チフネの日記
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| 2010年06月13日(日) |
miracle 40 真田リョ |
都大会当日。 大事な試合を前にしているというのに、桃城と菊丸に付き纏われて、リョーマはうんざりしていた。
「立海の仁王と真田って、おチビとどういう関係?詳しく教えて欲しいにゃー」 「そうだぞ、越前。今日こそはきっちり聞かせてもらうぞ!」
うっとうしい、とリョーマは溜息をつく。 こういうことがあるから、他校の生徒と知り合いということを隠しておきたかったのだ。 話す、となると彼らと顔を合わせるのに切っ掛けとなった幸村との出会いまで遡る。 それを言いたくない、というのが正直な気持ちだ。 親に頼まれ、幸村を元気付ける為に病院に見舞いに行き、そこから交流が始まったなんて軽々しく話す内容ではない。
『初めまして。君が、越前リョーマ君だね』
録画された試合を見て、興味を持ったんだ。良かったら、話相手になって欲しいと点滴の後がある手を差し出される。
思わず、リョーマは手を差し出していた。 触れた手はひんやりとして、リョーマのよりずっと大きいのに握ったら壊れそうに思えた。
幸村が外に出てテニスをしたがっているのは、すぐに気が付いた。リョーマの試合についてあれこれ褒めてくれるが、本当は自分自身がボールを打ちたい、走りたいと切望している。 言葉の端々からそんな本音が見え隠れして、どう返事したらいいか言葉に詰まった。 もし自分が、ある日突然入院するようなことになって、テニスをする自由を奪われたらどうなるのだろう。想像も出来ない。 幸村はそんな状況に耐えている。見掛けよりもずっと強い心を持っているんだろう。 黙り込むリョーマに『どうかした?』と顔を覗き込んで来る。
『あ、いや。俺なんて上手く会話出来ないから、幸村さんが退屈じゃないかって思って』 『そんなこと気にしているの?』
ふふ、と幸村が笑う。 『君と会えただけで嬉しいよ。あんなすごいプレーをする子が目の前にいるなんて、少し舞い上がっているかな』 『大袈裟っすよ』
本当なのになあ、と幸村は笑う。 どこか無理しているようなその笑顔に、リョーマの心がちくりと痛む。 この人が一刻も早くコートに戻れますように。 そう願った時から、この人の力になろうと決めていた。
「なあ、おチビー」 しつこくしてくる菊丸の手を振り解こうとしたその時、 「やめなよ。越前が困っているでしょ?」と不二が間に入って来た。 「英二。もうすぐ試合なのに何してるの。大石が探しているよ?」 「あ、いっけね!」 走り出した菊丸に、桃城も「待って下さいよ!」と後に続く。 この場に残って、不二に何か言われたら堪らないと思って逃げたのだろう。
「災難だったね」
にっこりと笑って近付いて来る不二に、誰の所為だよとリョーマは顔を引き攣らせた。 「おかげ様で。不二先輩が仁王さんとの試合を青学のコートでやるなんて段取りしてくれたから、皆に知れ渡る羽目になったからね」 「言葉に棘があるなあ。仁王を引き止める為に手を貸したっていうのに」 「他のコートでやれば済むことだったのに」 「あれ?君は部活をサボるつもりだったの?大会前にそんなこと許されないよ。 グラウンド100周とどっちが良かった?」 「……」
不二には何を言っても無駄だ。 言葉の出ないリョーマに、「ほら、英二と大石の試合が始まるよ」と不二は皆の所に行こうと促す。 「そういえば、聞きたかったんだけど」 「何?」 「この前、言ってましたよね。俺が立海の人と一緒にいる所を見たって」 「ああ、うん。確かに言ったね」 「それ、誰だったんすか?」 自分だけ知らないというのはフェアではない。不二の持っている情報が何か知りたかった。 「教えて欲しい?」 「そりゃいつまでも何だかわからないまま、含みのあるようなことを言われるのは好きじゃないんで」 「君は正直だねえ。言ってもいいけど、後で一つ質問に答えてくれるかな?」 「何すか」 「それは後でのお楽しみ」
嫌な予感しかしないが、ここでうんと言わないと、不二は何も話してくれないだろう。 仕方なく「わかりました」とリョーマは頷いた。
「それじゃ、話そうか」 フェンスに視線を向け、いかにも試合を観戦してますという姿勢を取ったまま不二は語り始める。
「僕の親戚で神奈川に住んでいる人がいるんだ。この春にちょっとしたことで入院することになって、 そのお見舞いに行った時にね、君を見かけた。 入部して一週間くらいの頃かな。早々に手塚に注意されて走らされていた子だったから、顔は覚えていた。どうして立海の部長と一緒なのかな、とその時疑問に思ったんだ」 「……」
よりによって幸村との面会を見られていたのか。しかも不二に。世間は狭過ぎる。 リョーマは肩を落とした。
「見たのはそれだけっすか」 「ううん。その後、親戚の退院祝いでもう一度神奈川に行った時だったかな。 今度は真田と一緒に歩いているのを見かけた。 立海の部員と親しいのに、何で青学に入ったのか、ひょっとしてスパイかなって考えたけど、そんなわけないってすぐに思った。常勝立海が関東止まりの青学にそんなことする理由はないからね」 「はあ」 「でも君が彼らとどういう知り合いなのか、ずっと気にしていたよ」
幸村と真田とも知り合いだったというのはバレていたようだ。
「言っておくけど、スパイじゃないっすよ」 「それはわかってるって言ったつもりだったけど? 例えば、立海がうちの情報を知りたいとしたら君のことじゃないのかな。期待のルーキーのことで探りを入れるのなら納得出来る。でもいくらなんでもその本人をスパイにするとは思えないよね」 「はあ……」
フェンスの向こうでは大石と菊丸の試合が始まっている。 相手との実力差は最初のプレーでもう見えていた。ストレートで勝つのは簡単に予想出来る。 応援する振りをしながら、不二との会話を続ける。
「それじゃ、不二先輩は俺がスパイじゃないとわかっていて、今までなんで意味深なこと言い続けていたんすか?」 「それは純粋な好奇心かな。君がどんな意味で幸村と真田と仲良くしているか、知りたいと思って」 「好奇心、っすか」
性質が悪いなと、顔を顰める。面白がっているような不二の目に、嘘はないと察する。
「あの二人とは縁があって友達になっただけっす。それ以外の意味も何も無い」 「そうかなあ?」
不二は首を傾げて言う。
「君だけがそう思っているだけじゃないの」 「えっ」 「さっき、一つ質問したいと言ったけど、今は止めておこう。だって、君は何も気付いていなさそうだからね」 「何それ。どういう意味っすか?聞きたいことあるなら、今聞いたら?」
またはぐらかされる、と咄嗟に不二を引きとめようとすると、「聞いても、どうせ答えられないでしょ」と、呆れたように言われる。
「そんなの聞いてみなくちゃわからないじゃん」 「じゃあ、聞くけど。幸村と真田。どっちが君にとっての本命?」 「本命?何すか、それ」 「ほら。答えられないじゃないか。 いいけどね。その内、決まったら教えてよ」
ぽん、と肩に手を置いて、不二は手塚や乾がいる方へと行ってしまう。これ以上会話しても無駄だと拒否するかのようだった。
(本命って、なんだ)
残されたリョーマは、不二の言ったことの意味を考える。 友達に対して本命も何もあるものか。どちらも大切で、比べられるようなもんじゃない。
(わかってないのは、不二先輩の方じゃないの?)
やっぱり言っていること滅茶苦茶だ。バッカじゃないの、と鼻を鳴らして横を向く。
リョーマが不二の言う「本命」の意味がわかるようになるのは、もう少し先のことになる。
一方、立海も県大会初日を迎えていた。
仁王の姿を見て、真田はほっと胸を撫で下ろす。 大会に来ると言っていたが、最後の最後に幼染の見送りを優先されるかもしれない、とも覚悟していた。 その時は、自分がフォローするしかない。他の部員からは不満の声が上がるだろう。多分、管理が出来ていないことで責められるのは真田だろう。 それでも、仁王の気持ちを知った今となっては彼を強く責めることは出来ない。 例えあの幼馴染を優先したって、構わないという気持ちにさえなっていた。
だから仁王がこちらに向かって来た時、思わず「その、今日は大丈夫なのか?」と声を掛けてしまった。
よほど意外に思ったのか、仁王は目を見開いてから、「ああ、平気じゃ」と答えた。
「舞子との挨拶はもう済んだ。今日は試合は無いが、応援に手を抜くなって言われたぜよ。 ちゃんとわかってるから、ここに来た」 「そうか」
どうやら仁王なりに吹っ切ったようだ。 一つの問題が解決したことに、真田はほっと息を吐く。
「俺が試合に出られるまで、負けたら許さんぜよ」 「誰に向かっていっている。他の者も負けたりはしない」 「そうじゃな」
二人の友好的ともいえるような態度に、他の部員達は遠巻きに見ながら驚いている。 ついこの間までぎくしゃくしていたのに、ここ最近の変化はどうしたものか。 てっきり仁王は真田を嫌っているものだと考えていた者達は戸惑っている。 自分達と同じ側にいると思っていた仁王が、態度を変えたと捉えて、面白くないという顔をしている。
そして別の意味でも真田に対して、不信感を抱く者がここにもいる。
「どうした、丸井。元気が無いようだけど、腹が減っているのか?」
心配そうに顔を覗き込むジャッカルに、背中を丸めて座ってた丸井は背を起こした。
「そんなんじゃねえよ。だけど、さ」 「なんだ?」 「もし俺に好きな子がいたとして、お前もその子のことが気になったりしたら、どうする?」 「は?なんだ、そりゃ」
目を瞬かせるジャッカルに、「なんでもねえよ」と丸井は笑って誤魔化す。
「変な話をしたな。試合前なんだから集中しなくちゃいけねえのに」 「いや。でも大丈夫なのか?もしかして恋愛絡みで悩んでいるとか」 「だから違うって。そんなんじゃない。さっきのはちょっとしたおふざけで聞いただけだ。 深く考えるなって」 「そ、そうか」
丸井の勢いにジャッカルは頷いた後、「でもな」と続ける。
「お前に好きな子が出来たら応援するぜ。それが俺のタイプと重なっても、きっと好きにはならない。 だってお前と上手く行ってくれた方が嬉しいと思うからな」
ジャッカルの言葉に丸井は目を丸くして、 「そうだよな」と頷く。
「友達なら応援してくれるはずだよな……。後から割り込んでくる方がおかしいんだって」 「丸井?」 「いや、なんでもねえ。俺、ちょっとトイレ行ってくる」 「あ、ああ」
何か可笑しいと思いつつも、それ以上丸井は追求されたくないようだったので、ジャッカルは聞くのを止めた。 歩いて行く丸井の背中を見て、大丈夫なんだろうかと首を傾げた。
(そうだよ。友達なら応援してやるのが普通だろ。しかも約束したのなら、尚のことだ)
柳と試合の打ち合わせをしている真田の横顔を睨み付ける。
幸村の気持ちも知らないで、いい気なものだ。
その内、真田にはしっかり言い聞かせてやると、丸井はふいっと真田から視線を外した。
チフネ

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