チフネの日記
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認めたくないが、精神力ではリョーマの方が上かもしれない。
そんな風に考えるようになったのは、全国大会決勝での勇姿を見た所為だ。
五感を奪われ、コートに立っているのさえ困難な状況でさえ、 リョーマは諦めようとしなかった。 普通なら絶望して、試合を棄権するはずだ。 それなのに見えない視覚の中、ラケットさえ掴むことが出来ない状況でも、試合を続けようとしていた。
「テニスって楽しいじゃん」
お前、満足に打つことも出来なかっただろうが。 それで楽しいって、どうして言えるんだ。
出て来たリョーマの言葉に、跡部は呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。 あそこに居たのが自分だったら、同じことが言えただろうか?
無理だな、と軽く首を振る。
人前では決して弱気になるような真似はしないが、 あんな風に笑って「楽しい」とは言えないはずだ。
それを思うと、この自分より小さくすっぽりと腕に収まるサイズのリョーマが大きく見える。 小さい、なんて言ったら滅茶苦茶怒るから口には出さないけど、 どこにあんな度胸が仕舞われているのか不思議で仕方が無い。
と、ごちゃごちゃ色んなことを考えながらリョーマの体にぺたぺたと触れていると、 「ちょと、邪魔しないでくれる?」と不機嫌そうに言われる。
目線は画面に向けたままで、コントローラーを握っている手を止めていない。 映っているのは何とかという欲しがっていた最新のゲームソフトの画面。 今日のリョーマはずっとそれに釘付けのままだ。
欲しがっているのを知ってわざわざ買って来て遊んでもいいと家に呼んだのは自分だが、ずっと放っておかれるのは面白くない。
跡部はクッションに座っているリョーマを後ろから抱き締めて存在をアピールしていたのだが、数時間無視され続けた。 やっときりのいい所まで来たのか、リョーマの方でも声を掛ける余裕位は出たらしい。
「邪魔なんてしてねえよ。今まで大人しくしてただろ?」 反論すると「俺のけつ、触ってたくせに」と刺々しく言われる。
触れたのは事実だが、あんまりにも無反応だった為、虚しくなってすぐに引っ込めたじゃないか。 わかっていたのなら何でもいいから、言葉くらい発して欲しかった。
ムッとしつつ「お前がゲームに夢中になっているのが悪い」と言い返す。
「新作ゲーム買ったから来いよって呼んだのはあんたの方でしょ。 ゲームして何が悪い?」 「数時間もやっている奴があるか!ゲームは一日一時間って決まってるだろうが」 「誰が決めたんだ、そんなルール!それじゃいつまで経ってもクリア出来ないじゃん!」 「そりゃ残念だったな。だったら毎日うちに来いよ」 「何その理屈……」
ハア、と溜息をついた後、リョーマはぴこぴこと画面を操作して、 そして初めてコントローラーを床に置いた。
「もういいよ。セーブしたし、中盤までやれたから今日はこれで満足しておく」 「リョーマ?」
ニッと笑ってリョーマはこちらを振り返った。
「いまからはあんたと時間を過ごすことにする。それでいいでしょ」 「いいでしょって、お前その言い方」
なんだか投げやりみたいで嫌だなと思ったのも束の間、 「ほら」とリョーマは両手を広げてこちらを迎えようとするような体勢を取る。
悔しいけど、この誘いを断れるはずがない。逆らえない。
リョーマは我侭で、生意気で、素っ気無いけれど、 こちらが甘えたい時は惜しみなく愛情を与えてくれる。
これでは、ますます嵌っていくばかりだ。
「お前って、本当にずるいよな」 不意に出た言葉に、リョーマは「は?何それ」と首を傾げる。
「だから責任取れよな」
正面から抱き合う形で抱き締めると、 「わけわかんないし」と小さな呟きが聴こえる。
跡部は何も答えず、やっぱりまだまだ成長途中の小さな体を包み込むように抱き締めた。
だけど、何故か自分の方が守られているような、 そんな安心出来る気持ちになった。
終わり
チフネ

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