チフネの日記
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2010年06月27日(日) 熱ピタ 3  塚リョ

ベッドの上で、リョーマは気持ち良さそうに寛いでいる。

ずっと見ていたい光景だ。
自分の部屋にリョーマがいる。
それだけで手塚の心は幸せに満たされていた。


「やっぱりこれだけ暑いとクーラーは絶対必要だよね。
なのに親父の奴、どうせ学校行っているんだから勿体無いって、
俺の部屋に付けてくれないんだ。
暑くて寝られないのに、何考えてるんだか」

例えリョーマの目的が手塚と過ごすことではなく、
クーラーの効いた快適な部屋目当てだとしても、文句は言うまい。

二人で過ごしているという事実だけを考えていれば良いのだから。

「そういえば、部長」
「なんだ」
「ファンタ」
「……」

「お茶」「ご飯」と言えば出て来ると思っている中年の親父か、と一瞬思ったが、
リョーマが望むのならといそいそとファンタを調達しに階下へと向かう。
冷蔵庫には常にリョーマの好きなファンタが常備してある。それも手塚の小遣いから購入したものだ。
ペットボトルの中身をグラスに空けて、トレイに乗せて手塚は再び自室へと戻る。

「おかえりー。ファンタちょうだい」

先ほどまで寝転がっていたリョーマは、壁を背にしてベッドの上に足を投げ出して座っていた。
膝には漫画の本がある。

ちなみに二人共、風呂も食事も済ませてある。
練習後の汗臭いままでいるのは嫌だというリョーマの主張に、早々と風呂に入ってパジャマに着替えて寛いでいた。

「ベッドの上で飲むのは駄目だ。せめてこっちに来い」
机の上にグラスを置くと「ちぇっ」と舌打ちしてリョーマは起き上がった。

「あれ?部長の分は?グラス、一個しかないよ」
「俺はいい。お前の分だけだ」
「ふーん。じゃあ、遠慮なく頂きます」

ごくごくと美味しそうにファンタを飲むリョーマに、
手塚は「冷えたりしないのか?」と声を掛けた。

「えっ、なんで?」
「クーラーの効いてる部屋でファンタを飲んだら、普通体温が下がるだろう。
今日は欲しがるとは思わなかったぞ」
「そんなの関係ない。俺、冬でもファンタ飲む自信あるよ」
「止めとけ。聞いてるこっちが寒い」
「本当のことなのに」
「せめてファンタを温めたらどうだ。それならなんとか」
「そんなの飲みたくないよ」

眉を潜めてリョーマはまたベッドへと戻る。
伏せてある漫画を読もうとする姿に、手塚は「おい」と再び声を掛ける。

「宿題はどうした。ここに泊まりに来る条件として、きちんと勉強もするとご両親に約束したはずだ」
「あー、部長やっといて。鞄に入っているから」
「どうして、俺が」

反論しようとする手塚に、リョーマは「お・ね・が・い」と上目使いして、ぱちんと両手を合わせる。

「この本、明日桃先輩に返さないといけないんだ。
だから、ねっ」
「おい」
「部長なら一年の宿題なんて楽勝でしょ?
俺、見たいなあ。部長がすらすらと問題を解いていく所」

期待に満ちた目を向けられ、手塚の中で何かのスイッチが入った。

「任せておけ!」
「あ、国語の宿題だから。よろしくっ」

リョーマが持って来た鞄を開け、教科書とノートを手にして、
「今日の宿題」とメモが挟んである箇所をものすごい勢いで解いていく。
ひょっとして最初から自分にやらせるつもりで、このメモを挟んでいたのではないだろうか。
そんな疑惑が一瞬浮かぶが、
恋人を疑うのはよくないと思い、ノートを埋めていくことだけに専念する。


30分ほどで全てが終わり、ふと振り返ると……リョーマはこちらを見ておらず、漫画に夢中になっている。

ここで問い詰めても、「いや、さっきまでちゃんと部長のことを見てたよ?」と白を切るのは間違いない。

さて、どうしようかと考えた手塚の目に、エアコンのリモコンが目に映る。

(こっちを向いてもらうぞ。越前)

そーっとリョーマに気付かれないよう手を伸ばし、設定温度を下げた。


しばらく様子を眺めていたら、リョーマはページを捲りながら腕を摩っている。
何度かそれを繰り返した後、ぶるっと体を震わせて顔を上げた。

「ねえ、ちょっと寒くない?」
「そうか?」
「気付いてないの?あんたの体も震えているよ」
「ハッ、しまった」
「わかっていて、そのままにしてたんすか」

呆れたような目を向けるリョーマに、手塚は黙って立ち上がり、すぐ隣に腰掛ける。

密着する形になるので、リョーマの体温が直に伝わる。
暖かいな、と手塚は思った。

「ねえ、温度上げてよ。これじゃ涼しいを通り越して寒い」

リモコンを探し始めるリョーマを止めるように、手塚は横から手を回して引き寄せた。

「えっ。何?これじゃ漫画読めないんだけど」
「この体勢でも読めないことは無い。それにくっ付いていれば暖かいから問題無いはずだ」
「いや、問題あるだろ。電気代の無駄遣い。後、ページが捲り辛い」
「そうか?」
「そうだよ」

抗議されるが手塚は手を引こうとはしなかった。
折角くっ付くことが出来たのだ。
もう見ているだけじゃ済まない。

なんとかして続きを読もうとリョーマはしばらく苦戦していたが、
不自然な体勢では無理だとわかって、一先ず漫画の本をベッドへ置く。

「部長。これ読み終わるまで我慢出来ないんすか?」
「出来ないな」
「そんなに時間掛からないと思うけど」
「1分でも無理だ」
「……我侭っすね」

ハア、とリョーマは大きく溜息をつく。

呆れている。

けれど、もう許されていることがわかった。

リョーマも我侭だけど、手塚だって我侭だ。

お互いの性格は把握している。
時々譲り合って、お互いの幸せを積み重ねて行く。
毎日がそんなことの繰り返し。
だからこそ上手く行っているのだ。


「しょうがないな。折角、クーラー付きの部屋とファンタを提供してくれたんだから、
今日は部長に付き合うよ」
「そうか。冷房とファンタのお礼ってやつか」
「違うよ」

ニッといつもの不敵な笑みを浮かべて、自ら体を押し付けて来る。
リョーマの体をを支えると、
「俺がそうしたいから」と言われる。

「それに、くっ付いていると暖かい。
くそ暑い部室で抱きつかれるのは勘弁だけど、ここなら良いっすよ」
「俺は部室でも一向に構わないんだがな」
「それ、絶対変だって。だって蒸し風呂状態だよ?
お互い汗臭いのに、俺は嫌だ」

ヤダ、ともう一度言うリョーマに、手塚は耳元に鼻を寄せて口を開く。

「むしろお前の匂いを感じられて、良いと思っていたのだが」
「やっぱり変!
それとも部長ってそういう趣味?引くんだけど」

うわあ、と声を出して逃げようとした体に気付き、両腕を使って引き止める。

「そういう趣味って、何だ。
むしろそれだけ好かれてると思って、喜ぶ所だろう」
「いやいや、無いから」
「他の誰もお断りだが、お前だけなら許せる。ありがたく思え」
「なんでいっつもそんなに偉そうなの?
本当に部長ってさあ、」


我侭だよね、と呟いたリョーマの声は、ベッドへ押し倒した時の音に消された。

ついでに桃城から借りた漫画も、下へと落ちる。

そんなものに構う余裕も無く、大人しくしている小さな体へ手塚はそっと覆い被さった。


今の間だけは、まだ温度設定を下げたままでいい。
リョーマが眠る頃に適正温度に変えておこう。

クーラーも悪いものじゃないな、とパジャマのボタンを外しながら、手塚はそう思った。


チフネ