チフネの日記
DiaryINDEX|past|will
| 2011年04月04日(月) |
ちぐはぐゲーム 3 (たまご リョーマ視点) |
「観覧車で告白っすか」 「悪いか」 「悪いというか……。あんたって意外と乙女思考なんだ?」 「うるせー。どうだっていいだろ。 こういう所での告白の定番といったら、観覧車じゃねえのか」 「……そうかもね」
男同士で観覧車ってどうよと思ったが、跡部の堂々とした態度に拘るのも馬鹿馬鹿しくなって来た。 今日は沢山奢ってもらったのだから、最後まで付き合うべきだ。
やがて、自分達が乗る番が回って来た。 跡部と正面で向かい合う形で座り、扉が閉められる。
ゆっくりと地上から離れて行く光景をぼんやりと眺めていると、 「雰囲気、出ているか?」と聞かれる。
「いいんじゃないっすか。二人きりにもなれるし。 跡部さんに誘われたら、大抵の女の子は嬉しいんじゃないっすか」 「そうかよ」
夕陽が完全に沈み、あちこちのライトが光る。 綺麗だなと、リョーマは思った。
「上手くいくといいっすね。脈はありそうなんすか?」 「いや、多分無いと思う」 「えっ、そうなの?」 「ああ。嫌われてもいないだろうが、恋愛対象とは見られていない感じだな」 「ふーん。本当に片思いなんすね」
段々と高く上がっていく。 遠くまで見渡せる所まで差し掛かったところで、 跡部が腰を上げてこっちに移動しようとする。
「何してるんすか?」 「そっちに座ろうとしていだ」 「見える景色は同じっすよ」 「いいから、大人しくしてろ。揺れるだろうが」
あんたこそ大人しく座っていろよと思ったが、 こちらの不満を無視して跡部はすぐ真横に腰を下ろした。
ほとんど密着する形になり、 「もっと向こうに詰めてよ」とリョーマは言った。
「いいだろ。これも練習の内だ」 「あんた、観覧車の中で何するつもりっすか。 告白だけなら向かい合わせでも出来るのに」 「こうして伝えたいんだ。いいから、黙ってろ」 「……」
何なの、と眉を顰めるリョーマに構うことなく、今度は手を握って来る。
「外、綺麗だな」 「はあ」 「遊園地も結構良いもんだな。今日は楽しかった」 「そうっすね」 「またお前と一緒に来たい」 「……」
告白の練習しているのかと思って、好きにさせておく。
それにしてはやけに熱っぽい視線を向けてくるが、 これは片思いの相手を想像しているからだと、考える。
「おい、何か言えよ」 「あ、えーっと、そうっすね。また来たいっす」
適当に答えると、「ああ」と跡部が頷く。
「今日のことは忘れられない思い出になりそうだ。ありがとうな」 「はあ……」 「越前」
ぎゅっと、手を握る力が強くなった。
そして「好きだ」と、耳元で囁かれる。 「お前が、好きなんだ」
ここまで言えたなら完璧だ。 もう練習は終わりでしょ?と言おうとして顔を上げた瞬間、 跡部の顔が目の前に迫っていて、互いの唇が重なった。
(何これ。どうなってんの。 練習ってキスも含まれてんの!?)
驚いたリョーマは慌てて跡部から離れようとするが、 肩と腰を掴まれて、逃れることが出来ない。
「んっ、んんー!?」
角度を変えて跡部が唇を貪ってくる。 軽い挨拶のキスはしたことがあるけど、こんなのは初めだ。 酸欠状態に苦しくなって「ふっ」と鼻から息が抜けた所で、ようやく解放された。
乱れた息を整えてから「何考えているんすか!?」と、唇を拭いながらリョーマは怒鳴った。
「こんな練習にまで付き合うなんて聞いていない! こういうのは好きな相手としろよ!」
怒っても、跡部は動揺していない。 むしろ開き直ったような態度をして、笑いながら言った。
「まだ練習だと思っていたのか」 「は?どういうこと?」 「鈍感にも程があるぞ、越前。 俺が好きなのはお前だってことだ」 「……え?」
言葉が出てこない。 今、跡部は何を言った?
呆然としているリョーマに、跡部は髪を優しく撫でて来て、 「好きだ」と二度目の告白をした。
「俺と付き合ってくれ、越前」 「ちょっとなんでそういうことになるんすか!?」
意味がわからないと、跡部から離れようと立ち上がると、 ぐらっと足元が揺れる。 観覧車の中ということを忘れていた。 しかも頂上に近い所まで来ている。
「おい、大人しくしてろって。揺れるだろ」 「誰の所為だと思っているんすか」
睨み付けても、跡部は平然としている。 それどころか「ちゃんと座っていろ」と、腰を引き寄せられ、跡部の膝の上に乗せられる。
「ヤダ。何やって」 「動くなって言っているだろうが。 暴れた拍子に扉が開いたらどうなる。しゃれにならねえぞ」 「いや、あんたが変なことしなきゃ静かに座ってられるんだけど」 「変なことじゃない。座っているだけだ」 「こんな密着して座るのが問題だって言ってんの。 しかもなんであんたの膝の上に?」 「お前一人くらい、軽いもんだ。問題ないだろ」 「そういうんじゃなくって!……もう、疲れた」
逃げようと身を捩っても、跡部の腕ががっしりと腰を掴んで離れない。 暴れても無駄だ。 観覧車が下に降りるまでは、逃げることは出来なさそうだ
それまでの我慢と、リョーマは自分に言い聞かせた。
「やっと話を聞くつもりになったか」
静かにしているのを勘違いした跡部が、そんな言葉を口にする。
「聞くも何も、あんたのやり方が悪いせいだろ。 これで振られても仕方無いと思うけど」 「何が悪い」 「何もかも!勝手にキスするし、好きだとか言い出すし」 「じゃあ、許可を取ってするのはいいんだな?」 「は?」 「もう一回、お前とキスしたい」
リョーマの返事を聞かず、跡部が再びキスを仕掛けてくる。 膝に乗せられている為、リョーマの方が頭一つ分高くなるのだが、 無理矢理頭を押さえ込まれる形でされてしまう。
今度は息苦しくなる前に解放される。
「どうだ」 「どうだって……、許可してないだろ!なに勝手にしているんだ! 先に言えばいいってもんじゃない、わかんないの?」 「面倒だな」 「面倒って、あんたね」 「じゃあ、してもいいか」 「ヤダ」 「どうしろって言うんだ。我侭な奴だな」 「あんたに言われたくない。こういうのは女の子にしてやれよ」
大体、好きな相手が自分だというのも、未だに信じられないのだ。 予行練習が嘘で、つまり今までのは跡部にとっては本当にデートだたということになる。
信じられないと呟くリョーマに、「嘘じゃない」と、跡部はきっぱりと言った。
「お前のことが好きだ。 けど、告白するつもりも叶えるつもりもなかった。 なのにお前が望まない生き方は止めろって言うから、諦められなくなったじゃねえか。 自分でも押さえ込んでいた本心を気付かせた、お前が悪い。 だから責任取れよ」 「責任って……」
そんなこと言われても戸惑うリョーマに、 「俺と付き合うのは嫌か?」と、跡部は言った。
「絶対に大事にする。ずっと好きでいる自信もある。 けど、お前が付き合えないって言うのなら、もう二度と会ったりしねえ。 これ以上、迷惑は変えない。 大人しく決められた道を歩むことにする。 後はお前次第だ。どうするのか、返事をしてくれ」 「……」
そんな重たい告白、背負えるかと思った。
跡部と付き合ったら、いずれ家でのごたごたに巻き込まれる。 色々言われるだろうし、反対なんてもんじゃ済まない。 わかってる、だけど。
このままさよならしたら、言葉通りに跡部とはもう会えなくなる。 別々の道を歩んで行くことになる。
しかもそれは跡部にとって、望まない道。 そこから引っ張り上げることが出来るのは、自分だけ。
会えなくなる寂しさと、跡部に辛い顔をさせたまま別れることが出来ない、その気持ちの方が勝ってしまった。
「俺は、あんたのことが好きとか、そんな風に考えたことはない」 「わかってる」 「でも、このまま会えなくなるのは寂しいと思う。 そんな道も選んで欲しくないとも思ってる。 すごく好きってわけじゃないけど、それで良かったら」 「付き合ってくれるのか?」 「まあ、そういうこと……」
リョーマの言葉の続きを待たずに、またキスされる。 二度目よりも少し長く。 リョーマの唇の感触を確かめるようにしてからそっと跡部は顔を離した。
「だから、許可なくキスするの禁止!」 「悪かったな。嬉しくて、つい」 「反省しているんすか?」 「ああ」
そろそろ観覧車は地上に到着する。
そういえば頂上からの景色を見ることが出来なかったと肩を下ろすリョーマに、 跡部は抱っこしたままの体勢を解かず、 「なあ、もう一周しないか?」と囁いてくる。
そんなことしたら、またキスされるんじゃないかと思ったけど、 反射的に頷いてしまう。
あんまりにも、跡部が嬉しそうな顔をしているから。
もう少しデートを続けてもいいかなと、思った。
チフネ

|