チフネの日記
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| 2011年03月11日(金) |
跡リョ 本当のことを教えてよ |
メールを打とうとした手を止めて、そのまま携帯をポケットに仕舞いこんだ。
どうせ返事なんて来ない。
『見ていなかった』 『だって、打つの面倒だから』
そんな言い訳はもう聞き飽きたと、跡部は溜息をついた。
付き合う前からリョーマがマメな性格ではないと見抜いていた。 約束にすら黙って遅刻するような奴が、メールの返信をきちんとするわけがない。
予感は当たったわけだが、ここまで放置が続くと虚しくなっていく。
文句を言うと鬱陶しがられるのがわかるから、ずっと黙って我慢していた。
これが惚れた弱みというやつらしい。
付き合うことを申し込んだのはこっちから。 渋るリョーマを強引に口説き落としたのもこっち。
だから跡部にしては珍しく自分を抑えて、リョーマに合わせて来たつもりだ。
一時間や二時間の遅刻にも目を瞑った。 先輩達の約束が先と言われたら、大人しく引き下がった。 メールの返事がなくても、文句を言ったりしない。
しかし跡部にも限界というものがある。
元々、気は長くはない。
いつまでも素っ気無いままのリョーマに、このまま付き合っていても良いのだろうか疑問を抱き始めていた。
(無理矢理付き合うことになって、本当は嫌がっているのかもしれねえな。 だからわざと嫌われるような態度を取っているのか)
それならメールを無視するのも納得出来る。
好きな人が相手だったら、短くても何かは返すはずだ。
(想像つかねえけどな……)
嬉々としてメールを打つリョーマなど、考えられない。
元々、恋愛向きな性格ではないと思う。
口を開けばテニス。やりたいことといったら、テニス。 そうでなければ飲み食いして、後はひたすら眠っている。 起きてやることはゲームか、猫と戯れる位か。
相手が女だったら、一日で破局していそうだ。
ここまで続いたのは自分が我慢強かったからだろう。 いや、そもそもリョーマの方では付き合っていると認識しているかどうかも怪しい。
考えていくと、落ち込んでしまいそうだ。
とりあえず、今日は迎えに行くとのメールはこのまま送らないでおこう。
毎週、欠かさず青学に迎えに行っていたが、もしかしたらそれも迷惑だったのかもしれない。
メールが無いことに、リョーマは戸惑うだろうか。
(気付かない可能性の方が高いな……)
何も思うことなく青学の連中とどこかに寄り道して行くかもしれない。
跡部が連絡しなければ、リョーマはそれを当たり前として受け止め、以前の日常に戻って行くのだろう。
呆気ない位、この関係を終わらせることが出来る。
いっそ、そうしてやるべきなのかもしれない。
投げやりな思考が次から次へと浮かんでしまう。
昼休みの間、他の生徒から注目されているのにも気付かず、跡部はずっと暗い顔を晒し続けていた。
「で、結局ここに来ちまうわけか」
放課後になって、青学の練習が終わった頃を見計らって車を飛ばして来た。
メールは送っていないから、リョーマは帰ってしまったかもしれない。
だけど、もし待っていてくれたら。 ちょっとでも希望があるのなら。 リョーマと話し合いたいと思って、ここに来た。
「あれ、跡部さん?」
自転車でさっと通り過ぎようとした直前、桃城がブレーキを掛けて停止する。
「こんな所で何してるんすか?越前なら、部室の前で座っているっすよ」 「あいつ、まだ残っているのか?」 「え?だって今日は跡部さんが来る日だから一緒に帰れないって、越前が」 「そうか、わかった」
最後まで聞かずに、跡部は走り出した。 桃城が怪訝な顔をしていたが、知ったこっちゃない。
何度も迎えに来たので、部室の位置はわかっている。 一目散に走り抜けると、花壇の所に座っているリョーマを発見した。
「越前!」
リョーマは携帯ゲームを操作していた。
跡部の声に顔を上げて、「ちょっと待って」とゲーム機を操作して鞄に仕舞う。
それを見届けてから、「お前、こんな所で何してる」と跡部は声を出した。
「何って、跡部さんを待っていたんだけど?」 「今日は迎えに行くってメールしてないだろ。何で待っているんだ」 「え、でも今ここに居るじゃん。来るつもりだったんでしょ」 「そうじゃなくて!もし来なかったらどうするつもりだ。 俺は行くってメール出していないんだぞ!」
大きな声にびっくりしたようだ。 だけど何か訴えてたいことがあるとは気付いたらしい。
少しリョーマは考えてから「でも、あんただっていつも俺のこと待っててくれるし」と答える。
「だからちょっとの間、待っていても平気」 「お前な……。それよりもメールか携帯にいつ来るかどうか、連絡した方が早いだろうが。 その位は出来るだろ」 「いいよ、そんなの。面倒だし」 「そう言って、この先一度だって連絡を寄越さないつもりかよ。 一言だって構わねえのに……」
今まで溜め込んでいた文句が、零れる。
リョーマは目を瞬かせた後、「返信ってした方が良かったの?」と惚けたことを言う。
「当たり前だろ。してくれた方が、嬉しいに決まっている。 まさか、わからなかったのか?」 「うん」 「……」
嘘を言っているようには見えない。 本気で何も考えていなかったのだとわかって、がっくりと肩を落とす。
跡部の様子を気にすることなく、リョーマは「うーん」と考えてから、口を開く。
「でも、長い返事は書けないよ?あんまりメール打つの慣れてないから。 それで良かったら送るけど?」 「本当かよ!?」 「何、この食い付きっぷり」 「お前があまりに素っ気無いからだろうが。 だからひょっとして別れたいってサインを送っているのかと考えていたんだぞ」 「はあ?」
ぽかんとした顔をした後、リョーマは小さく笑った。
「そんなこと考えていたんすか。だったら、そもそも付き合ったりしないよ」 「じゃあ、別れたいわけじゃないんだな」 「それはあんたの勝手な想像でしょ」
馬鹿らしいと言いながら、リョーマは立ち上がった。
大きく伸びをして「帰ろうっか」と、笑みを向けられる。
冷たくされて、素っ気無い態度を取られても、この笑顔ひとつでどうでもよくなってしまう。
リョーマがどの位好いてくれているのかわからないけれど、 自分の気持ちだけはハッキリわかる。
嫌われたくなくて、返事が来ないと悲しくて、少し優しくされただけで嬉しくて。
些細なことに感情が揺さぶられる位、好きなんだ。
先を歩くリョーマの手を見て、距離を縮めたくてそっと手を伸ばしたら、 途端に引っ込められてしむ。
「ちょっと。ここ、青学の敷地内なんだけど?」 「それがどうした」 「どうした、じゃなくって。見られて噂されるのが嫌なんだって」
わかっているけど触れ合いたい時があうってわからないのか……。
項垂れる跡部に、 「だから、後で。二人きりになった時に」と、リョーマは背伸びして耳元で囁く。
「お、おう……」 「わかったなら、さっさと外に出よ」
早歩きで歩くリョーマの背中を追いながら、 (こいつが恋に向かないなんて思ったのは、間違いだった)と考える。
言葉は少ないけれど、簡単に翻弄させるようなことを平気で言う。
無自覚な小悪魔というのは、こいつのようなことを指すんだ。
ますます夢中になって離れられなくなる。
数年経っても、俺達はこんな感じで続いているんだろうなと、跡部は思った。
終わり
チフネ

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