チフネの日記
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| 2010年06月14日(月) |
miracle 41 真田リョ |
青学は都大会初戦をなんなく勝利で終えた。続く二戦も危なげなく全て勝利し、ベスト16入りを果たす。
「楽勝、楽勝。この分なら次もきっと勝てるにゃ」 「英二。そういう油断はよくないぞ。今日勝っても、明日はどうなるかわからないだろ」 「もー、わかっているって。でも今日くらいは喜びに浸ってもいいだろー?」
少し前を歩くゴールデンペアの会話を聞きながら、リョーマはまだまだだね、と肩を竦めた。 そして携帯を取り出し、時間を確認する。 今からなら幸村の病院の面会時間に間に合う。 行って、今日の報告をしようかなと考えていると、不意に前方に誰かが立ち塞がった。
「越前、ちょっといいか」 声を掛けられて、顔を上げる。立っていたのは手塚だった。 「何すか」 「明日、少し時間をもらえないか」 「明日?」 「ああ。高架下にあるコートは知っているか」 「え?」 「そこで待っているぞ」 去って行く手塚の背中を見て、何なんだろうと首を傾げる。 明日は試合後ということで部活は休みだ。その休みに後輩に指導をつけてやろうとしているのか。 普段、遅刻ばかりしている自分に対して、地獄のトレーニングを命令するとか? それとも、試合の申し込みか。
(ま、いいけどさ……)
それよりも幸村の所に急ごうと、あまり深く考えずに駅へと向かった。
(前回の訪問から少し間が空いちゃったな)
言い訳するつもりはないが、練習やら真田の相談に乗ったりしてごたごたに首を突っ込んだ所為でここに来る余裕が無かった。 少し緊張した気持ちで、病室のドアをノックする。
「どうぞ」
幸村の声にドアを開けると、先に来ていた真田が椅子に座っているのが目に入った。
「やあ、リョーマ。来てくれたんだね」
笑顔で迎えてくれたことにほっとしつつ、「約束も無しに来たけど、良かった?」と尋ねる。 「もちろん。君なら大歓迎だよ」 「でも、真田さんと話しているんじゃないの?」 ちらっと、真田の顔を見る。 立海の方でも今日は大会があった。 きっと真田も幸村に結果を報告しに来たんだろうと察する。
リョーマの思考を読み取ったのか、「ああ、もういいよ。話は終わったから」と幸村は微笑みながら言った。 「ね、真田?他に話は無いよね?」 「そうだな。越前、こっちに来て座ってくれ。俺はもう帰る所だからな」 「え、でも」 「幸村に付いててやってくれ」 「真田。俺は子供じゃないなから、そういう言い方はないんじゃないかな」
付いててって何、と笑う幸村に、「すまん」と真田は頭を掻いて謝罪する。
「とにかく俺は帰るから、後は頼む」 「はあ……」 「では、失礼する」
そそくさと帰って行く真田に、(何なの?)とリョーマは違和感を抱く。 先日の件で一言あっても良さそうなのに、幸村に遠慮でもしているのだろうか。
後で電話で聞いてみるかと判断し、リョーマはさっきまで真田が座っていた椅子に腰を下ろす。
「久し振りだね。少し痩せた?」 幸村が手を伸ばすのを、リョーマはじっと見ていた。 膝に置いた自分の手に触れられる。 相変わらずスキンシップが好きなんだ、と呑気に考えて、幸村の好きなようにさせておく。
「練習きついから、ちょっと体重減ったかもしれない」 「そう。あまり無茶して体を壊したりしないでね」 「わかってる」 頷くと幸村は「本当にわかっているのかな?」と言った。
「聞いたよ。仁王の件では色々迷惑掛けたそうだね」
少し変えた声色に、リョーマは思わず背筋を伸ばした。 他校の生徒がでしゃばった真似をした、その位はリョーマにだってわかっている。 幸村の機嫌を損ねないように、「迷惑、とかじゃないけど」と小声を出す。
そもそもあれは自分が勝手に行動したことだ。しかも大したことはしていない。 仁王が元に戻ったとしたら、青学にまで迎えに来た真田の熱意と、おそらくは幼馴染である舞子の説得によるものだ。
しかし幸村は「君のおかげでもあるんだよ」と言う。
「ありがとう、リョーマ」 「だから礼を言われるようなことしていないって」 首を横に振る。そんな風に言われると困ってしまう。 眉を寄せるリョーマをふっと笑いながら、幸村は「でも俺にも相談して欲しかった」と呟く。
「そんなに頼りないように見えた?」 「え?違うと思うけど。真田さんは最初から幸村さんだけには心配掛けたくなくて、それで」 一生懸命真田の援護をしようとしたが、「違うよ」とストップを掛けられる。 「俺が言っているのはリョーマのことだよ。 仁王の件で真田に手を貸しているんだって、一言言って欲しかった」 「だって、本当に何もしてないから言うまでもないって思って」 言い訳がましく声を出すリョーマに、幸村は悲しげに目を伏せる。
「でも真田と連絡を取り合って相談に乗っていたのは事実だよね? 立海で揉め事が起きているのなら、俺も知りたい。解決するよう力になってやりたい。 でも、駄目なんだろうか。病室から出られない部長じゃ、頼りにならないよね」 「まさか!そんなことは無い。真田さんだってそんなつもりじゃなかったと思う」
幸村があまりにも寂しげにしていたので、つい大きな声を出してしまう。
「心配掛けたくなかっただけで、決してのけ者にしようなんて、考えていない。 今度からはちゃんと幸村さんにも言うから。だから、そんな顔しないで欲しい」 手をぎゅっと握り返すと、幸村は「本当に?」と尋ねる。 「うん。約束する」 「そう。だったら、指きりしようか」 「え?」
リョーマが戸惑っている間に、幸村は勝手に小指を絡め取ってしまう。
「約束。これからは何でも俺に話すこと」 「……」
いや、それはなんか違うと思ったけど、リョーマが拒否する間もなく、「指きった」と幸村は満足そうに微笑む。 あまりにも機嫌が良いその顔に、別にいいかと訂正はしないでおいた。
「そうだ。今日、都大会だったんでしょう?どんな感じだったか聞かせてよ」 「勝ったよ。俺の試合もだけど、青学も」 「さすが。リョーマは強いね」
にこにこと笑う幸村の顔を見て、リョーマはほっとしていた。
さっきみたいに仲間はずれにされていると、誤解されたままなのは嫌だった。 幸村のことをそんな風に思ったことなどない。出来るだけ力になってやると、今だってそう思っている。 友人として、この先も側にいる。だから悲しい顔はさせたくない。 少しでもこの入院生活が楽しいものであるように、幸村が望む限りは無理してでもここに来ようと決めている。
他愛の無い会話は、それからしばらく続いた。
帰らないで欲しいと幸村に引き止められたが、それでも帰らなければならない時間はやって来る。
「また来るからさ、絶対に」 「うん。絶対にだよ」
なんか今日は念押しされてばかりだ。 頷いて、リョーマは病室から外に出た。
(なんか、幸村さんの甘え癖が酷くなっている気がする……)
手だけでなく、髪も撫でられ、最後にはもう少しここに残っててと抱き締められた。 泊まるわけにもいかないから、ちゃんと解放されたのだけれど。
(子供みたい。でも心細いから甘えたくなるのかもしれない)
やっぱりちゃんと見舞いに行かないと駄目だなと考える。
そして病院を出て駅に向かおうとしたところで、「越前」と名前を呼ばれる。 振り返ると、こちらに向かっている真田が見えた。
「真田さん?どうしたんすか。帰ったんじゃなかったの」 「お前のことを待っていた」 「だったら帰ることなかったのに」
何故先に病室を出てしまったのか。 疑問に思うリョーマに、「邪魔したくなかったんだ」と真田は言った。 「幸村に会いに来たのも久し振りだったんだろう?二人でゆっくり会話をさせてやりたいと思ってな」 「だからってこんな所で待っていなくたって、電話でも良かったのに」
真田も試合の帰りで疲れているだろうに、わざわざこんな所で待っているなんて余程重要な話だろうか。
「いや、電話で済ますようなことじゃない」 「それって、一体?」 何かあったのかと、リョーマはごくんと唾を飲み込む。
すると、「仁王の件で、お前には迷惑を掛けて済まない。そしてありがとう」と真田は頭を下げた。
「ちょっと、止めてよ。俺は何もしていないのに」 「それは俺の方だ。お前が相談に乗ってくれなかったら、そして仁王を引き止めていなかったら取り返しのつかないことになっていたかもしれない。 だからこうして直接礼を言いたかった」 ありがとうと、さっきより深く頭を下げる。
(言いたかったことって、これ?)
電話ではなく顔を見て言いたいという、真田の真面目な一面がここにも出ている。 やっぱりこの人、不器用すぎてそしてそこが好感持てるなと思う。 何に対しても適当ということが出来ないのだろう。 疲れているのにこんなところで礼を言う為だけに待っていて。
こんな人、今まで見たことがない。
「うん、真田さんの気持ちは充分伝わった」 そう告げると、真田は顔を上げた。 「でもそんなに畏まることないっすよ。だって、友達でしょ?手を貸すのは当然っすよ」
改めて友達と確認するなんてこれまで無かった。少し照れ臭いが、今のリョーマの正直な気持ちだ。
真田は目を見開き、そして「そうだな」と頷く。
「お前のような良い友人を持って俺は幸せだと思う」 「……何言っているんすか。恥かしいんだけど」 「そ、そうか」 「あ、でも嫌とかじゃないっすよ。その、俺もあんたみたいな正直で真面目な友達がいて、嬉しいと思う」
何言っているんだと、自分の言葉にむず痒くなるが、真田が心の内をいちんと話してくれているのだから、こちらも曝け出すべきだと思った。 どうも、真田といるといつもみたいなひねくれた態度の自分ではいられない。突っ掛かったりする態度や、生意気な言葉も引っ込んでしまう。 多分、素直に本音を出せる相手なんだろう。
「そうか。お前が嬉しいと言ってくれるのならありがたい。いつも助けてもらってばかりだから、もしお前に何かあったらすぐに相談してくれ。何があっても駆けつけるからな」
真顔で言う真田がおかしくて笑ってしまいそうになるが、本気で言っているのがわかる。 だからリョーマは顔を引き締めて、「うん。わかった、そうする」と言った。
途端に真田はどこか安心したような顔になる。 きっと困っていると言ったら、言葉通りに掛け付けてくれるのだろう。 真田は嘘をついたりしない。 無いとは思うが、この先困った事態が訪れたら、頼れる相手がここにいる。そういうのっていいな、と思った。
「あ。俺、そろそろ電車に乗らないと。真田さんも帰るところでしょ?」 居心地の良い空気を壊すのは勿体無いが、これ以上遅くなったら家族が心配する。 真田もそれを察して「そうだな。駅まで送ろう」と申し出た。 「別にいいのに」 「いや、駄目だ。最後まで見送る」
引きそうにない真田に、リョーマは「わかった」と言った。駄目だと言ってもついて来るのが目に見えたからだ。
そして歩きながら、今日の試合の内容をお互い報告しあう。
「初戦だったからか、楽勝だったっすよ。そっちは?」 「同じだ。多分、スムーズに決勝に行けるだろう。どちらかというとそちらの方が激戦区なのではないか?」 「え、そうなの。どこが強いとかあんまり気にしていないから、知らない」 「お前は……。少しは敵のことも知った方がいいぞ」 「はあ」 「気の抜けた返事だな。己の実力を磨くことだけで、他は眼中にないというところか」 「そうかもしれない。だって情報集めたって、実際当たってみなくちゃわからないことだってあるでしょ」 「それは、そうかもしれないが」
今までみたいに相談に乗るという以外でも案外スムーズに話せるもんだ。 気の合う友達ってこういう関係だろうか。 今まで一人で行動することが多かったので、よくわからない。 だけど、真田との会話は楽しいとも思う。
「じゃあ、ここで」 駅に到着して、リョーマは真田の顔を見上げた。
「またね、真田さん」 「ああ、また今度……」 言いかけたところで口を閉じる真田に、「どうしたんすか?」とリョーマは首を傾げる。
「いやなんでもない。気をつけて帰るんだぞ」 「わかってるって」
改札を通り、軽く手を振ってから、階段を駆け上がった。
(真田さん、さっき何を言いかけたんだろう?)
気になったが、電車が到着するとのアナウンスにリョーマは振り返ることなく足を速めた。
リョーマを見送った後、真田は自分の家へ帰る為にバス停へと歩いた。
頭の中にあるのは、リョーマと幸村のこと。 二人共、真田にとって大切な友人だ。 特にリョーマは、仁王との一件でとても世話になった。この恩は絶対に忘れない。 リョーマの為なら、何をおいても真っ先に掛け付けようと誓った。その気持ちに嘘は無い。
だけど。
『それで、仁王とのことでリョーマに手を貸してもらったっていうのは理解した。 でも、俺の知らないところでリョーマとあんまり仲良くされると寂しいって気持ちになるんだ。真田にはわからない? 俺はここから出られないんだよ。リョーマと会うことすら自由に出来ない。 真田は簡単に青学にまで行けるかもしれないけどね。 そういう所わかってくれるよね? 俺に協力するって、言ったんだから』
幸村の恋を応援すると言った気持ちにも嘘はない。
だから、幸村に言われたようにリョーマとはこれからはあまり仲良くしない方がいいのだろう。 今日だけは仁王と件で礼をきちんと言っておきたかったから、どうしても会っておきたかった。 これ位は許されるだろう。礼を言うだけ、なのだかr。
(折角、友人として打ち解けたところなんだが……)
頻繁に会えないとなると、寂しくなる。 でもそんな風に思うべきではない、と真田は自分を無理矢理納得させる。
リョーマは、幸村が好きになった人。 自分に出来ることは、幸村の恋を応援するだけだ。
チフネ

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