チフネの日記
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2011年02月01日(火) いつかこの思いは届くから  不二←リョ

いつも笑顔を絶やさない、そんな不二も好きだけれどもう一ついいなと思う表情がある。

「この前も言ったはずだけど」

それは困った時に見せる顔。

‘あの’不二が困っている。
そうさせているのは自分だと考えると、不謹慎ながらわくわくしてしまう。
これって好きな子を苛めたい心理と同じ?と不二の顔を眺めていると、
「聞いてるの?」と大きな声で言われる。

「えっ、あ、はい」

実は不二の顔に見惚れて何も聞いていなかったのだが、そんなこと言えるはずがない。
誤魔化してみたものの、バレバレだったようだ。
「もう、いいよ……」と不二は疲れた声を出す。

「君と付き合う気持ちは無いって、そこの所だけ理解してくれればいいから」
「……」
「返事は?」
「理解出来ないことに、ハイなんて言えるわけないよ。
だって俺、不二先輩のこと好きだから」
「それ、100回位聞いた。それで僕はちゃんと返事したよね。君とは付き合えないって」
「明日になったら意見が変わるかもしれないから、待っているっす」
「変わらないから」

どうしたらわかってくれるんだ、と肩を落として、不二は部室へと行こうとする。
その後に続こうとしたら、「君は片付けが残っているでしょ」と振り返りもしないで言われる。

「サボりは感心しないよ。そういう子は好きじゃないな」
「戻ります」
「うん、頑張って」

ひらっと前を向いたまま片手を振る不二に「お疲れ様でした」と声を掛ける。

それに対しての返事は無かったけれど、
今日はこれ以上アプローチしても無駄だとわかったから黙ってコートに向かうことにした。

(今日も振られた)

事態を重く受け止めることなく、明日はいつ告白しようかと考える。
今日は放課後の練習の解散後だったから、意表をついて朝練前にしてみるか。
まだ頭が働いていない隙を狙って言えば、OKをもらえるかもしれない。
しかしその為には、自分も遅刻しないよう登校する必要がある。

出来るんだろうかとあこれ作戦を練りながらボールを片付けていると、
「まだ諦める気はないのかい?」と声を掛けられる。

振り返ると乾がボールを片手に立っていた。

「コートの外に落ちていたから拾っておいたよ」
「どうも」

ポン、とボールを籠に戻してくれた乾に礼を言うと、
「それでさっきの回答は?」ともう一度問い掛けられる。

「いや、諦めないって決めているし」
「ずっと連敗しているのに?不二はきっと変わらないよ」
「そこを俺の魅力でどうにか」
「越前は不二の好みのタイプには当て嵌まらないとデータに出てる。
それでもチャレンジするつもりかい?」
「勿論っす。それにそんなデータ、いつまでも同じってわけじゃないでしょ?」
「言うねえ」

どうしてそこまで?と、首を傾げる乾を、リョーマはふっと鼻で笑った。

「好きになったもんはしょうがないじゃん。
だから不二先輩にも俺のことを好きになってもらう。
それに望みがゼロってわけじゃないだろうし」
「その根拠は?」
「俺の勘」

即答するリョーマの肩を、乾は軽く叩いた。

「まあ、頑張って」

何その言い方と思ったが、面倒なので言い返すのは止めておいた。

相手が不二ならともかく、他の人と会話しても嬉しくもなんともない。
籠を両手に持って、さっさと倉庫へと戻すことにする。



いつからかなんてわからない。
気付いた目が不二を追ってて、それが好きだって気持ちだと知った。
自覚したと同時に、リョーマは不二に告白した。

皆がまだ部活で着替えている最中だったから、不二を含め、そこに居た全員を驚かすことに成功した。

皆がどよめく中、リョーマは動じることなく不二の目をじっと見詰めた。

それで我に返った不二は言葉を詰まらせた後、
困った顔をして「ごめんね」と言ったのだ。

「君の事はただの後輩としか思えないよ」

その答えにリョーマは落ち込むことなく、
「じゃあ、これから後輩以上に思ってもらえるよう頑張るっす!」と答えた。

不二が絶句したのは、言うまでもない。



宣言通り、それ以降も度々告白しては振られた。
他の先輩達から望みがないから止めとけと忠告を受けることもあったが、
どうして諦めなければいけないのかと、反論した。
折角好きになったのに、簡単に無かったことには出来ない。

それに。

(望みがないわけじゃないし)

軽い足取りで、倉庫から出る。

今日がダメでも、明日がある。明日がダメなら、またその次の日。
それでもダメなら一週間、一ヶ月、一年掛けても落としてみせる。
両想いになれる確率は、きっとゼロじゃない。
そう確信しているから、リョーマは決して悲観することは無かった。












「これ、返却お願い」

翌日。図書館のカウンターの椅子に座っていたリョーマに、不二が本を差し出した。

「今日、当番だったんだ」
「っす」
頷くと、「頑張ってね」と言って去ろうとする。
思わずシャツをぎゅっと掴んで引き止めた。

「越前?」
「あの、不二先輩」

好きです、と今朝出来なかった告白をしようとした。
目覚ましを掛けたはずなのにいつの間にか止まっていた為、早朝告白の計画は台無しになった。
だから今言おうと思ったのだが、焦った顔した不二に口を手で塞がれてしまう。
そして耳元で「ここは図書室だよ」と、言われる。

「妙な真似はしない。他の人に迷惑でしょ」
不二の口調が少しきついものだった為、本気なんだとわかった。
頷くと同時に、解放された。

「じゃあ、当番の仕事頑張って」

本棚の間へと消えて行く不二を見て、リョーマは返却された本の束を持って立ち上がった。
さっきまでは面倒だからと放置していたのだが、今は状況が違っている。
不二に近付けるチャンスに変わった。

これも仕事の内、と本を棚に戻す振りをしつつ不二を探す。

「……越前。ちょっと露骨過ぎるよ」

本を手に取っている不二を見付けると、苦笑交じりで言われる。

「カウンターはどうしたの?無人だと、今入って来た人が困るでしょ」
「誰か来たらすぐに戻るっす」
「そうじゃなくって、さ」

頭を軽く掻いてから、不二はリョーマの顔を正面からじっと見た。

「そんなに僕と一緒にいたいの?」
「当たり前じゃないっすか。今更」
「でも僕は君の事はただの後輩としか思えない」
「今はね」
「すごい自信。僕のどこがいいの?何も知らないくせに」

突き放すような言い方だった。
それに傷付くことなく、「全部」とリョーマは胸を張って答えた。

「知らない部分もいっぱいあると思う。
けど知ったからって嫌いになったり、失望したりしない。
好きってそういうものでしょ?」
「……」

不二が一瞬動揺するのがわかった。
けれどそれについて触れることなく、リョーマは何て言われるのか、それだけを待った。

「そう。君の気持ちはよくわかった」

不二はリョーマの前に本を差し出した。

「けど、僕の気持ちは変わらないよ」
「だったら変えてみせる」

ニッ、と挑発的に笑って本を受け取る。

「覚悟しといて」
「……あんまりしたくないんだけど」

リョーマの好きな困った顔をして、「貸し出しの手続きして」と歩き始める不二の後ろを追い掛ける。


(わかっているから、いいんだけどね……)


本当に振るつもりなら、自分が当番の時に図書室に寄ったりしないし、
望みを絶ちたいのなら「君なんて好きじゃない」とハッキリ言うだろう。
不二は優しいけれど、そういうところはきっぱり線を引く。そんな性格をしている。
いつだったか同学年の女子が不二に告白している場面に遭遇したのだが、
「君とは付き合えない。多分、好きになることはないから」と結構酷いこと言ってお断りしていた。
リョーマの告白に対してそんなことを言ったのは、一度も無い。

ただの自惚れじゃない。
だけど、わかるのだ。

不二はどこかで自分に諦めて欲しくないと思っている。

困った風を装いつつ、心の奥底で喜んでいるのが伝わってくるのだ。

(だから平気。問題は……、いつ先輩の本音を引き出してやるかってことだけか)

その時が来たら「知ってた」と満面の笑みで答えよう。

驚いた不二の顔も可愛いんだろうなと、リョーマは思った。





















(参ったなあ)

後ろからついて来るリョーマの気配を感じながら、不二は小さく溜息をついた。

二つ年下の後輩に告白されて、振って、また告白されて、振って、を繰り返したが、
一向に諦める気配がない。
どうせ彼も他の人と同じで上辺だけで好きだなんて言っているのかと思ったが、どうやら本気らしいと気付いた。

まだ子供のくせにドキドキするようなことを言って、心をかき乱す。
このまま迫られ続けると、自分のペースを保つのは難しいかもしれない。

(普段は気まぐれな猫みたいに振舞ってるくせして)

ちらっとリョーマの方を振り返る。

じっと無心で見上げる純粋なその目に、引き込まれそうになる。


(僕にだけは子犬みたいな顔を向ける。そういうのって、……ずるいよ)

もしかしてとっくに彼に落ちているのかもしれない。
だけど何だか悔しいから、しばらくは言ってあげない。

でも心の準備が出来たら、その時は―――。


こっちの本心を伝えたら、きっと子犬のようにはしゃぐんだろうな。

その時のリョーマを想像して、不二はそっと笑った。



終わり


チフネ