チフネの日記
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2010年10月04日(月) 2010年跡部誕生日話 

リョーマの呼び出しに、跡部は内心動揺しながら青学へと向かった。

「今日、誕生日でしょ。プレゼント用意してあるから取りに来てくれる?」

渡しに行くから、ではなく取りに来いというのが実にリョーマらしい。
が、そもそもプレゼントを用意してあるということ事態が不自然だ。
何か企んでいるんじゃねえかと、跡部は体を震わせた。

確かに今日が誕生日だと前からしつこい位、リョーマに念押ししていた。
そうでもしなければ忘れられる危険があるからだ。
相手がいるのに一人で誕生日を迎えるなんて寂し過ぎる。
だから忘れるなとお願いする跡部に、
「しつこい」とリョーマは一言で終わらせてしまう。
ひょっとして無視されるのでは、と懸念していたが、
昨日入ったリョーマのメールで最悪の結末は免れることが出来た。

しかしまだ不安は残っている。

リョーマからのプレゼント。
嬉しくないはずがない。
それが何であれ、リョーマからもらうものは全て宝のように扱うだろう。
家宝として飾っておきたい。
全力で永久保存するつもりだ。

けれど。
(越前が俺様にプレゼント?一体どういう風の吹き回しだ……)

問題はそこにある。
付き合っているとはいえ100%リョーマのペースに合わされ、
気にいらなければ無視され、
手を出そうとしたら拳や足が出て、
甘い空気とは無縁な時間を今まで送って来た。

ここへ来てプレゼントなんてしおらしいことを言い出すとは、何かおかしい。
陰謀の臭いがする、と跡部は思った。

(ひょっとして期待させておいて「やっぱり嘘」と笑うつもりか?
いや、それでも俺様は挫けねえ。
これも愛の試練だと思って、耐え抜いてみせる!)

何しろほぼ強引に付き合うことをリョーマに承諾させた身なので、
立場は圧倒的に跡部の方が弱い。
未だに手を出させてくれないのが、良い証拠だ。

それでも好きだから、一緒にいられるだけでも幸せを感じている。
このまま付き合っていれば、キス出来る日も来ると前向きに考えている。

(それ以上のことは直ぐには無理だろうな……。
だが、焦るな。じっくりと攻め落とすこともまた楽しいからな)

自分に言い聞かせて虚しくなりそうになったが、慌てて気を引き締める。

とりあえず今日、リョーマが何をくれるか確認しなければ。
どんなものでも喜んでみせよう。
罠だったら、笑って許す位の心の広さを示してみせよう。

覚悟を決めて、跡部は青学の正門前に立った。

「何だ、早いじゃん」
リョーマの声に顔を上げると、走ってこちらに向って来る所だった。
「あんたがそこで突っ立っていると目立つから嫌なんだよね。早く車に乗ろ」
「あ、ああ」
跡部はリョーマを連れて、今ここまで送ってくれた自家用車に乗り込む。

「とりあえずあんたの家に行こうか」
「そうだな」
ちらっとリョーマの持ち物を確認する。
プレゼントらしい包みは無い。
いつものバッグに仕舞いこんであるとしたら、そう大きなものでは無いだろう。
いや、そもそも何も無いなんて可能性も……。

頭の中で色んなことを考える跡部に、
リョーマは「どうしたんすか?」と顔を覗き込んで来る。
「妙に静かだけど、大丈夫っすか。具合でも悪いとか?」
「いや、そういうわけじゃ」
「何か顔色もあんまり良くないよ……?」

そっと、額に手を置かれる。
初めての行為に、体が硬直してしまう。
リョーマに触れることは滅多に無い。
むしろ「触んな!」と蹴られる方が珍しくない。

鼓動を速くしていると、
「今度は顔が赤くなって来た。熱があるかもしれない」と、心配そうに言われる。

「家に着いたら横になった方がいいかも」
「平気だ。この位何ともねえよ」
「けど」
「今日は少し長い時間、一緒に過ごして欲しい」

真剣な目でリョーマに訴えると、
少し驚いた顔をした後、「わかった」と頷くのが見えた。


屋敷に到着して、二人は直ぐ跡部の自室へ直行した。
誕生日だが両親は海外で仕事中だ。
プレゼントだけは航空便でと届いたので、忘れてはいないらしい。
そのことだけでも感謝している。
子供の頃は寂しいと思ったが、今ではいない方が気兼ねなく過ごせる。

それに今日はリョーマがいるから言うこと無し、と浮かれ気味にソファに腰掛ける。
広いソファなので、隣にリョーマが腰掛けてもまだ余裕がある。
同時に入って来た使用人が飲み物とケーキをテーブルに用意して出て行く。

「これ、誕生日ケーキっすか?」
丸ごとホールのケーキを見て、リョーマは目を丸くしている。
恥ずかしいことにケーキにはちゃんとロウソクが刺さっていて、火が灯っていた。
使用人達からの気持ち、ということらしい。
「ああ」
「二人じゃ食べきれないかもよ」
「じゃあ、持って帰れよ。どうせお前が食べるだろうと思って用意させたものだしな」
「え、いいの?」
「ああ。俺様は一切れ位で充分だからな」
「やった!」
子供のようにはしゃぐリョーマに、跡部は目を細める。
いつもクールだが、ふとした拍子にこんな可愛い表情を見せてくれる。
だから、ますます好きになって行く。

「じゃあ食べる前に願い事して、火を消して」

リョーマの笑顔があまりにも可愛くて、写真に撮って残しておきたい位だと思った。
だが今の雰囲気を壊したくなくて、言われるまま一本、一本ロウソクの火を消していく。
最後のを消したと同時に、リョーマがパチパチと手を叩いた。

「誕生日おめでとう」
「ああ。ありがとうな」
「これ、プレゼントっす」
がさごそとバッグの中を探り、小さな紙袋を取り出す。
一応、リボンでラッピングされている。
「言っておくけど高いもんじゃないからね」
「バーカ。そんなものより気持ちだろ。ありがとうな」

言いながらも跡部はまだこの時点でも半信半疑だった。
中から「騙されたな、馬鹿」と書かれた紙が出て来るオチかと疑いつつ、紙袋を開ける。

しかし中身を見て、自分が間違っていたことに気付く。

「リストバンドか。お前の使っているメーカーと同じだよな」

リョーマが使っているものの色違いの黒だ。
意外に普通のものだったと、拍子抜けしてしまう。

「そんなのいっぱい持っているだろうけど、替えとして使ってよ。
あっても困らないでしょ」

相変わらず生意気なことを言いつつ、リョーマは横を向いて紅茶を飲んでいる。
けれど、頬は少し赤い気がする。
慣れないことをして照れているのか。

「いや、有り難く使わせてもらう。……そうじゃないな、使うのは勿体無い。
飾っておくか」
「ちょっと!そんな大したものじゃないから、使ってよ。
外だと誰かに何か言われそうだから、俺とテニスする時だけでも」
「そうだな」

リョーマの腕には紺色の色違いのものがあるはずだ。
色違いなんて恋人らしいな、とにやけてしまう。

「ありがとうな、越前」
「別に。誕生日だからね。
跡部さんにはいつもお世話になっているし」
「それが理由か?」
「……」

無言でリョーマはこちらをちらっと見てから、首を横に振る。

「今日位、その、恋人らしいことしても良いかなって思っただけっす」
「越前っ!」
それを聞いて跡部はたまらなくなって、直ぐ横に座っているリョーマを抱き締めようとした。
が、リョーマが手に持っていた紅茶のカップが揺れて、跡部の膝に中身が掛かってしまう。

「熱っ!!」
「だ、大丈夫?」
備え付けの布巾を咄嗟に掴み、リョーマは跡部の膝を拭き始める。
「全くもう、何してるんすか」
「いや、つい感極まって」
「急に抱きつこうとするからバチが当たったんだよ」
「俺様が悪いのか!?」

声を上げる跡部に、リョーマはフッと笑って顔を上げる。

「うん」
「肯定すんなよ」
「抱きつく時はよく状況を見ないと、また痛い目に合うかもよ?」
「う……」

何度も拳や蹴りを入れられている身なので、今の言葉は笑えない。

硬直していると、リョーマは布巾をぽいっとテーブルに放り投げて、
それから一歩踏み出して、すとんと跡部の膝に乗って背中に手を回して来た。

まさかの急展開に、跡部は目を大きく見開く。

「今日だけは、特別」
「越前」
「誕生日、おめでとう」

もう一度祝いの言葉を口にして、リョーマはそのまま体重を預けてくる。

多分、これ以上は何も出来ない。
やったら最後、どうなるかは身に沁みてわかっている。

だから少しでも長くこの幸せな時間が続くようにと、跡部はじっと動かないようにする。


(今年でこの距離まで来たということは、……来年は間違いなくいけるな)

頭の中は邪なことでいっぱいだが、
悟られないように必死で平静な顔を作り続けた。



終わり


チフネ