チフネの日記
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2010年06月28日(月) 熱ピタ 4 塚リョ 

新学期が始まった。

今日は部活動が無い日なので、午前中に帰宅することが出来る。
つくづく暇だな、と手塚は思った。

いつもなら「時間が空いた分、俺とテニスしよ」とリョーマが誘って来るところだ。

しかしその彼はもう、ここにはいない。

新学期を待たず、渡米してしまった。
他の部員に挨拶も無く、ひっそりと。

だが手塚だけは事情を知っていた。

「大会が終わったらアメリカに行くことになった」

リョーマの衝撃の告白に、内心では驚いていたが顔には出さなかった。

だって、何か悔しいじゃないか。
本当なら自分が先にドイツへ行くはずだった。
きちんと計画を立てて留学を決めていたのに、ひょいっとコンビニでも行くかのようにアメリカ行くと言うリョーマの自由さが少し羨ましく、そして妬ましくも思えた。

平静を装い、「本当に行くのか?」と訪ねると、「うん」と無邪気な笑顔で答える。

「わかった。行って来い」
「止めないんだ?」
「ああ。向こうに行くことがお前のプラスになるとわかっているから、俺は止めない。
それとも行くなと言ったら止めるのか。そんな軽い覚悟じゃないだろ」

手塚の言葉に、リョーマは無言で頷く。

決意は固いとわかったので、もう手塚はあれこれ言うのは止めにした。


「ところで荷造りは出来ているのか?
ここ最近、ずっとこっちに入り浸りだろう。大丈夫なのか?」

クーラーが無いからと、リョーマはずっと手塚の家に避難していた。
手塚の家族が歓迎してくれるのを良いことに、ほとんど越前家には帰っていない。

「うーん。多分大丈夫」

目を逸らして言ったリョーマに、何も準備出来ていないことを悟った。


それから嫌がるリョーマを引っ張って、越前家に行き荷物を纏める作業へと入った。
一度では無理なので、何度かにわけて仕分けしていく。

そうこうしている間に、全国大会が終わった。

後、一日を残してアメリカに行く直前も、二人は掃除に追われていた。



「面倒くさい……。こんなの放って、今ある荷物だけでアメリカ行くから大丈夫だよ。
足りないのは送ってもらえばいいし」
「そうはいかない。旅立つ前に整理整頓しておくべきだ。
ご家族に余計な仕事を増やすつもりか?」
「そういう意味で言ったんじゃないけど」

わかったよ、とリョーマは荷物を片付ける。
不貞腐れる表情に苦笑しつつ、手塚も一緒になって手伝った。


リョーマの自室の全てがダンボールやトランクに納められたのを最後に、
二人は床に寝そべった。


「ああ。疲れた。暑いー。早く部長の家に行って涼みたいー」
「もうそろそろこちらに戻ったらどうだ。家族と過ごせる日も残り少ないのに、俺の家に来ていていいのか」
「いいよ。いつでも会えるから。それよりこの暑さの方が耐え切れない。
でも動きたくないー」

疲れた、というようにリョーマは溜息をつく。
その顔を覗きこむと、部活の後みたいに汗をかいている。
前髪はべっとりと額にはりついていて、鼻の周りも水滴のような汗が浮かんでいる。
つと、頬から鎖骨へと汗が伝わるのが見えた。

「暑いよ、もう。部長、なんとかして」
「なんとか、と言われても無理だな」
「簡単に諦めてないでさあ」
「無茶言うな」

不意に手塚はリョーマの頬に手を触れた。

汗まみれのリョーマの姿を見て、欲情した所為だ。

汗を掻いている状態でくっ付くのは嫌だとリョーマはよく言うが、
クーラーの中で涼しげにしている顔よりも、ずっとそそられる。

「部長?」
訝しげに視線を向けるリョーマに構わず、上に圧し掛かって汗ばんでいる頬にキスをする。
くすぐったいのかリョーマは身を捩って、抵抗しようとする。
逃さないよう片手で腰を押さえ込み、シャツの中に手を入れた。

さすがにそこで「ちょっと、待ってよ!」とストップが入る。

「ここ俺の家だよ?下には親父もいるし、それにこんな汗かいているの嫌なんだけど」
「なるべく静かにしよう。汗は後でまとめて流せばいい」
「本気で言ってんの!?絶対ばれるって。
部長の家に行ってからにしよう。逃げたりしないから、お願い」
「悪い。こちらも我慢出来ない」

そう言って手塚が下半身を押し付けると、リョーマは驚愕したように目を開ける。

「何それ。どこでスイッチ入ったわけ!?」
「お前の無防備な姿を見てからだな」
「そんな言い訳」
「それと、もうすぐ手を伸ばしてもいない距離に行くと思った所為かもしれない」
「……今頃それを言う?ずるいよ、部長」

抗議しながらも、リョーマは体から力を抜いた。
しょうがないというように、目を閉じる。
どうやらこのまま続けても良いということらしい。

階下にはリョーマの家族がいるので、あまり無茶は出来ない。
それを承知で、手塚はリョーマの体に触れていった。
ここからいなくなっても忘れないように、丁寧に。


声も出せない状況だったけれど、あの日は大いに盛り上がったな、と手塚は思った。
自ら両手で声を押し殺すリョーマの姿は反則的に可愛かった。
終わった後は、ものすごく怒られたが後悔はしていない。


一人で自分の部屋にいると、夏の間中ずっと居候状態だったリョーマのことを思い出す。
残暑が厳しいと、特に。


(アメリカも暑いだろうに……)

クーラーがあるから平気、というリョーマの声が聞こえそうだ。

フッと手塚は笑った。




もう少し涼しくなって、そうしたら。
秋には面白そうなことが待っている。

今日、竜崎先生から聞かされたU−17の合宿の話を思い出す。
青学のレギュラーは全員招待されるということらしい。

きっとそのメンバーには、リョーマも入っているに違いない。
面白そうなことは無視出来ない彼のことだ。
遠路はるばるやって来るだろう。
いつものように遅刻して、それでも堂々と入ってくる姿が目に浮かぶ。


(この夏が終わったら、また会える)


そうしたら、きっとぴったりくっ付いても怒られることはないはず。
これから先は今以上に良い季節になりそうだ。

手塚は窓から外を眺め、早く秋になれと願った。


チフネ