チフネの日記
DiaryINDEX|past|will
今日も暑くなりそうだ。
学校へ向かって歩きながら、手塚はそう思った。
朝練の為に早起きしたのだが、この時間でも暑い。 日中は更に気温が上がるだろう。
今日の練習はきついものになるな、と内心で呟く。
同時に「部室にクーラー欲しい」と不満を漏らしていたリョーマの顔を思い出す。 この湿度と気温にうんざりしたように、文句を言っていた。
なんとか宥めたものの、夏が終わるまでずっと暑い暑いと騒いでいるんじゃないだろうか。 また氷帝に行くと言い出さなければ良いが……。
その時は再びお仕置きだな、と頷く。 最も手塚としては、純粋にリョーマにくっ付いていたいだけなのだが。 暑くても構わない。 むしろ恋人だからこそ触れていられるのだと、満足感を得られるのに、 リョーマは違うらしい。
クーラーの効いた部屋ならいいと、我侭ばかり言う。 こちらが自室まで我慢出来合い時はどうするんだと、言い返したい気持ちをぐっと我慢している。 そんなこと言えば、ケンカになるのは目に見えている。
お互いにとって良い方法は見付からないものか……、と手塚は眉を顰めて、部室へと向かう。
もし今日またリョーマが不満を言い出したら、すぐに家に連れて行こうと決めておく。 先日のように寒い位冷やした部屋ならリョーマもご機嫌になる上、 密着しても怒られない。それどころかリョーマからもくっ付いて来てくれる。
知らず手塚は笑みを浮かべていた。
早く来ていた一年生達はそれを目撃し、怖いものを見てしまったかのように慌てて目を逸らした。
「今日はリョーマから休みの連絡があった。体調を崩したらしい。 皆も夏バテには気を付けるんだよ。いいね!」
練習前の顧問の言葉に、手塚は思わず目を見開いた。 リョーマが休み?そんなことは聞いていない。
解散の声に皆がコートへと散らばる中、手塚は顧問に話し掛けた。
「先生。越前は本当に休みなんですか?」 「ああ。南次郎から直接連絡があったからね。明日は出て来られるだろうと言っていたよ。 大したことは無いんじゃないか」 「そう、ですか」
手塚は一礼して、顧問から離れた。
夏バテしたのだろうか。大したことじゃなくても心配でたまらない。 あれだけ暑い暑いと訴えていたのだ。 体調を崩すサインを出していたのかもしれない。
なのに呑気にも、リョーマに触れることばかり考えていた自分が恥ずかしい。
放課後の練習が終わったら見舞いに行こう、と手塚は考えた。
早く終われと思っている時に限って、時間の流れを遅く感じる。 リョーマのことをずっと気にしていたので、練習も身に入らかった。 乾と不二に気付かれ、からかわれたりしながらなんとか最後までやり遂げた。
手ぶらで行くわけにもいかず、スーパーに立ち寄ってフルーツを購入してリョーマの家へ向かう。 何度も訪れたことがあるので、迷うことは無い。
覚悟を決めてインターフォンを押すと、「誰だー?」と南次郎が髭を摩りながら出て来た。
「なんだ。部長さんかい」 「こんにちは。今日はリョーマ君のお見舞いに来ました」 「お見舞いー?」
南次郎は可笑しそうに笑った。
「わざわざ来るほどのもんじゃねえけどな。 ま、上がんな」 「はい」
玄関から中へと通される。 南次郎の後に続きながら、「それで、具合は」と尋ねる。
「おう。リョーマの奴なら、ぴんぴんしてるぜ。 全く、人騒がせだよな。アイスの食い過ぎで腹壊すなんてよ」 「お腹を……?夏バテの間違いでは」 「違う違う。あいつ、昨日の夜に俺が買って来たアイスを箱ごと全部食べやがって、 それで今朝になって腹が痛いとか言って騒いでやがるの。馬鹿だよなー」 「……」
笑う南次郎と反対に、手塚は(そんな理由だったのか)とホッとする。 夏バテでは無かった。サインを見逃したんじゃない、と再び自信を取り戻す。
「まー、折角来てくれたんだ。リョーマの顔を見て、ふざけた理由で休むなって言ってやってくれ」 「さすがにそれは……。後、これお見舞いの品です」 「おっ。気を使わせて悪いな。早速頂くぜ」 「どうぞ」
スーパーの袋を持って、南次郎は奥の部屋へと行ってしまう。 勝手にして良いということらしい。
遠慮なく手塚はリョーマの自室へと向かう。
ドアの前に立ち、「越前」と一声掛けて中へと入る。
「あれ、部長……?」
リョーマはベッドサイドに腰掛けていた。 ちょうど水分を補給していた所なのか、ペットボトルを手にしている。
「具合はどうだ。様子を見に来た」 「あー……、うん。まあまあかな」
気まずそうに目を逸らす。 アイスを食べて腹を壊したと言えないのか。 しかしもう先に知ってしまったんだがな、と手塚は苦笑して近付いていく。
「食べ過ぎは感心しないぞ。全く、限度があるだろうが」 「それ、親父から聞いたんすか!?」 「ああ」 「あいつ、ばらすこと無いのに!」
歯軋りするリョーマに、「まあまあ」と宥めるように手塚は肩を軽く叩いた。
「アイスを1箱食べたらどうなるかわからなかったのか。 これに懲りて、もう無茶なことはするなよ」 「だって、暑かったから……。アイス食べると少しは涼しくなるでしょ。 だから止まらなくってさ」
バツが悪そうに下を向くリョーマに、「仕方無い奴だ」と手塚は小さく笑った。 そんな顔をされると、これ以上強くは言えない。
「もし我慢出来ないほど暑いと思ったら、これからは俺の家に来るといい。 家族もお前なら歓迎してくれる。泊まっても何も言わないだろう」
この部屋にはクーラーが無い。だから暑くてしかたないんだと、文句を言っていた。 だからこそ、アイスを1箱食べるという暴挙に出たのだろう。 もう二度とそんなことさせない為、夏の間はリョーマを自分の部屋に連れて行くべきだ。
本音は、長く一緒にいられることを望んでいるだけだが、勿論それは言わないでおく。
リョーマは顔を上げて、「行ってもいいんすか?」と期待に満ちた目を向けて来た。
「ああ。だがクーラーの温度設定はほどほどにな」 「うん!それでも嬉しいっす!」
やった!と抱きついて来るリョーマに、「暑くないのか?」と手塚は尋ねた。
「暑い……。けど、なんか安心するのも本当」 「そうか」
体調を崩して、気弱になっている部分もあるかもしれない。 こうしてくっ付いて安心してくれるのなら、ずっと側にいてやりたいとも思う。
「なら、ずっとこうしていようか?」 「それはちょっと。やっぱり暑い」
すぐにリョーマは体を離したが、手塚の右手を取ってベッドに横になる。
「ここでくっ付いているのは無理だけど、手を握るくらいなら平気。 眠るまでこうしていてもいい?」 「ああ。勿論だ」
左手で髪を撫でると、リョーマはそっと目を閉じる。
しばらくそうしていると、規則正しい寝息が聞こえた。
このまま元気になってくれるようにと、汗ばんだ手を握ったまま手塚は祈る。
次の熱帯夜は二人で快適な時間を過ごせるように。
手塚の心の声が聞こえたかどうかはわからないが、 リョーマの寝顔は笑っているように見えた。
終わり
チフネ

|