チフネの日記
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2011年08月02日(火) 情けない 跡リョ

跡部と付き合うようになって、事情を知った人から大丈夫なのかと色々心配された。

言いたいことは、なんとなくわかる。

俺様が世界の中心と顔に書いてある跡部に、リョーマが振り回されて疲れてしまうのではないか、そんな風に思われているのだろう。

リョーマも付き合うまでは、それを覚悟していた。
きっと自分の考えを押し付けて、拒否したら機嫌を悪くする。面倒なことしか思い浮かばない。
交際を承諾するまでの押しの強さを考えると、仕方無いことだろう。
根負けして、頷いてしまった行為を悔やんでも遅い。

とにかく跡部が無茶なことを言い出しても、きちんと拒否しよう。
流されてたまるものかとリョーマはしばらくの間身構えていたのだが、
拍子抜けしてしまう程、跡部の言動は大人しく、わがままも振り回されることなく平穏といえる交際が続いている。

迫っていたのは別人じゃないかと思うような跡部の行動に最初は戸惑ったがもう慣れた。
平和なのは良いことだ。
跡部が普通に接するなんて変だと他の人に言われも、自分達は上手くいっている。問題は何もない。


「跡部さんが無茶なことしたり言ったりいないって言うと、皆が変な顔するんだけど」

夕飯の後、跡部がファンタを買ってくれるというので、自販機まで一緒に歩いた。
近い所にも設置されているのだが、わざわざ離れた場所に連れて行かれる。
二人きりになりたいんだとわかって、リョーマは黙っていた。
折角買ってくれるのだから、文句を言う必要はない。
それに今まで崖の上のコートに行ったきりで放置していた分、一緒にいようという気持ちになっていた。

「変な顔って何だよ」
「いや、今日だって怒りもしないで『おかえり』って普通に迎えるからさ。
皆は跡部さんが『何勝手な真似しているんだ』ってわめくのを期待していたみたい」
「人をなんだと思っているんだ。俺はそんな狭量な人間じゃねえよ」
「……」
「おい、そこで何黙っているんだ。頷くところだろ」
「ああ、うん、そうかもしれないね」
「お前までそんな風に言うのか。ファンタ買ってやらねえぞ」
「あ、うそうそ。すごーく心が広いよね。うん、あの空みたいに広い」
「嘘くせえ台詞を吐くな。まあ、いいけどよ……」


自販機の前に立ち、跡部は小銭を入れてリョーマの好きなファンタグレープのボタンを押す。
音を立てて落ちたそれを取り出し、ほら、と手渡しされる。
リョーマは「ありがとう」と言って受け取った。

手近にあるベンチに腰掛け、与えられたファンタを一口飲む。
跡部がじっと見ているのに気付き、「飲む?」と言って差し出すと、
「そんな甘いもの飲めるか」と笑いながら言われる。

「え、だってじっと見てたから欲しいのかなって」
「お前の顔見ていただけだ。久し振りだなと思って。ちょっと痩せたか?」
「多分。向こうじゃろくなもの食べてなかったからかなあ。ファンタも久し振り。
こんなに美味しかったんだ。改めて好きになったかも」
「どれだけファンタ好きなんだよ。お前らしくていいけどな」

そう言って頭を撫でてくる跡部の手つきは優しい。

こんな姿、皆知らないんだろうなと、リョーマは思った。
跡部が無茶を言ってリョーマを困らせているだというイメージが固まっている。
こんなにも穏やかな表情を浮かべるのだと知ったら、驚きを通り越して腰を抜かすかもしれない。


(でも、見せたりしないけどね)

跡部がこんな風に優しいのは自分の為だけだと、リョーマは知っている。
交際を取り付けるまでは強引だったが、その後しおらしくしているのは、
同じ位好きになって欲しいからだろう。
だから、無茶なことは言わない。
全部、リョーマの意向を汲んでくれる。

表面上に出さないけど、この恋を壊さないようにと跡部は必死だ。
自分の正直な気持ちを押さえ込んでまで、繋ぎ止めたいらしい。
情けないやつだと最初は思ったが、あまりにも優しく控え目な愛情を示す跡部に次第に絆されてしまった。
今回勝手に崖の上のコーtに行ったのも悪いなと思う位に、跡部のことを考えている。


「そういや、俺達って別々の部屋なんだよね」
「ああ。誰だよ、あの部屋割り考えたやつ。むかつくよな」
「コーチでしょ。決まったものはどうしようもないんじゃないの」
「そう、だな」

素の跡部なら抗議をしに行くと言い出すだろう。
でもリョーマが困るとわかっているから、口には出さない。

色々押さえ込んでいる間にストレスがたまって、いつか破裂するんじゃないだろうか。
時々疲れているような顔をする跡部を見て、そんな風に思う。

だから、
「消灯時間まで、ここにいてもいい?」
なんて、ついそんな言葉が口から飛び出す。

空になったファンタの缶を脇に置いて、呆気に取られている跡部の腕にしがみ付く。
一瞬体がぴくっと反応したが、振り解く気配はない。

「……珍しいな。お前から、そんな風に言うなんて」
「嫌?」
「そんなわけないだろ。大歓迎だ。もっと寄り添っても構わないぞ」
「バーカ」

いつもの調子の跡部の言葉に、リョーマは笑った。
寄り添ったことで思わず本音が出たのか。正直な人だ。


(もしかしていつも控え目だったのは、俺の方から歩み寄って欲しいから、なのかな……)

だったらそう言えばいいのに。
口に出せないなんてやっぱり情けないと思いながらも、もう少し体をくっ付ける。


甘やかされて優しくされている間に、すっかり気を許してしまった。
そんな自分に気付た。

瞬間、顔を赤くしたリョーマに、「お前、どうしたんだ」と跡部が聞く。
優しい目をしたままで。

なんでもないと目を逸らしたが、早くなる鼓動は止められそうにない。
静まれ、静まれと俯いたまま言い聞かせる。

動揺し過ぎな自分も跡部のこと言えない位に情けない、と思った。



終わり


チフネ