チフネの日記
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| 2011年04月05日(火) |
跡リョ いつか空に羽ばたく (たまご 完結編) |
叶えられないと諦めていたものを手にしてみたら、今度は失うのが怖くなった。
そいつがいない人生なんて考えられない。 ……そんな風に自分が思う日が来るとは想像もしなかった。
共に人生を歩むのは家にとってどれだけ有益をもたらすかどうかによって選ばれた相手なんだって。 そう思い込んでた。
でも、リョーマはそんな俺に言ったんだ。 望まない人生を選んでどうするんだって。相手も不幸になるだけだって。
その一言に、目が覚めた。 ぎゅっと押し込めていた本心を解放してみたら、リョーマだけを求めていた。 気付いたら、止められるはずが無かった。
何としてでもリョーマを得ようとして、デートに連れ出すことに成功した。
告白の時、同情を引かなかったといえば嘘になる。 リョーマに振られたら、今度こそつまらない人生を送る覚悟をしていると言ったら、 動揺する素振りを見せた。 もう一押しで落とせると確信して、強引に気持ちを受け入れてもらった。
とりあえず切っ掛けは何でもいい。 リョーマに側に居てもらう為にも、形振りなんて構っていられない。 最初は好きかどうかわからなくても、絶対、俺に惚れさせてみせるから。
こいつが側にいるだけで、何だってやれる。 この先の不安も全て解消される気がした。
そう言ったら、「そんなの当たり前」と自信満々に言われるだろうなと、想像して笑う。
リョーマがいる日常が、こんなにも楽しくて、幸せで仕方無いんだ。
「あれ……、今、何時?」
もそもそとベッドから這い出てきたリョーマに、 「7時過ぎだ」と跡部は時計を見て言った。
「飯、食うだろ?用意なら出来てるぜ」 「うん、お腹空いたかも」 欠伸をして、リョーマは散らばっていた服を身に纏う。 「誰かさんと運動した所為で、もう腹ぺこ。それなりのもの出してくれるんでしょ?」
少しばかり皮肉を込めて言うリョーマに、 「食事前のいい腹ごなしになっただろ」と返してやる。
「その後、ぐうぐう寝てやがるし。充分な位休息したろ。 夕飯食べたらまた付き合え」 「え、ヤダ。今日は無理。帰って寝る」 「帰るのかよ!しかも寝るってなんだ!さっきまで寝てただろうが」
日曜の部活が休みの場合、リョーマはここに泊まりに来ることになっている。 今までの付き合いで自然とそういう流れになっていた。
だから期待していたのに帰るのかよ、と露骨に肩を落とすと、 「今の嘘」と、リョーマはそう言って近付いて来た。
「親にも泊まるって言っといたから、帰らないよ」 「なんだよ。悪い冗談だな」 「あんたがあんまりにもがっつくからだろ。釘刺したくなっただけ。 でも今後の行動したいでは、本当に帰るかもしれないよ?」 「そうかよ、わかった」
頷いたものの、絶対その気にさせてみせると、跡部は作戦を考え始める。 一緒にお風呂へ誘うのも良いかもしれない。 一回火が点けば、リョーマは嫌とは言わない。 むしろ積極的になるしなと、にやけそうになる口元を手で覆って隠す。
こちらの企みなど何も知らないリョーマは、 「勉強してたんだ?」と手元を覗き込んでくる。
「ああ」 「ふーん。あんた、頭いいのにちゃんと勉強してるんだ?」 「当たり前だろ。怠けていたら、あっという間に努力している奴らに追い越されるかもしれねえ。 今、成績のことで親に咎められるわけにはいかないからな」
リョーマと共にいる為に、いずれこの家を出て行く。 その為にも様々な力を身につけておく必要がある。勉強もその一つだ。 手を抜けることなんて、何もない。
「頑張っているんだ」 「まあな」
少し神妙な顔をするリョーマに、なんだ?とじっと見詰めると、 急に距離を縮めて、額にちゅっと軽くキスしてくれた。
「けど、あんまり無理は止めなよ。 俺だって、出来るだけあんたのフォローするから」
リョーマもわかっている。
跡部と一緒にいることによって、いずれ乗り越えなければならない未来が来ることを。 知っていても、逃げることも拒むこともしない。 跡部と一緒にいてくれようとさりげなく伝える言葉に、たまらなく嬉しくなる。
「そうか。お前がフォロー出来ることと言えば、一つしかねえよな?」 「は?って、どこ触ってんの!?今からご飯食べるって言ったじゃん」 「それより俺は別のものが食いたい」 「俺は食べ物じゃないから!」
さっと身を翻して距離を取るリョーマに、逃げられたか、と舌打ちする。
まあ、いい。泊まることが決定している以上、時間はある。
「食事にするか」 「うん」
これ以上はしないと安心したのか近付いて来るリョーマの肩を抱き、 自室から廊下へと出る。
「今日は魚を焼いた。他に、味噌汁も作ったぞ」 「へえ。やるじゃん」 「日々、精進しているからな」
家を出るなら、いずれ食事も自分で作ることになる。 少しずつだけれど、身の回りのことを自分の手で行うようにしている。
戸惑う使用人達には「これも人生勉強の内だ」と言って押し切っている。 どこまで信じているかは、わからないが。
「跡部さんの料理が上手くなったらさー」 見上げて笑うリョーマに、「なんだ?」と尋ねる。
「俺が養ってやろうか?」 「は?」
とんでもない提案に言葉を詰まらせた。
こいつ、今、なんて言った?
「俺がプロになってガンガン稼いだら、あんたは何の心配もなくなるでしょ。 これで解決」
ニッと笑うリョーマに、跡部は目を丸くした後、小さく吹き出した。
何を言い出すかと思ったら。
一応、元気付けてくれているらしい。 負担を軽くしようと、リョーマなりの言葉で伝えてくれてる。
それがわかったから、くしゃっと頭を撫でて、いつもの自信たっぷりの態度で告げてみせる。
「バーカ。俺が家事だけやって収まるような奴だと思うか。 昼間はテレビの前でのんびりしているなんて、性に合わねえよ」 「たしかに」
頷くリョーマに、「逆に俺がプロになって稼いでお前を養ってやってもいいんだぜ?」と返してみせる。
「はあ?俺の方こそじっとしてるのなんて無理だから」 「だったら、二人で上を目指すか。家事は交代制にして」 「まあ、それならいいかも」 「その時はお前も料理するんだぞ。わかっているよな?」
出来るのか?、と鼻で笑う跡部に、リョーマはにっこりと微笑む。
「じゃあ、今度俺が作るよ」 「マジかよ!?お前、料理出来たのか?で、何作るんだよ」 「カレー」 「……そんなことだろうと思った」 「何がっかりしてんの!?カレーも立派な料理なのに」
胸を張るリョーマに、確かにそうかと考え直す。
多分、今までは包丁なんて握ったこともないだろうに、 カレーを作れるくらいまで努力したのは……自分のことを思ってくれているから。 二人で歩んで行く、その日の為に。
そんな決意を垣間見た気がして、嬉しくなる。
「わかった。楽しみにしてるぜ」 「一応食べられるレベルまで頑張る」 「一応かよ……まあ、いいか。 プロポーズしたんだから、お前もしっかり料理頑張れよ」 「え?プロポーズって?」
何それ、と眉を顰めるリョーマに、 「俺のこと養うって言ったじゃねーか」と腕をがっしり掴んで跡部は笑みを浮かべた。
「責任取ってもらうからな」 「ちょっ、あれプロポーズの内に入るの!?」 「当たり前だろ」 「違う違う。あれは違うって!」 「もう遅い。お前もう一生俺から離れられねーぞ」
ハッ、と笑うと、リョーマはぷいっと横を向いて小さく呟く。
「そんなのとっくに覚悟出来てるよ……」
たった一言で、心臓が鷲掴みされたような衝撃を受けてしまった。
いとも簡単に心の壁を乗り越えて来るから、ますます離れられなくなるんだ。 この先に過酷な未来が待っていようが、リョーマがこの先も居てくれるのなら、 どんな障害もぶち壊して前に進める気がするんだ。
側にいて、味方になってくれるのならこんなに心強いことはない。
強くなれるのもリョーマがいるおかげだ。 自分の望む未来はこの手の中にある。
ぎゅっと抱きつくと、「痛い、重い、お腹空いた」と言いながらも、 リョーマは跡部の腕の中に大人しく収まっていた。
おわり
チフネ

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