チフネの日記
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| 2011年07月19日(火) |
跡リョ 大人みたいなこと言わないで |
違和感に、リョーマはまじまじと跡部の顔を見た。 しかし、跡部の視線はこちらを見ていない。 実に彼らしくないことだ。今までなら「何故、今まで連絡を寄越さなかった」とか、「俺には一言あってもいいだろ」と詰め寄られるはずなのに。 人前だから気にしているのかなと一瞬は、リョーマもそう思った。 負け組みの自分達が合宿所に帰って来て、参加を再び許されて、勝ち組と合流した今、少しお祭り騒ぎになっている。 沢山の人がいるので、跡部と自分が付き合っているのを知らない人もいる。 だから遠慮しているのかと考えたが、違うなとすぐに否定する。 跡部はこう、と決めたら人の目なんて気にしない。
だったら、なんで?
こっちに来ようともしない跡部に目で問い掛けるが、彼は戻って来た氷帝の部員に声を掛けていて、リョーマのことなど気にもしていないよう振舞っている。
「コシマエ。どないしたん?食堂行って肉食おうや、肉ー」 「そうだぜ。食べ放題だってよ!」 遠山と桃城に両脇を抱えられて、跡部との距離が開いて行く 。 腹はたしかに減っている。ここ数日、まともな食事を取っていない。 食欲には勝てない。 一旦、話するのを諦める。
(後で跡部さんから話し掛けてくるよな……)
やっぱりこちらを見ようとしない跡部に、少しムッとしながらも食堂へと向かった。
それから跡部とリョーマが顔を合わせたのは、入浴も夕飯も終わった後のことだった。 誰から始めたのかはわからないが、気付いたら被害が広がっていた枕投げにコーチ陣が切れて、 皆揃って正座させられる中、リョーマの向かいにちょうど跡部が座る形となったのだ。 ただの、偶然。自分の所に訪ねて来たわけではない。 らしくない跡部の態度と、枕投げに巻き込まれたことでリョーマの苛々はピークに達していた。
明日も早いというので、正座の罰は30分ほどで終わった。 それぞれが引き上げる中、跡部も無言で立ち上がって部屋に行こうとする。 そうはさせるかと、リョーマは手を伸ばし、跡部のシャツを引っ張った。
「なんだよ?」 怪訝そうな顔をする跡部に「話、あるんだけど」と告げる。 「お前、さっきの話聞いていないのか?部屋に戻って寝ろって指示されたばかりだろうが」 跡部が誰かの指示に大人しく従うなんて、意外だった。いつもならこんな時は、「俺の部屋に来い」と言うような人だったのに。 そんな振る舞いを当たり前として受け止めていた所為か、今の発言が変に思える。まともな発言だというのに。 かなり跡部に毒されているな、とリョーマは思った。
「いいから。ちょっと付き合ってくれない?」 本来なら強引に引っ張るのは跡部の方だ。 これじゃ逆だと思いながら、部屋とは反対の方角へとシャツを掴んだまま歩く。このまま行けば、食堂があるはずだ。誰もいないだろうし、話するにはちょうどいい。 跡部は特に抵抗することなく、リョーマに誘導されるままついて来た。
「で、話ってなんだよ?」
食堂は電気が消されていて、当然のことながら無人だった。 灯りを点けると誰か来るかもしれないから、窓から零れる月の光だけで我慢する。 お互いの顔が認識できる距離を保ったまま、「どういうつもりっすか」とリョーマは口を開いた。
「どう、とは?」 「俺が戻って来て、何の反応も無し?言いたいことあるなら、はっきり言えば」
回りくどいやり方など、向いていない。 本音を吐き出すと、跡部の方も澄ましていた顔を崩す。 「どう言えば満足だって言うんだよ」 「どうって。勝手に向こうに行って、また戻って来て、一言も連絡なかったことにいつもなら怒るくせに。 なんで今日は黙ってんの?」
すると跡部は「そんなことか」と鼻で笑った。
「怒っても、何が悪いって開き直るだけだろうが。いつもその繰り返しだよな」 「……」
その通りなので反論できない。 黙ったままのリョーマに「もう、そういうのは止めにしようと思った」と跡部は静かな口調で言った。
止めに、する。 つまり……。 頭が一瞬、真っ白になr。
ごくんと唾を飲み込んでから、「それは、別れたいってこと?」とリョーマは小さな声で問い掛けた。
言いながらも、自分がショックを受けているのがわかる。 とうとう、見捨てられたのか。 たしかにこれまで、自分のことばかり考えていた自覚はある。 アメリカに戻ったのも、今回の合宿に予告も無しに戻って来たのも、与えられた試合を無視して崖の上のコートに行ったのも。 やりたいようにやっていた。跡部のことなど、考えていなかった。
色んな思いがぐるぐると回り、青くなっていくリョーマに、 「はあ?別れたいなんて言ってないだろ」と跡部は不機嫌そうに言った。
「え、だって止めにしようって言ったじゃん!」 思わず大きな声が出る。 すると跡部に「しっ」と、手で口を塞がれた。 「落ち着け。止めると言ったのはお前に対してあれこれ口うるさく言うことだけだ」 「は?」
そっと手が口から離れた。 跡部がもう声を上げるなよ、と目で制する。 了解、とリョーマは頷いて応えた。
「どうせお前は俺の言うことなて聞かねねだろうが。 いつでも前に進んで走って行く、それが正しいことだってわかったからな。 俺の所為でお前の成長を止めるような真似はしたくねえんだよ。 だからもうごちゃごちゃ言うのは無しにする。 その時間を、俺は自分の為に使う。お前に置いて行かれない為にも、俺なりに前に進んで行った方が良いからな」
跡部の言い分に、リョーマは目を見開いた。
置いて行っているつもりはない。 むしろ一緒にいたいからこそ、強くなりたいと思っているだけなのに。
「バカだ」 「なんだと?お前、人の決意をそんな風に」 「そうじゃなくって。俺がバカだってこと」 「リョーマ?おい、」
どん、と勢いつけて跡部の胸にしがみ付く。 突然の行為に驚いているようだ。だって、体が強張っているのがわかる。
きっと、慣れていない所為だ。
いつも触れてくるのは跡部からで、リョーマは仕方なくそれを受け入れているというのがこれまでの二人だったから。
「どうしたんだよ」
ぎこちなく肩に手を回す跡部がおかしくて、リョーマはふっと笑った。
「安心した、からかな。気が抜けた」
見放されたわけじゃなくて、良かった。 跡部が構ってくれないだけで不安に思うなんてどうかしている。 そうだ。どうかしている程、跡部が自分を好きでいることが当たり前だと思っていた。 そんなの、この先変わらずいられるなんて保証は無いのに。
「今まで、考え無しで行動してた。次に行く時はちゃんと予告するから」 「行くこと前提じゃねえか。結局、お前は俺の思う通りに行動する気は無いんだな」 「さっきそれでも構わないって言ってなかったっけ?」 「言ってねえよ。小言は程ほどにするってだけだ」 「ふーん。でも、言ってくれないと俺、困るかも」 「何?」
意外そうな顔をする跡部に、リョーマは笑って答えた。
「跡部さんに小言を言われるのは、嫌じゃないっすよ」
怒るのは、それだけ自分を想ってくれているからだ。 鬱陶しいと聞き流していたけど、無くなると寂しくて。
だから、そんな大人みたいな言い分、口にして欲しくない。
「今まで通りでいい。その方が跡部さんらしくて、好きっすよ」
リョーマの言葉に、跡部は困ったように頭を掻いた。
「お前は俺のことをなんだと思っているんだ。折角人が理解を示してやろうっていうのに、それか」
仕方無さそうに溜息をついて、「だったら、遠慮はしねえよ」と手を取られる。
「どこか空き部屋探そうぜ。このまま別々に寝るなんて無理だ。お前だってそうだろ?」 「え。でも、明日早いって。それに久し振りのベッドだからゆっくり眠りたいんだけど」 「いつも通りの俺が好きなんだろ?だったら、黙ってついて来い」 「いや、それとこれとは別の話で」
反論しつつも跡部に引っ張られるがまま足は動いていた。
離れ難いのはこちらも同じだ。
明日の朝、集合時間に間に合うよう起こすのは跡部の役目だと、釘を刺しておこう。
それ以外はどうでもいいと、暗い廊下の中、跡部の腕にぴたっと寄り添った。
終わり
チフネ

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