チフネの日記
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| 2011年05月20日(金) |
今はそんな気になれない 真田リョ |
※SQ4月号のエピソードもちょこっと絡んでます。負け組が帰って来たところさえ踏まえていれば大丈夫かな、と。 そんな感じでお願いします↓
「俺、あんたのことが好きみたいなんだけど」
ファンタが好き、というような軽い言葉だった。 だから言われても、ああ、そうかと真剣に受け止めていなかった。 そういう意味での好きなんて考えもしなかったからだ。 元々真田自身、恋愛方面は疎い。むしろ今は縁の無いものと思い込んでいた。
だけど。
「あんた、わかってないでしょ」
続けて言ったリョーマに視線を向けると、試合前に見せるような真剣さがそこにあった。 いくら鈍くても、雄弁なその表情に気付いてしまう。 こんな軽い口調の告白なのに、こいつの気持ちは本物なんだとわかってしまった。
「やあ、真田。俺の部屋に何か用?」 「頼む。しばらくここに居させてくれないか」 「断る」
目の前で閉められたドアに、本気で鼻が挟まるかと思った。 無意識に真田は鼻に触れてみた。寸でのところだったから、なんともない。 すると再びドアが開かれる。 顔だけ覗かせる格好で幸村が「いつまでもそこに立っていられると邪魔なだけど」と笑顔で言った。
「部屋に帰ったら?」 「……」 「何か不都合でもあるの?」 にこっと笑う幸村に「頼む」と頭を下げる。 「本気で困っているんだ。そこは三人部屋だろう。余ったベッドでいいから、置いてくれないだろうか」 すると幸村の後ろから「ここはもう定員オーバーだよ」と不二が声を出した。
一体どういう部屋割りなのかはわからないが、U−17の合宿所に戻った所、 勝ち組と負け組みと混ざった形で部屋に入れられることになった。 その点については何の問題もない。 だが与えられた部屋に、本来なら別室になるはずの越前が居たとなると話は変わる。
「君達、二人部屋なんでしょ?自由に使えていいなあ」
何故、事情を知っている。 その言葉に、真田は気付いた。リョーマの行動に入れ知恵して、不二は面白がっている。 幸村にもそれは伝わっているのだろう。だからこんなに非協力的な態度を取るのだ。
「羨ましいなら変わってやる。代わりに俺をそこに泊めろ」 「冗談でしょ?うちの大事なルーキーと仲良くしてやってよ。よろしくね」 「……」
言いたいことだけ言って、不二は奥へと引っ込む。もう話をするつもりは無いらしい。 越前の奴、なんて厄介な相手に相談したんだと真田は本気で頭を抱えたくなった。
「という訳で頑張ってね、真田」 「何をだ!?俺の味方になってくれないのか」 約三年間チームメイトとして過ごして来たじゃないかと幸村に訴えても、聞いてはくれない。
「悪いけど、真田。俺は面白そうな展開を見逃せないんだ」 「面白い?どこがだ!?」 「それはこれからのお前の行動に期待させてもらうよ。あ、立海の皆には真田を部屋に招き入れないよう伝えてあるから」 「お前は鬼か!」 「真田君、ちょっと静かにしてな。消灯時間に無駄話とかあかんでー」 今度は白石が部屋の中から声を出す。 「後、抵抗するのも無駄なだけやでー」
うるさいと反論する前に「おやすみ」と、またドアが勢いよく閉められた。
立海のレギュラー達に頼れないとなると、帰るしかない。 嫌だ、と思いながらも良い案が浮かばず、重い足を引き摺ってリョーマがいるであろう部屋に行く。 もしかしたらこの間にリョーマが諦めて割り振られた場所に戻ったかもしれない。 そんな風に考えたが、ドアの前に貼られたプレートを見て楽観し過ぎたと肩を落とす。 本来なら真田と同室であるはずだったメンバーの名前がマジックで消され、代わりに『越前リョーマ』 と書かれてある。 間違いない。リョーマの仕業だ。
ドアを開けると「あ、おかえりー」とベッドの上で寛いでいる姿が見えた。
こっちがこんなに悩んでいるというのに、呑気な様子に呆れてしまう。
「おかえり、じゃない。お前はここから早く出て行け。本来なら別の部屋のはずだろう」 「快く代わってもらった。皆、親切だよね」
嘘だ。大方、不二と二人で共謀して追い出したに違いない。 そう考えると被害を被った人達が不憫でならない。
「お前がそういうつもりなら、俺は出て行く」 「どこに?行く所なんてないのに」
幸村に同室を断られたのも承知しているのだろう。 挑発的に笑うリョーマに、ムカッとする。
「野宿すればいいだけだ。今更どんな場所でも不自由しない。雨さえ凌げればどうとでもなると、崖の上のコートで学んだからな」 そう言って出て行こうとする真田に、リョーマは慌ててベッドから降りて引き止めに掛かって来る。 「ちょっと待ってよ。何でそんなに俺を避けんの」 「当たり前だろう。お前が妙な真似するからだ。そこまでして俺と同じ部屋になりたいとか、どうかしている」 「ひょっとして、二人部屋っていうのを意識してんの?別に何しても俺は構わないけど」 平然と言うリョーマに、真田はくらっと眩暈を起こしそうになる。 そういう意味で言っているわけじゃないのに、何なのだ。
「何を言っている!?そんなこと、まず有り得ん!」 大声を出して否定する。
そもそもここはU-17の代表者を決める合宿所で、そんな中で好きとか恋とか意味の無い感情を挟むこと事態皆無だ。 こんな時に恋愛事にうつつを抜かすとはたるんどると、リョーマに目を向けると、 「有り得ないんだ……」とあからさまに傷付いた表情をしていた。
「いや、それは」 「そう、だよね。真田さんは俺のことこれっぽっちも気にしていないって、本当はわかってる」 「お、おい。越前」 「だけど、それでも俺は……」
きゅっと唇を結んで震えている姿は、涙を堪えているようにも見える。
間違ったことを言っていないのに、真田は何故か自分が悪いことをした気持ちになった。 年下で、小さいからなのか。子供を苛めた気分になる。 俺は悪くない、悪くないはずだと言い聞かせるが良心が痛む。
「あのな、越前」 「別に、いいけどね。わかっているから」
弱弱しい笑顔を向けるリョーマに、ついに真田は降参を決めた。 子供には敵わない。泣かれると弱いのだ。
「……越前」 「何」 「今日の所は、部屋はこのままで構わない。お前が静かにしてるのならな」
途端にパッと顔を輝かせる。 わかりやすい反応に、苦笑してしまう。 自分の言葉に一喜一憂しているリョーマが、ほんの少しだけ可愛いと思えた。
「うん、静かにしている」 「ただし今日だけだぞ。明日は自分の部屋に帰るように」 「……」 「返事は」
聞こえないふりしてるリョーマに、もう一度明日は念押しするかと真田は溜息をついた。
「お前のベッドはそっち側だな。俺はこっちを使おう」
空いているベッドに荷物を置こうとすると、リョーマにシャツをぎゅっと掴まれる。
「俺、寝相も悪くないし、背もちっちゃいから平気だと思う」 「何の話だ」 「だから、一緒に寝てもいいんじゃないかって」 「却下だ!」
やはり情けなど掛けるべきではないのかもしれない。 しかし冷たい言葉を吐けば、また目に見えてしゅんとするのがわかって、それに自分が耐えられなくて。 どうしたらいいんだと、真田は溜息をついてベッドに腰掛ける。
「なんでお前は俺に執着するんだ?そこまでされる理由がわからない」
高校生との試合に負けたリョーマを励ましたからだろか。 だとしたら随分安直だなと思っていると、「理由なんてないよ」とリョーマが言った。
「好きだなあと思ったから、口に出しただけ。理由なんて、後からきっとついて来る。 けど、あんたのことが好きかもしれないと思ったら、後は行動するしかないでしょ。 性格的にも黙っていられないんだよね」
一生懸命に訴えるリョーマに、こいつは本能で人を好きになるのかなんて思った。 しかし思ったらすぐに行動する、というのは納得出来る。行動に移さなければ何も手に入らない。 真っ直ぐにぶつかって来る心意気は、認めよう。
「お前の気持ちはわかった」 「え、だったら」 「だがやはり俺は恋愛など考えられない。今は必要がない。 テニスに集中したいからな」 「別にそれでいいよ」
あっさりと頷いた、と思ったら、「合宿が終わる頃には真田さんから手を出したく位にまで、メロメロにしてみせるから」とリョーマは拳を握り締める。
「……それは無いな」 「そんなのわからないだろ!?したくなるまで、纏わりついてやるからね」 「勘弁してくれ」 「俺は絶対諦めないから!」
さっきのしょんぼりした姿はどこに行ったというように、意気込みを語っている。
「とにかく、静かにしろ」とそれだけ言って、真田はベッドに潜り込む。 明日も、練習前にトレーニングをしておきたい。その為にも早起きしなければ。 今から眠っておくのに越したことはない。
「電気は消しとけよ」 そうリョーマに言って目を閉じる。
が、すぐにまた瞼を開く。
「越前」 「何すか」 「俺のベッドに潜り込もうとするな。向こうを使え。 次やったら、たたき出す」 「そんな。行き場所ないのに、追い出すつもりっすか?」
ぐすん、とか細い声を出すリョーマに、(確信犯だな)と真田は溜息をつく。 さっきのしおらしい態度も演技だったのかもしれない。 しかしそれでも落ち込まれるとこちらの心が凹まされる。どうしようもない。 諦めて、睡眠だけは確保しようと口を開く。
「睡眠の邪魔はするな。お前も明日は自主練習をするのだろう?早く寝ろ」 「……はーい」
すごすごと退散するリョーマに、ちゃんと言うことを聞くのか……となんだか可笑しくなった。 案外素直で扱いやすいのかもしれない。
やれやれと再び眠ろうとするが、近くに気配を感じて真田は再び目を開く。
「……越前。上から覗き込むのも禁止だ」 「黙って見てるだけっすよ?」 「それでもだ」
襲われそうで怖いとも言えず再びあっちに行くようにと命令する。
(俺が手を出したくなる?少なくともこんなことされては逆効果だ……)
とはいえ、リョーマの気持ちが真剣だとわかった以上は、真面目に考えてやらなければならない。
恋愛などくだらんと軽く吹き飛ばしていた真田がそんな風に思う事態、心の隅っこにリョーマが根付いている証拠なのだけれど。
今は何も気付かず、ただ睡眠に集中しようと横になるだけだ。
「……越前。足元で丸くなるのも却下だ」 「ちぇっ、ばれたか」 「当たり前だ」
まだ、手を出そうという気になる日は遠い。
終わり
チフネ

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