チフネの日記
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2010年10月01日(金) 03 全て、君次第

今日の千石はご機嫌だった。
小テスト直前に開いたページがたまたま出題されて、簡単に問題を解くことが出来たり、
購買でいつもはすぐに売り切れる人気のパンを購入に成功。
午後は教師の都合で急に自習になって、
その間にクラスの女子達と楽しくお喋りをして、今度遊びに行く約束も取り付けた。
部活の時間も苦手な顧問が不在だった為、勝手に早めに切り上げて青学に向かった。

到着しても、リョーマはまだ部活に励んでいる頃だ。
部活動に励む青学の女子達の生足を拝む余裕は十分にある。
楽しみ、と千石は浮き浮きとした足取りで歩いていた。
それはそれは、ご機嫌だった。

この瞬間までは……。



「越前君、これっ、読んで下さい!」
「あの、ちょっと」

顔を真っ赤にして一人の女子生徒が去って行く。
背丈は、リョーマと同じ位。多分、一年生なのだろう。
立っている千石に気付くことなく、行ってしまう。

後には手紙を押し付けられて呆然としているリョーマだけが残されていた。


「リョーマ君、モテモテだね……」
低い声を出して近付くと、リョーマは千石に気付いてぎょっとしたように目を見開く。
「見てたの!?いつからそこに居たの?」
「今、来たばかりだよ。
そうしたらリョーマ君が告白されているのを目撃しちゃった」
「告白されたわけじゃない。手紙を渡されただけ」
「へえ。告白じゃないのなら、何かなあ。
じゃあ、そこに何が書かれているか教えてよ?」
「……それはさすがに、ちょっと」
「ほら、リョーマ君だってわかっているんでしょ?
なんで、俺がこんな場面を目撃しなくちゃいけないんだよ!」
「なっ、逆切れかよ。俺の所為じゃないのに」

やれやれ、と肩を竦めるリョーマに、千石は悔しげにその場で足踏みをした。

「リョーマ君が格好いいから、告白されちゃうんでしょ!?
なのにふらふらと一人で水飲み場まで歩いて来るなんて、無防備過ぎる!
告白するチャンスだよって、誘ってんの?」
「どういう理屈だよ……」
「とにかくリョーマ君はもっと気をつけるべきだよ。
いつだって色んな所から狙われているんだから」
「それは清純の妄想なんじゃないの」
「違うよ!もう、なんでわからないのかなあ」

さっきまでは上機嫌だったが、たちまち下降していく。
リョーマは自覚していないのだが、実はとてもモテる。
一年生なのに青学テニス部でレギュラー、その上この容姿だから女の子が放っておくはずがない。
ラブレターを受け取った(押し付けられた)のを見たのは初めてだったが、
リョーマの部屋に無造作にいくつか散らばっていたことも知っている。
悪いと思ったが、リョーマが席を外している隙にこっそり見て、とても嫌な気分になった。
『俺のリョーマ君に勝手に好きなんて、言うなよ!』
そんな勝手な怒りに震えたこともある。

その気になればリョーマはいくらでも女の子と付き合うことが出来るだろう。
だからこそ、不安だ。
決してリョーマは男が好きなんじゃない。
千石が押して押して、最後に根負けして付き合うことになっただけ。

もしも、女の子の方がいいと言い出したら。
千石に勝ち目は無い。

泣きそうな目でリョーマを見ると、
「なんて顔してんだよ」とリョーマは笑った。

「あんた、本当に馬鹿だよね。
自分は浮気をいっぱいしているくせに、俺は告白されるのも駄目なのかよ」
「だって俺は全部遊びだけど、リョーマ君はわからないじゃん。
可愛い女の子を見て、いいなって思うこともあるでしょ?」

千石の問いにリョーマはあっさりと「そうかも」と頷く。

「……そこは否定して欲しかったなあ」
「年中、女に目を向けてるあんたが言うな」
「だって、さあ」

千石が女の子を見るのは習慣みたいなものだ。
そこに恋とか、好きとかいう感情は一切含まれていない。
たまに浮気もするけど、それはリョーマと会えなくなった時に相手が寄って来た場合だけ。

でも、リョーマは?
誰かに感心を向ける時は、既に本気で相手のことが好きになっているからではないだろうか。
それが女の子相手なら、千石にとってまずい展開になる。

どんな綺麗な顔をしていても、リョーマだって男だ
女の子の柔らかい体の方がいいと思ったら、二度とこちらに振り向くことは無いだろう。

「俺は、リョーマ君に捨てられるのが怖いんだ」
必死に千石がそう訴えると、
リョーマは深い溜息をついた。

「いつもバレるような浮気してるやつが何言ってんの」
「……全くその通りです」
「そう思うんだったら、少しは隠す努力をしろよ。
俺がどんな気持ちになるか、今日のことでわかったんじゃない?
ちょっとは考えてよね」

あげる、とリョーマは先程の女子から押し付けられた封筒を千石に差し出す。

「え、これ、なんで俺に?」
「清純の気が済むようにすればいい。
元々、応えるつもりもないから」
ニッ、と笑って、リョーマは帽子を被り直す。

「大体、余所を向く余裕なんて俺には無いよ。
清純みたいに手の掛かるような奴と、付き合っているんだからね」
「リョーマ君……!」

生意気そうに笑うリョーマの顔が本当に格好良くて、
千石は見惚れてしまう。
何度でも恋に落ちてしまう。
好きという気持ちが大きくなっていく、そんな感覚を知ったのもリョーマと付き合ってからだった。

「じゃ、俺、コートに戻るから」
「えっ、今から俺と帰るんじゃないの?ここはそういう流れでしょ?」
「バカ。早く戻らないと、グラウンド20周させられて、もっと遅くなるよ。それでもいいの?」
「よくないよ……」
「わかったら、そこで大人しく待ってること。
誰かに声掛けて、ついて行ったりしたら怒るからね」

わかった?、と、ピッと伸ばした指が顔の前で止まる。
千石はコクコクと何度も頷いた。


「じゃあねっ」
ダッシュでコートに向かう後ろ姿に、
千石は(これって、まるで駄目な犬に躾する飼い主みたいな構図……)と、苦笑した。

それでも二人は幸せだから。

ハプニングに遭遇して青学女子の生足は拝めなかったけど、
リョーマの気持ちが聞けたから、やっぱり今日はラッキーな日だ、と頷いた。


チフネ