チフネの日記
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2011年03月02日(水) ラプンツェルの憂鬱 塚←リョ前提の跡リョ

いつの間にか、すっかりこの部屋になじんでいた。

ほんの少しの気まぐれから始めたことなのに、両手の指じゃ数えられない位ここに来ている。

自分の部屋のベッドより寝心地の良いソファに横になって、ぼんやりしているこの瞬間が好きだ。
いつも綺麗に活けられている花の香りも気に入っている。

そんなことを口にしたら、
「俺よりもソファの方を気に入っているのかよ」とこの部屋の持ち主に文句を言われそうだから、
リョーマは黙って目を瞑っていた。

「そういえば、手塚が戻って来るんだってな」

反対側のソファに座って本を読んでいた跡部が、今思い出したかのように声を出す。

わざとらしい、と思った。

珍しく約束もしていないのに今日迎えに来たのは、このことが言いたかったのだろう。

冷めた目で、リョーマは跡部を見た。

「そうらしいね」
「らしいって、どういうことだ。本人から直接聞いたんだろ?
別に俺に遠慮することなんてねえよ」

最後の方はやや自虐気味な表情をしていた。

リョーマはそれを見ると無性に楽しいような、それでいて顔を張り倒してやりたくなる程苛立つ気持ちになる。
もっと酷いことを言って傷付けたい。だけど、憐れにも思える。
相反する気持ちが、心の中をぐるぐると渦巻く。
いつから、こんな風に考えるようになったんだろうか。

「遠慮なんてしてないけど」

事実を言っているだけだと、リョーマは淡々とした口調で告げる。

「大石先輩達が話していtのが聞こえて来たから知っただけ。
前にも言ったけど、部長から俺に連絡なんて無いよ」
「マジ、かよ」

少し驚いたように跡部が目を見開く。

「けど、いつ帰って来るか位は言うんじゃないのか。
だってお前ら……、付き合っているんだろ」

はあ、とリョーマは溜息をついてみせた。

何度否定してもわかってもらえない。
思い込みもいい加減にしろと、言いたくなる。

馬鹿馬鹿しいと思いつつも、
「違うって言ったじゃん。俺達、付き合ってなんかないよ」と何回目になるかわからない言葉を告げる。

たしかに、手塚とはキスした。
それから手塚の体に触れて、自分も触れられて、苦しかったけど気持ち良いこともした。
一度や二度じゃなく、何度も。
だけどそれが付き合っているかと聞かれたら、違うなと思う。
世間一般の恋人のような関係じゃない。
誘ったら、手塚が乗って来て、それが続いているだけ。
そこには甘い言葉も約束も何も無い。
跡部とも同じことをした。でも恋人じゃない。
何故わからないんだろうと、呆れた目を向ける。

言ったことがやっと本当だと認識したのか、
跡部は一瞬目を丸くした後、「何だよ、それ」と低い声を出した。

「じゃあ、手塚に俺達がやっていることをばらしても何の問題は無いよな?」
「言いたければ、どうぞご勝手に」

勝手にしろ、と思いながらリョーマはそう答えた。

「言ったところでさ、あの人は気にもしないんじゃないの?
ダメージ与えられるとも思えないし、意味なんてないよ」
「別に手塚にダメージ与えたくて、お前を誘ったわけじゃない」

跡部にしては珍しく酷く真面目な顔だった。
そういえば最初に声掛けて来た時もこんな顔してたような、気がした。
あの時はなんだか毎日が憂鬱で仕方なかった。
今は暇潰しが出来る分、マシという程度だが。

「へえ、そうなんだ」
「何だよ、その言い方」
「いや、だって他に理由が思いつかなかったから。
あんただったら、いくらでもその辺の女の子を捕まえて適当に処理すること出来るでしょ。
なんで俺に声を掛けて来たかって考えると、やっぱり部長絡みかなって思うじゃん」

リョーマの言葉に、跡部はますます不機嫌になっていく。

「そんなんじゃねえよ。
手塚とお前がデキてるのは知ってたけど、奪って優位に立ってやろうとかそんなこと考えたのは、一度だって無い」
「へえ」

少し体勢をずらして、リョーマは跡部から視線を外した。

高い天井が目に入る。
いつも跡部に組み敷かれて、その肩越しに見て来た模様がぼやけて映る。
その時も、前からも跡部のことなんて考えてなかった。
気を紛らわせてくれるなら、誰でも良かったのだ。
たまたま跡部がタイミング良く声を掛けて来ただけで、他に何も無い。

「聞いてるのかよ」
「何が?」

どうでも良さそうに答えると、とうとうソファから降りて来て、跡部はこちらに近付いて来る。
肩を掴まれ、強制的に跡部の方へと向かされた。

「手塚とか関係ない。俺はお前だから声を掛けた。それだけだ」
「ふうん」
「だからお前も俺を選べ」
「は?何それ?」

間抜けな言葉だと、リョーマは笑った。

「選ぶも何も、俺は最初から誰のものでもないし、あんたのことも考えてなんかない。
暇だったから誘いに乗っただけ。
わかってなかったの?」

すると跡部は悲しげな目をした。
傷付いたのかな?と、どこかわくわくした気持ちで顔を覗きこむと、
「もう、気付かない振りするのは止めろ」と言われる。

「振りって、何の」
「自分でわかっていないのか。
でも外側から見ると、よくわかるんだよ。
手塚とのことで傷付いて、疲れているんだろ。
奴がお前の期待に応えてくれないからか、はっきりしないからか。
本当は好きだって、言われるのを待ってるんだろ?」
「そんなことない!」

思わず大声で否定してしまう。
しまった、とリョーマは唇を噛んだ。

こんなこと軽く流して答えられるはずだった。
「何言ってんの?」と平気な顔をして。

だけど指摘されたことにかなり動揺させられているのは、自分でもわかった。

やっぱりな、という顔をしている跡部に、腹が立つ。

「俺、帰るから」

立ち上がってドアへ向かおうとしたリョーマに、
「逃げるな」と跡部が腕を掴んで引き止める。

「もう、いいんじゃないか。
結果がどっちに転ぶかわからなくても、自分の気持ちを伝えるべきだろ。
ただあいつからの言葉を待っているなんて、お前らしくもない。
これ以上駄目になる前に、ちゃんと話しをしとけよ」
「……」

睨み付けても、跡部は手を放してはくれない。
むしろ痛い位力を込めて来る。

「苦しいのは、手塚の所為だけじゃない。
お前が何も言わないからだろ。
一言口に出せば、その苦しさからも解放される。
本当はわかってるんだろ」

優しいとも言える跡部の言葉に、
「あんたの言う通りかもしれない」とリョーマは静かに答えた。

「でもそんなの俺の勝手でしょ。どうなろうが、あんたには関係ない」
「越前」
「部長にばらしたければ、そうしたら?別に構わないよ。
話したところで何も変わらないと思うけど。
あんたこそ……、もう俺のこと見限った方がいいと思う」

言い終わるより前に、抱き締められていた。

そんなこと出来ないと、囁く跡部の声に、困ったように視線を彷徨わす。

跡部と自分は似ているんだと思う。
手に入らない人の側に居て、苦しむことになってもそれでも構わないと現状を受け入れて、
不満から目を逸らし続けている。
そんならしくない行動を取る所とかがそっくりだ。

どこにも行こうとしないで膝を抱えているだけの、自分を見ているようで。

だから跡部を見ると、腹が立ったり傷付けたくなるのかもしれない。


ここい留まるべきか。それとまた手塚との曖昧な関係を続けるべきなのか。

いつの間にか、自分の立ち位置を見失っていた。
考えて、いっぱい考えたらその内答えが出て来るのだろうか。


同じようにどこにも行けないまま、縋るように抱き付いている跡部の背中に手を回し、
「どうしたら、いいんだろうね」
自分自身に問い掛けるように呟いた。

終わり


チフネ