チフネの日記
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2011年02月04日(金) ファンタよりも好き  不二リョ ※注意:SQ3月号ネタバレ有りです

こっちを見ている不二の表情は、いつもの優しい笑顔と違って強張って見えた。

ひょっとして、怒ってる?

心当たりがある為、リョーマは黙って目を逸らした。
本当は一番最初に、話し掛けたかった。
ただいまって、言いたかった。
だけどとても軽々しく声を掛けられない雰囲気に、ぼろぼろになった帽子のツバをぎゅっと下げる。





負け組みが戻って来て、一時合宿所は混乱した。

まず一番の問題が出戻って来た選手に、部屋の用意も何も出来ないということ。

明日までにはなんとかするからと言ったのは、負け組を三船コーチの元へ送り込んだ齋藤コーチだ。
とりあえず今日は、ここにいる人達の部屋の隅でも使わせてもらってと提案を述べる。
寝袋なら各自持っているから問題ないでしょうと笑う齋藤に、
てめえの部屋を明け渡せよ、と負け組みメンバー達はそう思った。

早速皆がチームメイトの所に皆が散らばって行く中、
リョーマはどうしようと立ち尽くしていた。
いつもなら桃城の元へと向かうのだが、彼も同じ出戻り組だ。
その桃城は不動峰の神尾に頼み込んでいる。
伊武がどちらを選ぶのかとぼやいているが、橘が引っ張って行って問題は片付いたようだ。

全員、それぞれ頼む相手がいるようだ。
不二と気まずくなってしまった今、リョーマに心当たりは他にいない。


野宿しようかなと外に歩き出す。
山の中での生活で、別に部屋じゃなくても眠れることがわかった。
死にはしないだろう。

まず自販機でファンタを買って落ち着こうと考える。
山の中ではファンタを買えず(そもそも自販機がない)、ひもじい思いをした。

ファンタ、ファンタと頭の中で単語を繰り返し、小走りで自販機を探す。

(あった)

すんなりと見付かって、急いで駆け寄る。

ポケットから小銭入れを取り出す。
こっちに戻る時、荷物は返してもらった。
お金があって良かった。そうでなければ、ファンタも買えない。
もし無一文で自販機の前に立っていたら、全力でボールをぶつけてファンタを中から出そうとしてたかもしれない。
その位、ファンタに飢えてた。

2本買ってもいいかな、と小銭を出そうとした瞬間、
後ろからにゅっと突き出た手がお金を自販機に入れる。

驚いて振り返ると、そこには不二が立っていた。

「いつからそこにたんすか!?」

思わず大きな声を上げると、「ついさっきからだよ」と呆れ顔で言われる。

「外に出て行くからどうしたのかと思って後をつけたんだよ。
越前は全然気付いていなかったみたいだけど。
そうしたら自販機に向かって行くから、ファンタを買うんだなってすぐわかった。
相変わらずファンタのことばかり考えているの?」
「だって、美味しいし……」

不二の剣幕に、リョーマはごにょごにょと口の中で言い訳をした。

すると頭の上で盛大に溜息をつかれる。

「越前は僕よりファンタを飲む方を優先させるんだね」
「いや、だってそれは」

話しかけ辛い雰囲気だったじゃんか、と言いたいのをぐっと堪える。
久し振りに会えたのにケンカするつもりはない。
それに不二に悪いことしたって、自分にも自覚はある。

「……ファンタグレープでいい?」
「えっ」
不二は自販機を指差す。

「お金入れたから、好きなの買っていいよ」
「奢ってくれるんすか?」
嬉しいけど、裏がありそうでなんか怖い。

ちらっと不二の様子を確認すると、「その代わりちゃんと話をしよう」と言われた。

結局グレープ味に決めてボタンを押すと、不二は続けてお金を入れた。
ホットコーヒーを購入し、「こっち」と壁へと移動する。
隣同士に並んで壁に寄り掛かった。

プシュッと音を立てて、ファンタを仰ぐ。チビチビと炭酸とグレープの味を堪能する。
ファンタが飲めるのは嬉しいけど、それより隣にいる不二の方がずっと気になる。

「あのさ……」

沈黙に耐えられない。
さっさと言ってしまおうと、リョーマは口を開いた。

「ごめん、勝手な行動して」

ぴく、と不二の肩が揺れた。
コーヒーの缶は開けないままで、手の平で握っている。
少し赤い手に、寒いのかななんて呑気に思った。

「結果的に棄権って形になったのは、完全に俺のミスだよ。
先輩になんの一言も無く、黙って行ったのは悪いって……思ってる」
「本当に?」

不二がこちらに顔を向ける。
リョーマは大きく頷いた。

「心配、掛けたよね?」
「当たり前じゃないか」

探したんだよ、と不二はぐっと缶を凹む位に握り締める。

「コーチにも行き先を尋ねて、皆で向こうにいるて聞いた時は脱力した。
全く、どうしていつも勝手な行動を取るの?
その度に僕がどんな思いをしているか……、きっと君にはわからないんだろうね」

これは相当心配掛けてしまったようだ。
突然消えたのだから、当たり前なのかもしれない。

「ごめんなさい」

謝罪の言葉を口にすると、「本当にそう思ってる?」と言われる。

「思ってる」
本心が伝わるように、ちゃんと言葉で伝える。
「俺だって、不二先輩に心配を掛けたいわけじゃない。
一緒にいたいって思っているし……」

無意識に不二のジャージの裾をぎゅっと空いてる手で掴むと、
ようやく笑顔を向けてくれる。

やっぱり不二は笑っている顔がいい。

今回それを曇らせたのは自分の行動の所為だから、反省するべきだろう。
これからはもっとよく考えようと、心に留める。

「君がそう言ってくれるなら、今回の件はもういいよ……」

僕も大概甘いよなあ、と不二は苦笑する。

「じゃあそれを飲んだら、僕の部屋に行こうか」

ね、と言う不二に「いいんすか?」とリョーマは聞き返した。

「いいに決まっているでしょ。
それとも本当に野宿するつもりだった?」
「罰として入れてもらえないかと思った」
「バカだね。僕がそんなことするはずないよ」

ペシッと、おでこを軽く叩かれる。

「それに向こうでの生活がどんな風だったか聞きたいし、アメリカでのこととかもね。
君といっぱい話がしたい」
「俺も、先輩の話を聞きたいっす」

離れていた分を沢山埋めたい。
多分、不二と同じ気持ちだ。

「そう。じゃあ、行こうか」

ほら、と手を差し伸べる不二に、リョーマも左手を伸ばす。
缶を握っていた部分は暖かいが、それ以外は冷たい。
暖めるように握り締めると、不二は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐ同じように握り返してくる。

今日からはまた一緒だ。
嬉しいと、思う。
この気持ちを大事にしたい。

部屋へと歩く途中、「寝袋は必要ないよね?」と言うと、
「当然」と笑って言われる。

久し振りのベッドだが、きっとゆっくり眠ることは無いだろう。

でもそれも悪くないと、不二の足取りに合わせて足を進める。


「そうだ、まだ言っていなかったけど」
「何?」
「ただいま、不二先輩」

帰る場所はここにある。

おかえり、と響く優しい声は、ファンタよりもずっと好きなのは何か気付いた。

終わり


チフネ