チフネの日記
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2011年06月01日(水) 悪い子達の恋 塚リョ

「じゃあ、越前君は本の返却をお願いね。私はカウンターの雑務を引き受けるから」
「はあ……」

両手いっぱいの本を押し付けられて、リョーマは溜息をついた。
先輩とはいえ女子生徒相手にずるいと言ったりはしないが、
毎回毎回本を棚に戻す係りになるのもどうかと思う。
背が低いので棚の上の方は届かない。
わざわざ脚立を使わなければならないのが面倒だ。
図書当番は二人一組で大抵別の学年と組むようになっているのだが、先輩達は遠慮なく一年生をこき使う。

大会が始まったら当番は免除されるのだからそれまでの我慢と、
リョーマは自分に言い聞かせて棚と棚との間を歩き始めた。

(次は、……あっちのコーナーか)

図書当番になった頃は本なんて借りる奴いるのかと思っていたが、
青学の図書室の本はジャンルも量も豊富で利用する生徒は多い。
よって結構な数の返却の本を持ってあっちこっちの棚をウロウロしなければならない。
面倒、と小さく呟いて、手元にある本を元にあった場所に入れる。

10分後。
やっと終わったとカウンターに戻ると「これもお願いね」と、今さっき返却されたばかりであろう本を数冊渡される。
またか、と思ったが、口答えする気もなく、大人しく本棚へと戻る。
数も少ないことだから、これさえ終われば後はぼーっと座っていても文句は言われ無いはずだ。
そう考えて、無心で本を差し込んでいく。

最後の一冊。やたら重い洋書が残った。
たしか一番奥の棚だなとそちらに向かう。
こんな本、誰が読むんだ。先生か、生徒だったら武器として使用したのか、当たったら痛いよな、とぶつくさ考えながら目的の棚に近付く。

やれやれ。これでラスト、と力を込めて本を差し込んだその時、
「越前」と後ろから名前を呼ばれて、覆い被さって来た誰かに抱き付かれる。

「部長!?」
振り返らなくても声でこの体温が誰かわかる。わかるようになってしまった。
少し前から付き合っているリョーマの恋人、手塚国光だ。
その本人は、しっと人差し指を口に当てて低い声を出す。
「声が大きい。ここは図書室だ。静かにしないか」
「……」
だったら驚かせるなよと思いつつ、小声で「ここで何しているんすか?」と尋ねる。

「本の返却に決まっているだろう」
「部活は?」
リョーマは図書当番で遅れるとちゃんと連絡している。
部長である手塚が堂々と遅刻していいのかよと、非難めいた目で見ると、
「生徒会の用事で遅れると、朝練時に言ったはずだが」と返される。
「聞いてなかったのか」
「えーっと……」
「仕方無いやつだな」
「はあ、すみませんね。それで生徒会の用事と図書室となんか関係あるんすか」
「どうせ遅れるのなら、本を返却しようと思ってな」

それって私用じゃないか。結局、遅刻してるんじゃねえか。
そう思ったところで、結局あれやこれやと言い包められるのはわかっているから、口には出さない。
手塚と口論しても負けるのはわかっている。

「で、返却したのに、あんたはここで何してるんすか」
腰に回された手を軽く抓む。
「誰か来たらどうするの。生徒会長様がいたいけな一年生に悪戯してるって噂になるかもよ?」
「いたいけな一年?そんな人物がどこにいる」
「部長ー。あんた、いい加減にしなよ」
「そう怒るな」

しれっとした顔で言う手塚に、誰の所為だとリョーマは歯軋りした。
抜け抜けとよく言えるものだ。大体、図書室の奥まった場所とはいえいつ誰か来てもおかしくない、そんな所で抱きつくなんて何考えてるのか。
考えていないんだろうな、と顔を引き攣らせる。

「もう、いい加減離れてよ」
「それなら平気だ。この辺りは滅多に人が来ないから」
「来るよ。今さっき、本を返却したばかりだから……って、ひょっとしたらこれ借りたのって部長?」
さっき本棚に返却したばかりの本を指差すと、「そうだ」と手塚は頷く。

「お前が本を持ってウロウロしているのが見えたからな。必ず返却しに来ると踏んで、ここで待っていた」
「時間を無駄にして何してんの。さっさと部活に行ったらどうなの」
呆れたように言っても、手塚には通じない。
むしろ開き直ったみたいで、抱き締める腕に力を込めて来る。

「部活に行く前に、少しだけお前の顔を見たかったんだ」
「顔を見るって……。後ろから抱きついて来たら、よく見えないんじゃないの」
「正面からだと、警戒されると思ったからな」
「警戒って」

そんなの当たり前と思ったのと王子に、耳たぶをぺろっと舐められる。
予告もなしにされて、ぞわっとリョーマの肌が粟立った。

「あっ、やだ!」
「静かにしろ。誰か来たらどうするんだ」

諌めるように言う手塚に、お前の所為だと唇を噛む。

「あんたが、変なことするからだろ。もう放せよ」
「変なこと?」
からかうように言われ、腰を押さえ込んでいた手が学ランのボタンを器用に外し、中へともぐり込んで来る。
「ちょっと!部長、ヤダ、本当にまずいって」
学校、しかもいつ誰が来るかわからない図書室でこんなことするのは非常に危険だ。
どうしてそれがわからないのかと、後ろを振り返り、恨みがましい目で見る。

「そんな目をするな」
「だって部長がこんなことするから」
情けないが、少し涙目になってしまう。
さすがに罪悪感が疼くのか「悪かった」と、手塚は手を引っ込める。同時に体も解放された。

「少しふざけ過ぎたな」
リョーマの肩を掴み、体を正面に向かせると外したボタンをきちんと留めなおす。

「謝るくらいなら最初からするなよ」
ちくっと嫌味を言うと、「わかってはいるんだが」と手塚は苦悩の表情を浮かべて言った。
「お前の姿を見たら、顔を見るだけでは、声を聞くだけでは満足出来なくなっていた。無意識に手が動いてしまった」
「はあ?」
「どうやら思っている以上にずっと、俺の理性は弱いらしい」


反省しなければいけないなと言う手塚に、半笑いするしかなかった
優等生だ、堅物だなんて評している先生や女子生徒がこんな手塚を見たら、なんて思うやら。
皆が思っている程、良い子じゃないんだって言いたくなる。

だけど、それを知っているのは自分だけだっていう優越感もあったりして。
しょうがないな、とリョーマは肩を落とした。

「反省してるのなら、いいけど」
「すまない」
「じゃあ、今日の帰りはファンタ奢ってください。で、部長の家でゆっくり飲みたい」

甘えるように目の前の手塚に寄りかかると、「いいのか?」と言われる。
「家に来るのなら、さっきみたいに止めたりしないぞ」
「わかってて言ってんの。それに部長だってまだまだ足りないでしょ?」
「ああ」
「即答かよ。……いいけど。
とにかくファンタは忘れないでちゃんと買って」
「わかった」

愛しそうに髪に口付ける手塚を見て、やっぱり図書室だってこと忘れてると思いつつも、リョーマは大人しくしていた。
この程度ならいやと思う辺り、相当手塚に感化されてしまっている。

(俺も部長のこと言えないくらい、悪い子だよな……)

こんな風になってしまうまで好きになってしまった自分が悪い、のかな。

ぎゅっと引っ付いてくる手塚の腕を振り払えずに、ただただ溜息をつくしかなかった。


チフネ