チフネの日記
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互いプロの道を歩み始めてとんでもなく忙しくなって。 それでも何とかやりくりして空いた時間は会うようにして。 それが飛行機を使わないと会えない距離だとしても、顔が見たくて声が聞きたくて近くに居たくて。
それは、なんていうんだろう。
考えたら今の関係が壊れてしまいそうで怖くて、だけどずっとこのままではいられる確証はどこにもなくて、どうしたら良いか回答を求めて頭の中がぐるぐると掻き混ぜられている気分だ。
「誕生日、おめでとうっす」
ケーキの箱を抱えてやって来たリョーマに、 「ありがとう」と真田は礼を言った。 しかし二人で食べるにはどう見ても大きなケーキに、もしかして他の誰かを誘ったのではないかと考える。 いやそうだとしたら先に一言言ってくれるはずだ。 リョーマに限って勝手な真似はしないと、これまでの付き合いからわかっている。 だから真田は何でもないかのように尋ねてみることにした。
「そのケーキ、二人で食べるには少し大き過ぎないか?」 「そ?余ったら俺が全部食べていくから、いいやって思ったんだけど」 「ケーキだけで腹を膨らせるつもりか」 「悪い?」 「少しはカロリーのことも考えろ」 「悪かったね。あ、これ冷蔵庫に入れておくから」 「そうしてくれ」
ケーキの箱を持ってリョーマはキッチンへ移動して行く。真田が借りたこの部屋に何度も来ているから、迷うこともない。
それにしても、他に誰かを連れて来たわけじゃないとわかって、真田はホッとした。
年々、リョーマと二人だけで過ごしたいという気持ちが強くなっている。 学生時代はそれこそ押し掛けるようにやって来たチームメイト達を快く迎えて、皆で過ごすのも悪くないと思っていた。 今回もどうしても行きたいと電話越しに騒いでいた幸村に、丁重に断りを入れた。 向こうも忙しいのだろうと気遣ったのもあるが、何よりリョーマとだけで静かに誕生日を過ごしたかった。 それでも絶対に行くと幸村は喚いていたが、来ない所を見るときっとスケジュールに拘束されているんだろうなと推測する。 もう、中学生の頃とは違う。 それぞれやるべき事があって、自由が利く時間はほとんどない。
リョーマも同じなのだろうけど、なんとか休みを取ってここに来てくれたことは……本当に嬉しいと思う。
だけど、いつまで来てくれるのか。ふと考えてしまう。
「先に料理を食べるか」 「うん。お腹空いた」 「お前はいつでもそうだな」 「まだ成長期なんで」
自然に笑顔を覗かせるリョーマを見て、心が温かくなる。 何年も共に過ごしていて、そんな風に思う自分に気付いた。
「そういやさ、今日は家に帰らなくて良かったんすか?」
テーブルに用意していた料理を全て平らげ、お腹いっぱいだというのに今日のメインだと買って来たケーキを置くリョーマに呆れつつも、嬉しそうな顔に何も言えない。 綺麗に並べられた苺のケーキにはHappy Birthdayと書かれたチョコプレートが乗っている。 そんな所にも、きちんと祝ってくれようとしているリョーマの気持ちが見え隠れしていて、嬉しいと思ってしまう。
「一日しか休みが貰えないのに、帰れるわけがないだろう」 質問に答えると、でもさ、とリョーマは首を傾げた。 「二十歳の誕生日なのに、お祝いとかするんじゃないかと思って。 真田さんの家ってそういうの大事にしそうじゃない?」 「しかし距離が離れ過ぎている。夏にはまとまった休みがもらえるから、家にはその時顔を出す。 それに電話でおめでとうの言葉はちゃんともらったからな」 「ふーん」
プロになってからほとんど日本に帰る暇もなく、トレーニングと試合ばかりに明け暮れている。 そんな自分に家族は労わりと、これからも頑張れ、応援しているとの言葉をくれた。 ありがとう、と返して国際電話の会話は数分で終わった。
不思議と、離れていても寂しいという気持ちにはならない。 家族が、日本が恋しいと思うよりもずっと優先させたい存在があるからだろうか。 勿論お互い簡単に会えるというわけではないのだけど。 中学生だった頃より、リョーマに会うのは難しくなっている。時が経つと共に互いの環境も変わって、それが当たり前になって離れて行く。 安易に想像出来るから恐ろしい。 リョーマとは自分は、友達だ。だから試合やそれに向けての調整でしばらく会うことが出来なくなって、うっかりそれで何年も過ぎたとしてもふとした拍子に再会したら、普通に話せるだろうこともわかってる。
でもそれじゃ嫌だと、心が叫んでいる。 わかっているからこそ、もう黙っていられない。
「お前の方こそどうなんだ」 「俺?」 「ああ。家には顔を出しているのか?誕生日はクリスマスイヴじゃないか。 それこそ家族と過ごすべき日だろう」 「あー、うちはいいの。家に帰っても親父が絡んで来て鬱陶しいだけ。 まあ、年末にちょっと顔は見せている位かな」
そしてちらっと真田を見て「あんたといる方が静かで、ゆっくり過ごせるし」と言った。
「そうか」 「うん」
頷いて、リョーマはケーキにロウソクを立てていく。 「20歳っすね」 「ああ」 「一緒にいるのが俺で良かった? もっと他に過ごしたい人がいるのなら、俺に遠慮することなんて」 「いや、いない」 先を言わせないように、言葉で遮る。 「そう、っすか」 リョーマはケーキに視線を注いだまま、ロウソクに火を灯した。
「誕生日、おめでとうっす」 「ありがとう 「願い事を心の中で浮かべたら、火を消して」 「それならもう決まっている」
リョーマが今日来てくれる前から、願うことは決まっていた。 気付かなかっただけで、随分前から自分の中で育っていた願いだ。
すっと息を吸って、燃える炎を吹き消す。
「来年も一緒に、誕生日を祝って欲しい」
全てのロウソクが消えた所で、リョーマに向かって告げる。
来年、一緒にケーキを食べたら、同じ事を願うだろう。 そのまた次の年も、次も、その先も。
「……願い事は口に出す必要ないのに」
リョーマは俯いたままだ。少し赤い耳を見て、今言った願いは叶いそうだと理解する。 ちゃんと気持ちが伝わるように、もう一度真田は声を出した。
「言わないと消えてしまうことだってある。 このままずっと居心地の良さに甘えて、それがいつか突然なくなるのは怖い。 そうなる前にハッキリさせておきたい」 「何を」 「俺達がこの先も一緒にいられるのかどうか。 何十年先もお互いの誕生日を祝うことが出来るのか」 「……」 「越前、返事は?」
するとリョーマはおもむろにフォークを掴み、ケーキに飾られた苺を勢いよく刺した。 そしてクリームがついたままの苺を、真田の口元に持って来て、 「一緒に……いられるんじゃない?」とますます赤くなった顔で答えを口にする。
実はリョーマも、真田とこのまま一緒にいられるのかどうか考えて、 少し不安になったり、そんな感情がただの友達とは違うと気付いていた。 この後、話しをしている間にお互いに鈍かったと笑うことになるのだけど。
今は。
今はフォークを握るリョーマの左手を握り締め、
「好きだ」と、真田は生まれて初めて愛の告白をした。
終わり
チフネ

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