て行くのが見えたから」と、リョーマは少しムッとしたような顔をして言った。
「こっち戻って来てからろくに顔を合わせていないから、ちょっとだけでもって思ったんだけど」 「……追って来てくれたのか?」 「いちいち口にすんな!」
ふんっ、とリョーマは横を向くが、さすがに本心がどこにあるか位はわかる。
(そうだったのか) 悩んでいたのが馬鹿らしいと、肩から力を抜く。 気にしているのはこちらばかりだと考えていたけど、どうやら一方的でもないらしい。 黙って退散するしか出来なかった自分と違って、リョーマは追って来てくれた。
その気持ちに応えるべく、跡部は素直に謝罪の言葉を口にした。
「お前に声を掛けずに出て来て悪かった。 遠山とあんまり仲良くしているから、拗ねてただけだ」 「え?俺とあいつとはただの友達なんだけど?」 「わかってる。けど俺に出来ないことを簡単にやってのける遠山を羨ましいと思った」 「羨ましい?」 きょとんとしているリョーマの手を取って、 「今から俺の部屋に来いよ。就寝時間までゆっくり話しをしようぜ。 向こうで何やっていたか聞きたい」と提案する。 「遠山より、もっと長く俺と話をしてくれないか」 跡部の言葉に目を丸くして、それからリョーマはこくんと頷いた。 「うん、いいよ。俺も不在の間、ここでどんな練習していたか知りたい」
笑顔を覗かせるリョーマを見て、気持ちを伝えるのは大事だなと痛感する。
プライドの所為にして諦めたらそれで終わりだ。 遠山ほどにはなれないが、素直に行動するところは見習うべきだろう。 リョーマともっと近くいられる為にも、これからはもっと本心を曝け出す必要がありそうだ。
「なあ、越前」 「何?」 「部屋に行ったら、まず最初にキスしたい」
思ったことを素直に口に出しただけなのに、「ここ、廊下!」とリョーマに思い切り足を踏み付けられる。
それでも繋いだ手は、そのままだった。
終わり
チフネ

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