チフネの日記
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2011年06月08日(水) 片思いフィーバー  跡→リョ

誘う前は今日こそはテニス以外にと意気込んでみても、断られたらどうしようとか、そんなの興味無いとかばっさり切られるんじゃないかとか(平気で言う姿が目に浮かぶ)、余計なことばかり考えて、
結局「テニスしよう」としか言えない情けない自分。
けど、「テニス?するする。時間空いてる」とOKを出すリョーマの言葉に内心喜んでいるのも事実で。
ああ、もう症状は末期だ。








一頻りコートで打ち合った後、休憩の為にベンチに座る。大体、いつも同じタイミングだ。
お互いに言い出さなくても、そろそろだなあというのが伝わってラケットを下ろす。3時間も打ち続けているから休みを入れても当然かもしれないけど。

とてもデートといえない、ただテニスしているだけ。
これで何回目になるのか。
普通にどっか行こうと誘えなかった自分の口を恨めしく思う。

ベンチに座って足をぷらぷらさせながらファンタを飲んでいるリョーマの姿を、
跡部はちらちらと盗み見ていた。

堂々と見ることが出来ない辺り、意外と自分は小心者だとか、そんな風に考える。

(けど、仕方ねえだろ!こいつに気持ちがばれたら絶対馬鹿にされる。鼻で笑う。蔑むような目で見る。間違いねえ!)

よりによって、なんでこんな生意気チビを気にしてしまったのか。それが運のツキ。
きっと何かの間違いだ。実物に会えば失望して、もう翌日にはどうでもよくなっているに違いない。
そんな風に思ってリョーマに接近したのは一生の不覚としか言いようがない。
どうでもよくなる所か更に深みに嵌って、今じゃもう抜け出せなってしまった。

認めたくはない。断じて違うと否定したいところだが、これはもうあれだ。
自分は、越前リョーマに恋してしまっている。
しかも、片思い。

(有り得ない。この俺様が有り得ない……)

100回そう唱えたところで、事実は何も変わらない。
跡部はリョーマのことをそういう意味で意識して、今も隣にいるだけで心臓がバクバクと脈打つ位なのに、そのリョーマは跡部をこれっぽっちも気に掛けていない。
テニスの相手をしてくれる奴、の程度だ。

この俺様が片思い?無い、そんなの認めねえ、俺様が好きになったのなら相手はその100倍くらい好きでいるのが当たり前じゃないのか!?
大体、俺様は誰かから好意を受けるのが当然という前提でこの世界は構成されていたはずだ。だから片思いなんて断じて有り得ない。

わめいたところで、リョーマは跡部などいないかのようにしてぼんやりとファンタを飲んでいる。
時々、こいつ人のこと自然と無視するよな、と跡部のこめかみがぴくぴくと反応する。
こっちは誰の所為で夜もろくに眠れなくなっているのか。頭の中がリョーマでいっぱいになるほど考えて、勉強やテニスさえ手につかないなんて……。そんなバカな話、三流の物語くらいだろと笑っていたのに、この俺様としたことが。

どうしたらいいんだと、溜息ついて両手で顔を覆うと、
「具合でも悪いんすか?」とリョーマが心配するような目でこちらを見ていた。

「いや、そういうわけじゃ」
「けど、なんかぶつぶつ喋っていたような。ひょっとして日射病とか?」
「まさか、そんなわけ」
「そういえばあんたさっきから水分取ってないじゃん。ほら、これ飲んで!」

早く、と口に押し付けられたのは、リョーマの飲み掛けのファンタだった。

「……」

これって間接キスじゃねえか!

認識した瞬間、跡部の顔は耳まで赤く染まった。

「跡部さん!?大丈夫っすか?熱が出たとか!?」
「だ、大丈夫だ」
「早く、ファンタ飲んで!早く!」

いや、そこはスポーツドリンクだろうと心の中で突っ込みつつも、
ありがたくもリョーマの飲み掛けのファンタを頂くことにする。
間接キスなんてこんな美味しいイベント、この先いつ巡り合えるかどうかわからない。
これの機会にと、一気に飲み干す。

「ほら、やっぱり喉渇いてたんじゃないっすか」

呆れるように言いながら、「もう一本買って来る」とリョーマが立ち上がる。
それを跡部は無意識に手を掴んで引き止めた。

「え?」
「もう充分だ。それより、あっちこっちにふらふらすんな」
「ふらふらって、ファンタ買いに行こうとしただけなのに」
「またファンタかよ……」
「悪い?」

反論しつつも、リョーマはもう一度ベンチに座った。
跡部が手を掴んでいるからファンタを買いに行くのは諦めたようだ。

「意外っすね。跡部さんでも具合悪くなると気弱になるんだ?」
「だから具合なんて悪くなってねえよ」
「ハイハイ……意地でも認めないんすね」

ふう、と溜息をつかれるが、リョーマは跡部の手を払ったりしない。
さすがに病人(というわけでもないが)には優しいのか。いつもの生意気さも7割減という感じだ。

新たなリョーマの一面を知って、また好きになってしまう。
片思いがますます深くなっていくのがわかる。

一体、いつになったらこいつをまともにデートに誘えるんだ、好きな奴とか気になる奴とか基本的な情報を聞き出してさえいない状況。
しなければいけない程は山ほどある。
こいつを、俺と同じ位にまで惚れさせて悩んで夜も眠れなくなるようにしてやって、付き合ってくださいと言わせるようにしなきゃ気が済まないのに。


「大丈夫?少し寝てていいよ」

なんてリョーマの柄でもないような言葉に、考えていた計画が全て真っ白になってしまう。

けれどもそれ以上に、未だにリョーマの腕を掴んでいるこの感覚が眩暈するほど嬉しい。
弱っている間だけ優しいのなら、ずっと病気の振りをしていたくなるほどに。


(こんなことで幸せを感じている自分が滅茶苦茶情けなくて、格好悪ぃ……)

だけど振り解くことなんて出来るはずがなく、もう少しこのままでとリョーマの好意に甘えてじっと大人しくしている。


熱射病に掛かったわけでもなく、やけに体が熱いのは片思いをこじらせ過ぎている所為だ。きっとそうだ。


終わり


チフネ