チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2011年07月04日(月) 不毛な恋と睡眠不足 塚←リョ前提な跡→リョ


また遅刻か、と跡部は欠伸を噛み殺しながら思った。
リョーマが遅れてくるのはこれで三回目だ。
一応こちらは年上だ。敬意ってものを示すのが普通だろう。
青学テニス部の教育はどうなってるんだ。
そこまで考えたところで、あのお堅い眼鏡の顔が浮かび、がっくりと項垂れる。
奴のことはなるべく頭から追い出そうとしているのに、どうしても切り離せないらしい。

「疲れているんすか?」

不意に目の前に立った人影に顔を上げる。
ふてぶてしい、という表現がぴったりの顔をしたリョーマがそこに立っていた。

「お前は、まず遅れたことに対する謝罪をするべきだろう」
「はあ。すみません」
「心から謝ってねえだろ、それ」

説教したところで、リョーマの心には大して響かない。そんなことはもう承知している。
諦めて、跡部は立ち上がった。

「行くぞ。時間が勿体無い」
「そーっすね」
「遅刻したお前に同意されると、なんか腹立つな……」

そして先日と同じように、テニスコートへと向かう。跡部が所有しているスポーツクラブの一つなので、遅刻しようが問題無い。リョーマの遅刻を見越してコートを抑えてある。
だが遅刻は遅刻だ。
ついつい少し早足で歩いてしまう。
リョーマも小走り状態で跡部の後を付いて来る。

じっと横顔を見ているのに気付き、「なんだ?」と尋ねる。
こちらの態度を気にしているのかと思ったが、リョーマは全然違うことを口にした。

「さっきも聞いたけど、やっぱり疲れているんじゃないっすか?」
「はあ?そんなことねえよ」
「だって、いつもよりなんか眠そうにしてる」
「……」

欠伸しているところは見ていないはずだ。
何も考えてないくせに、何故気付く、と跡部は内心で舌打ちをする。
リョーマにだけは悟られたくなかった。

「あー、……昨日はちょっと忙しくて寝るのが遅くなっただけだ。
一日中寝ているお前と違って、俺は忙しいんだ」
「一日中寝てなんかいないんだけど」
「とにかく気にすることじゃねえよ」
「けど、今日はテニスするの止めた方がいいんじゃ」
「うるせえよ。本当はお前の方が打ちたくないから、そうやって言い訳しているんじゃねえか?
背中丸めて手塚のこと考えたって、あいつはまだ戻って来ねえぞ」
「……」

言ってからしまった、と跡部は口を閉じるがもう遅い。
手塚、手塚と追い出してしまいたいのに結局考えてしまう所為で、こんな時も言葉になって出てしまう。
途端にリョーマは表情を曇らせ、目を逸らしてしまった。

生意気で挑発的な態度ばかり取る奴じゃないと、リョーマとこうして会うようになってから気が付いた。
それが手塚絡み限定、ということまでも。

「わかってるって!」

怒ったような声を出して、リョーマは大股に歩いて跡部を追い越してしまう。
小さな背中を見て、昨日も手塚からは何の連絡も無かったんだなと察する。



跡部との試合が終わって、手塚は九州に治療に行くことになった。今日で10日になる。
副部長である大石とは連絡を取っているらしいが、その他とは一切交流を断っている。
治療に専念しているから、当たり前のことかもしれないが。

だけど手塚がいないというだけで、確実にダメージを受けている子供がここにいる。


’ただの部員に、連絡なんてあるわけないじゃん’

そう言いながらもリョーマの顔は強張っていた。
気に掛けて欲しい、声だけでも聞きたい。切望しているくせに、何も言えない困った奴。
さっさと告白しておけば良かったのに、とリョーマを笑う資格は跡部には無い。

自分も、同じだからだ。
告白なんてもの、気軽に出来るもんじゃないとわかってしまった。




「本当に全力でいくよ。倒れても知らないから」

ラケットを軽く振りながら、リョーマは挑発な言葉を口にする。
さっきの失言を根に持っているらしい。

「勝手にしろ。お前こそへばっても知らねえぞ」
「するわけないでしょ。……でもさ、あんたって毎回毎回、俺の相手してなんか得になるの?
あ、大会終わって暇だから相手して欲しいとか?」
「ふざけるなよ。練習相手に困ってるって聞いたから、俺様の方がわざわざ相手してやっているんだ」
「ふーん。あ、っそ」
「最初に会った時はしょぼくれた顔してたくせに、今じゃ憎まれ口叩くほど回復したな。これも俺様のおかげだな」
「誰がしょぼくれてたって?」
「お前だ、お前」

指差して笑うと、リョーマが地団駄踏んで悔しがる。


「あんたなんかに見透かされたのが、一生の不覚としか言えないんだけど!」

手塚への気持ちを指摘した時、リョーマはわざとらい言い訳をして必死に否定しようとしていた。
最も、無駄な努力だったが。
誰にも言わないという約束をして、少し信頼を得たのだけれど、
そんな関係が何になる、と思う。
結局リョーマの心は手塚にだけ向いているのだから。


「あー、そうかよ。だったら、俺を負かせる位の勢いで掛かって来いよ」
「そうさせてもらう」
「ふん、だったら一つ賭けるか?」
「勝ったら方がファンタを奢るとか?」
「いらねえよ。お前が得するだけの賭けじゃねえか。
そうじゃなくって……俺に勝ったら、自分から手塚に連絡してみろ」
「は?え、ちょっと冗談だよね?」

一気に焦った顔をするリョーマに、面白いなと思う。同時に心に痛みが走る。
結局、リョーマの心を動かすのはいつも手塚なんだと思い知らされるからだ。

「冗談で言っているんじゃねえよ。お前、全力出すって言っただろ。
そのつもりで俺と試合しろ。勝ったら、大石に連絡先聞いて手塚に電話しろ」
「だから、なんでそんな賭けすんの」
「うるせー。年上の命令は絶対だ」
「そんなの横暴だ……」


どうしよう、と悩むリョーマを無視して、跡部は反対側のコートに向かう。

言っておくけど、こっちだって全力でやってやる。
あれだけ動揺しているのだから、リョーマに勝つのは簡単だろう。
そして、「今日は縁が無かったようだな」と言ってやる。
手塚に連絡する日を引き延ばす為の卑怯な策だが、そんなこと位にしか出来ない。


そうして今夜も後悔と、不毛な気持ちを持て余して眠れないんだろうなと思う。
下らない理由で不眠に陥っているなんて、誰にも言えやしない。格好悪過ぎると自分でも承知だ。


振り返って、まだこちらを戸惑うようにしているリョーマを見て溜息をつく。

手塚に電話一つ出来ないリョーマのことを、笑ったり出来ない。

自分だってこんなに近くにいるのに、何一つ言えやしないのだから。


終わり


チフネ