チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2011年04月03日(日) ちぐはぐゲーム 2 (たまご リョーマ視点)

休日だけあって、遊園地の中はそれなりに賑わっていた。
子供達のはしゃぎ声が、辺りから聞こえて来る。

跡部に似合わない状況だなと、リョーマは思った。
ここを貸切にする位出来そうだが、さすがにそんな手段を取ったら相手に引かれるだろう。
賑やかじゃない遊園地なんて、寂しい。
誰もいない、そんな不自然な中でのデートはきっと楽しめないはずだ。

「で、何に乗るんすか?」

突っ立っている跡部に尋ねると、「お前が決めろよ」と言われる。

「はあ?あんたのデートの予行練習に付き合っているのに、なんで俺が決めるの?
それこそ相手をどこに連れて行くか、考えるべきじゃないんすか」
「そんなこと言われてもどうしたらいいか知るかよ」

困っているわりには偉そうな態度だ。

「ひょとして、あんた、遊園地に来たことないんじゃ……」
リョーマの疑問に跡部は「そうだ」とあっさり頷いた。

「かなり小さい頃に来たらしいが、こっちは2歳かそこらだったからな。
楽しんだかどうかも覚えてねえよ。
それに、今の俺がこんな所、来るわけ無いだろ」
「たしかに」
「だからお前が教えろよ。こういう時、どんな風にして楽しむものなんだ?」

世話が掛かるなあと、リョーマは溜息をついた。
跡部の好きな子がどんな人なのかもわからない。
自分の好きなように遊んで良いものか迷うところだ。

「何黙っているんだ。お前が乗りたいって思ったものを選べばいいだろ」
「でも、いいんすか。俺の乗りたいものって、絶叫系だけど。
跡部さんの好きな人って、怖い乗り物とか苦手かもしれないでしょ?」

跡部はぴくっと眉を上げて、「それは無いな」と断言した。

「わりとそういうのも好きみたいだ。
お前の好きなように動けばいい。初心者の俺に、遊び方を教えろよ」
「うーん、そこまで言うなら」

跡部のことだから、リサーチは済んでいるはずだ。
きっと遊園地慣れしている女の子なのだろう。
だったら単純に楽しもうと、まず一番人気のジェットコースターを指差す。

「あれに乗って悲鳴上げて幻滅されないように、今から特訓しておいたら?」
「俺が悲鳴を上げるわけないだろ。お前こそ、びびってんじゃねえのか?」
「まさか」
「よし、じゃああれに乗るか」
「うん」

一番人気ということで、待っている人は大勢いた。
ここで不満を漏らすのかと思ったのに、意外にも跡部は大人しく並んでいる。
やはり似合わない光景だ。

「何だよ。人の顔、ジロジロ見て」
「だって意外と大人しく並んでいるから、似合わないなあって」
「悪かったな。それに並んで待つのは当たり前だろ。
マナーを守っているだけで、何で驚かれるんだ」
「跡部さんがまともなこと言っている……」
「だから、いちいち反応するなって」

舌打ちする跡部がおかしくって、リョーマは小さく笑った。

「あんたの好きな人もこんな姿見たら、驚くかもね。
でも、悪くないと思うもしかしたら見直してもらえるかも」
「そうかよ」
「ねえ、どんな人?俺の知らない人だよね?
やっぱりすごく綺麗とか?」

跡部が好きになる位だから、釣り合う位の美人だろうと想像する。

だけど「いや、どっちかというと可愛いタイプだな」と言われる。

「へえ、そうなんだ?」
「けど将来は美人になりそうな感じだな。一緒に居られるなら是非成長を見届けたい」
「ふーん。ということは、相手は年下、とか」

跡部の言い方に、ふとそんな風に思った。
年上の美人なら、成長が楽しみとは言わないはずだ。

「そうだ、年下だ」
跡部はリョーマの意見を肯定した。
「なんか意外なことばっかり。てっきり跡部さんは大人な感じの人がタイプかと思ったのに」
「勝手に決め付けるなよ。
けど、俺も好きになるとは思ってもみなかったからな」
「そう、なんだ」

たしかに自分の抱いているイメージだけで、跡部のタイプを決め付けるわけにはいかない。
気を取り直して「一つ下?」と聞いてみる。
「いや、二つ下だ」
「え、じゃあ俺と同じ年?」
「そういうことになるな」
「ふーん」

氷帝の後輩だろうかと考えた所で、「前に進むぞ」と、跡部が声を掛けて来る。
もう少し待てば乗れそうだ。

「その子にいい格好見せる為にも、今日の予行練習を頑張らないとね」
「……そうだな」

これで絶叫したら笑うなあと思いつつ、歩幅を詰めた。














「まだまだ、だね……っ」
「それはこっちの台詞だ!」
「あんた、ずっと固まっていたじゃん。怖くて声も出なかったんでしょ?」
「お前こそ途中で、あっとか、ひっとか声出していたじゃねえか。聞こえたぞ」
「それ、俺じゃない!そんなに言うのなら、次はあれに乗ってどっちが先に驚くか、勝負しようよ」
「ああ、いいぜ」

怖がっていない、驚いていないとムキに言い合いながら、二人はそれからずっとパーク内の絶叫系の乗り物を梯子した。

こんなのデートの練習にならないじゃんと、リョーマは思ったが、
折角楽しい時間を過ごしているのだから水を差すのもなんだと思って黙っておいた。


跡部とテニス意外で遊ぶというのも、新鮮で楽しい。
誘ったのは自分だからと、好きなものを全部奢ってくれるし、
行きたい所に引っ張って行っても嫌な顔一つしない。
これなら本命の子を誘っても、上手く行くんじゃないだろうか。

俺様な性格が欠点だったが、それを抑えて行動している跡部は、女の子からしたら理想の彼氏に当て嵌まる。
顔もいいし、頭だっていいし、気前もいい。性格さえ改善すれば、すぐに両思いになれるのではないのか。


「どうした。疲れたのか?」

気遣うように尋ねて来る跡部に、「ううん」と首を振る。

「いつまで遊ぶつもりかなって考えてた。
予行練風なら、もう充分だと思うけど。
あんただって遊園地がどんな感じなのか、わかったんじゃない?」

そろそろ日が沈もうとしている。
あちこちでライトアップが始まり、雰囲気は出て来た頃だ。
本番ならこの辺りで告白して、返事をもらうのがベストなんじゃないだろうか。
まさかと思うが、すぐにホテルに連れて行こうと考えていないよな……。
だから遅い時間まで遊ぶことを予定していたりして。

跡部を見上げると、「たしかに頃合だな」と頷く。

「そろそろ告白するのにちょうどいい時間だ」
「でしょ?じゃあ、帰ろうか」
「待て。ここまで来たら最後まで付き合え」
「えっ、どこに」

リョーマの答えを聞く前に、跡部は「あれに乗るぞ」と腕を掴んで歩き出す。

「あれって……」

跡部の向かう方向に視線を移す。

夜になって色鮮やかな発光を灯し、一際目立つ観覧車が見えた。


チフネ