チフネの日記
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2010年10月07日(木) 2010年 手塚誕生日話

今日が手塚の誕生日だと、リョーマは初めて知った。
しかも朝練が終わるなり、手塚を取り囲んだ女子達の声からそうなんだと知った。
なんとも情けない話だ。

(俺、そんなの知らない。部長は何も言ってくれなかった)

ショックを隠し切れず立ち尽くすリョーマに、
ニヤニヤ笑いながら近付いて来た不二がポンと肩を叩く。

「その様子だと何も知らされていなかったみたいだね。
どうするの?プレゼントも買ってないんでしょ?」
「知っていたなら教えてくれてもいいのに。なんで黙っていたんすか。
毎日、部室で顔を合わせていたくせに……」
基本、大会が終わったら三年生は引退なのだが青学はエスカレーター式の為、
部活への参加が許されている。
なので、今も三年生達はテニス部に顔を出して練習している。

「何でって言われても、僕の所為じゃないでしょ?
付き合っているのにそんなことも知らないなんて、二人の会話不足が原因なんじゃないの」
「ぐっ……」
事実なので何も言い返せない。
黙るリョーマに今度は不二の背後から乾がひょいっと顔を出す。

「そう落ち込むな、越前。プレゼントはなくとも今日は思い切りサービスしてやるといえば、解決だ」
「ああ。その手があったね。さすが乾」
「だろ?これを言えばプレゼントが無いことなど簡単に誤魔化せる。良かったな」
「もうあんた達は黙ってて下さい!」
大声を出して、リョーマは二人から離れた。
構っていられない。
今はそんな場合ではないのだ。

女子生徒達からのプレゼント攻撃をかわしている手塚を遠目に見ながら、リョーマは考える。

(どうしよう。プレゼントなんて買う余裕は無い)

女子のプレゼントは断っても、恋人である自分からのものは受け取ってくれるだろう。
期待しているのかもしれない。
が、財布の中は厳しい状況だ。
先週あんなに買い食いするんじゃなかったと後悔しても遅い。
困ったぞ、とリョーマは頭を抱えた。












放課後になっても良い案は浮かばなかった。

(それもこれも部長が誕生日を教えてくれなかった所為だ)

事前に知らせてくれたら何か買えたかもしれないのに。
突然、今日が誕生日だと言われてもどうしようもない。
溜息をつきながら部室へ向かって歩いていると、ポツッと頭に冷たいものが当たる。
雨だと気付いた瞬間、パラパラと降り出し始める。
これではコートでの練習は無理かもしれない。
そう思って部室へと行くと、振り出した雨に練習をどうするか相談を始めていた最中だった。

結局、急な雨の所為で予定は変更されて、今日の部活動は中止になった。

雨の中、手塚とリョーマは一本の傘を使って一緒に下校して行く。
たまたま手塚が置き傘を持っていた為、事なきことを得た。
手塚が傘を持って、リョーマがちょっとくっ付く形でゆっくりと歩く。

「手塚先輩!」
門に差し掛かった所で、知らない女子生徒が手塚を呼び止める。
さすがに知らん顔するわけにいかず、手塚は足を止めた。
当然、同じ傘に入っているリョーマも止めることになる。
そうでないと雨に濡れるからだ。

女子生徒はお決まりのように誕生日を祝う言葉を口にして、プレゼントを渡そうと包みを手塚へと差し出す。
さすがに一対一(自分も側にいるが)で出されたら受け取るかな、とリョーマはぼんやりとその光景を眺めた。

すると、
「申し訳ないが、受け取ることは出来ない」と、手塚はきっぱりと拒絶する。
「けどっ、先輩の為に選んで」
「プレゼントは誰からも受け取らない。もう決めたことだ」

切り捨てるような口調に、女子生徒は怯み、そして頭を下げて走って行ってしまう。
バシャバシャと水の跳ねる音が聞こえた。

隣に立っていたリョーマは当然一部始終を見ていたわけで、気まずいと心の中で呟く。
この後どうしようと思っていると、
「すまないな」と手塚が口を開く。
「えっ?」
「俺の厄介ごとにお前まで付き合わせて」
「別に、気にしていないし。傘の無い俺がどうこう言えるわけでもないから」
視線を逸らして言うと、「そうか」と手塚が返事するのが聞こえた。
何だか寂しそうな声に、慌てて顔を元に戻す。

「何でそんな風に言うんすか。ちょっと変だよ」
リョーマの言葉に、手塚は低い声を出す。
「お前が気にしていないと言うからだ。
少し位、妬いてもいいんじゃないか」
「そりゃ、気分は良くないよ。あんなもの、近くで見せられてさ……」
「本当か?」
急に嬉しそうな顔に変わったのを見て、ムッとして言い返す。

「それよりあんたが今日が誕生日だって教えてくれなかった方がムカついた。
何であんな顔も知らないような女子の方が知ってるわけ?」
「調べたんだろうな。女子生徒の情報網は侮れない」
「じゃなくって!もう、いい。
どうせ誰からもプレゼントは受け取らないんでしょ。
買うお金も無いからちょうど良かった。というわけで、俺からのお祝いは無しだから」

そう言って先を歩こうとするリョーマの腕を、手塚は素早く掴む。

「何?」
「離れると、雨に濡れるぞ」
「いいよ、これ位」
「風邪を引かせたくない。
いや、それだけじゃなく……俺の側に居て欲しい」
「部長?」

いつになく困った表情を見せながら、手塚は言った。

「その、教えなかったのは悪かった。
プレゼントの催促だと思われるのが嫌で、黙っていただけだ。それだけで他意は無い。
しかし祝ってもらいたいと思う気持ちは本当だ。わかってくれないか」

申し訳無さそうにしている手塚に、リョーマの中にある怒りがスッと消えて行く。

ケンカしている場合ではない。
今日は手塚の誕生日だ。
素直に祝おうと、態度を軟化させる。

「ごめん、言い過ぎた」
さっきよりも、もう少し手塚に寄り添ってまた一緒に歩き始める。

「俺なんかより知らない女子の方が部長のことを知ってると思ったら腹が立って、つい」
「いや、俺の方こそいらない気を回して不快にさせたな。すまない」

互いに謝罪して微笑み合う。
もうそれでケンカは終了という合図だ。

「この後、家に寄ってくれないか。
母にはもうお前を連れて行くと連絡してある」
「えっ、そうなの?」
「ああ。きっとご馳走を用意してくれているだろうから、沢山食べていくといい」
「やった!部長の家のご飯美味しいから嬉しいっす。
母さんに夕飯いらないって連絡しないと」
「そうしてくれ。食後にはケーキもあると言っていたな」
「うん!でも、いいの?
部長の誕生日なのに、俺ばかり得している気がするけど」
「構わない。お前が側に居てくれることが、俺にとって何より嬉しいことだからな」

学校から大分離れて人通りも少なくなったからだろうか。
本音を語る手塚に、リョーマの頬が赤く染まった。
誤魔化すように、慌てて話題を変える。

「そうだ!プレゼントと言えば……」
「どうした」
「朝練の時に乾先輩が言っていたけど、
何も用意していないなら、今日は思い切りサービスするって言ってみればってアドバイスされたけど、
そんなのは嬉しくないよね?」

馬鹿馬鹿しいと笑うリョーマと反対に、手塚はふっと真顔になる。

「いや、嬉しいぞ」
「……部長?」
「そういうことなら大歓迎だ。むしろ何よりのプレゼントだ」
「え?……え!?」
「家に着いたら、俺の部屋へ直行するか」
「ちょっと待って。夕飯は?」
「まだ時間がある。それまで有効に過ごそう」
「そんなの嫌っす。おばさんもおじいさんもいるんでしょ!?」
「安心しろ」
きりっとした顔で、手塚は言った。
「声を出さないよう互いに努力すればなんとかなる」
「それってちっともなんとかなってないから!」
「さあ、行くぞ。越前」

どうやら手塚の中のスイッチを押してしまったようだ。
後悔しても遅い。
引き摺られながら、家へと連れて行かれる。






結局リョーマは手塚の欲しいだけ‘プレゼント’を与えることになり、
翌日の朝練に不参加という事態を迎える羽目になる。

来年はこんなことにならない為にも、ちゃんとプレゼントを用意しておこう。

それが自分の為にもなると、痛む腰を抑えながらリョーマは心の中で誓った。

終わり


チフネ