チフネの日記
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2011年08月23日(火) 甘えて甘やかしている  跡リョ

リョーマからのメールを見て、跡部は(ガキだな)と、フッと笑った。

‘花火もらったから持って行ってもいい?庭でやっても平気?’

どうせ庶民的で子供がやるような花火を持って来るのだろう。リョーマが持って来るものだったら、そんなものが限度だ。
いっそのこと打ち上げ花火を用意するか、と考えてみる。
やるなら派手な方がいい。
だけど、跡部はすぐにその考えを却下した。
大袈裟なことはするなと怒るリョーマの姿が目に浮かんだからだ。
リョーマと跡部の金銭感覚は天と地ほど違う。
ここはリョーマに合わせてやるべきだ。
庶民的な花火でも構わないと考えて、’いいぜ。持って来いよ’とメールを返信しておく。


「何や。また越前からのメールか?」
携帯を覗き込んで来た忍足に、跡部は勝手に見るな」と言って手で隠す。
「そやかて部室でニヤニヤ笑うとるお前に言われたないわ。わざとやっとるんと違うんかい」
「そーだよ。越前からだって皆わかってるからな。
ちょっと見せてみろよ。あの越前がどんなメール寄越すか、気になるだろ」
いつの間にか向日まで寄って来て、携帯を取ろうと手を伸ばしている。
ハッして、跡部はすぐにポケットに仕舞い込んだ。
真っ先にメールのチェックしたから忘れていたが、まだ他の部員が残っているのだった。
呆れたような目で見る宍戸と、興味津々な鳳と、無関心を装っているようで意識はしっかりこちらに向いている日吉。
味方になりそうなのは樺地くらいだ。

「メールくらい、ええやん。ケチケチすんなや」
「跡部がにやける位の文章ってどんなだよ。なあって」
尚もしつこい二人に、「だめだ、てめえらに見せるものじゃねえ!」と大声を上げる。すると二人以外の部員はそそくさと部室から出て行った。
だが、忍足と向日はまだしぶとく残っている。
散れ、というように手を振ると、声をそろえて「ケチー」と言われる。
「どれだけ独占欲強いんや。そんなんやといつか嫌われるで?」
「バーカ。あいつが俺を嫌いになることなんかねえよ」
「すげえ、自信。どこから出て来るんだ」
「けど、あれだけ甘やかしていれば越前もそれを当然だと受け止めて、跡部から他に乗り換えるのはしんどい思うて離れんかもしれんな」
「は?ちょっと待て。俺はあいつを甘やかしてなんかいねえぞ」
聞き捨てならないとムッとする跡部に、「自覚ないんか」「気付いてないぜ、おい」と二人が追い討ちを掛けて来た。



リョーマのことを甘やかしているつもりはない、と思う。
大体、リョーマのわがままといったら「ファンタ飲みたい」の一点のみだ。
他に無茶を言われたことはない。

(どちらかというと、我侭を言うのは俺の方か)

もっと会いたい、側にいたい、触れたいと要求は膨らむばかりだ。
困った顔をしつつも跡部の願いを結局は叶えてくれるリョーマには感謝をしている。
だからこそより一層好きになる。

(あれ……、なんかこれ、違うんじゃねえか?)

甘やかされているのは、もしかして自分の方なのか。
まさか、と跡部は首を横に振った。

(そんなわけがねえ。年上の俺の方がリョーマに甘えているなんてバカなことあるか)

否定したところで、「景吾様」とノックの音が聞こえた。
家に戻って来て30分は経過している。
そろそろリョーマが到着する時間か、と顔を上げた。
「越前様がお見えになりました」
「通してくれ」
リョーマの前ではもっと年上らしく振舞おう。
よし、と跡部はいつも以上の顔を引き締めてリョーマを迎える為に立ち上がった。







「今日、何か変じゃない?」
夕飯の途中、向かい合わせで広いテーブルに腰掛けた状態で、リョーマがぽつりと尋ねる。
「そうか?」
「そうだよ。何かご機嫌取りしてるみたいで気持ち悪い。浮気でもした?」
「してねえよ!適当なこと言うな」
「だってなんか親父がエロ本隠した時の顔に似てるから」
「どんな例えだ。それも嫌だぞ」
「似てると思うけどなあ」
探るように見てくるリョーマに動揺しつつも、「何もねえよ」と跡部は返した。

なんとか自分が年上らしく振舞おうとしてみたが、失敗したようだ。
リョーマの望みや我侭を聞いてやろうとして、欲しいものはないか、して欲しいないものはないかとさりげなく聞いたものの、「喉が渇いた。ファンタ」と、それだけだ。
こいつの体はファンタだけで構成されているのかと、疑ってしまう。

「ま、いいか。ごちそうさまー。花火やろ」
「おい、すぐにかよ」
立ち上がったリョーマに、跡部も椅子を引いた。
「うん。ほら、もう外は暗いよ」

珍しくはしゃいだ様子のリョーマに、そんなに楽しみにしていたのかと首を傾げる。
たかが花火くらいで。
クールに見えてもやっぱり子供だ。
リョーマの手を引っ張って、プールがある所へと移動する。
庭は広いが芝生を焦がしたりしたら大変だ。
よって花火はプールサイドで行うことに決めた。
リョーマが持って来た花火はやはり家庭用で子供がやっても安全というものだ。

「菜々子さんが商店街のくじ引きで当てたやつをくれたんだ」
そうだろうな、と考える。
日々、食い物とファンタで小遣いが消えるリョーマにはこんな花火でさえ高価なものに違いない。

「お前、やり方はわかるのかよ?」
ここは年上らしくと胸を張って聞くと、「知ってるよ。先輩達とこの間遊んだから」と言われる。
「青学の連中とか?」
「当たり前じゃん。ほら、火貸して」
「……」
青学の連中に先を越されたか。
ムッとしていると、リョーマは花火を取り出して「はい」と跡部の手に握らせる。

「楽しかったから、今度跡部さんと一緒に花火をやりたいと思ってた」
「……そうかよ」
「うん。菜々子さんにこれを貰った時、真っ先にあんたの顔が浮かんだ」

ライターの火が花火の芯に触れる。するとパチパチと音を立てて火花が弾けて燃える。
「綺麗」
ニッと笑うリョーマに、青学の連中に先を越されて悔しいとか、そういうつまらない怒りが収まって行くのがわかった。

(こいつ、時々妙に素直になるんだよな)
天然なのか、計算してのことなのかはわからない。
どちらにしろ跡部の心を柔らかく溶かしてしまうのには変わらない。

自分がリョーマに甘いと言われたことを思い出す。
さっきは否定したが、今はそうかもしれないなと思い直す。
こんな嬉しい言葉をくれる人に辛く当たったり、意地悪出来るはずがない。
全て許して優しくしたい。
そんな態度があいつらから見たら「甘い」と言わせてしまうのだろう。

「はい、もう一本」
新しい花火を渡される。
リョーマが持っている花火から火を分けてもらい、さっきとは別の色した花火を眺めながら口を開く。
「なあ、今度は打ち上げ花火を見たいと思わないか?」
「え、どこで?」
「ここで用意させる。特等席で見れるぞ」
するとリョーマは呆れながら「そんな大袈裟なことしなくてもいいっすよ」と予想通りの言葉を返した。

「こうやって楽しむ位がちょうどいいのに。
なんで無駄にお金を掛けようとするんだよ」
「だよな。やっぱり俺もこっちの方がいい」
「え?」
「二人でこっそり楽しむっていうのも悪くねえな」

目を丸くするリョーマに跡部は「もう一本」と、リョーマに新しい花火を出してやった。

年上だからとか、どっちが甘やかしているとか悩む必要は無いかもしれない。
リョーマの楽しそうな笑顔を見て、今度は自分が楽しいと思ったことに誘ってやるか、と心の中で呟く。
青学の部員達と過ごした後で、跡部にもそんな楽しい気持ちを分けてやりたいと、リョーマがそう考えたように。


いつでもお互いのことを想っている、そんな甘い関係なら大歓迎だ。

終わり


チフネ