チフネの日記
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2010年06月04日(金) miracle 31  真田リョ

柳生に言われたものの、仁王が誰かとの別れを寂しがっているようには到底思えなかった。
一昨年、去年とお世話になっている先輩達が卒業する時も、実にあっさりした態度で見送っていたのを見ていただけじゃない。
あまり人と群れるのが苦手のように思っていたからだ。
勿論、レギュラー内ではそれなりに親しくしているようだが、仁王は基本的には一人で行動している。
一人が好きなんだろうと、そんな風に真田は考えていた。

だから誰かの別れで、仁王が動揺するとは少し信じ難い。
それとも、その幼馴染は特別な存在なのだろうか。
わからない、と首を横に振る。

あの後も仁王をこっそり観察していたが、得られたものは何も無かった。
柳生の話が真実なのか、本人に確かめなければわからない。
しかし問い質した所で仁王が口を割るとは思えない。
パートナーにも打ち明けない位だ。
それを真田に話すとは、考えにくい。



悩みに悩んだ挙句、真田はリョーマに電話を掛けてみることにした。
相談というわけでもないが、リョーマと話をしたら良い考えが浮かぶかもしれないと思ったからだ。
不思議と、リョーマには何でも話すことが出来る。
色々本音を曝け出した所為か、年下ということにも拘らず悩みを打ち明けられる。

「あ、真田さん?」

夕飯が終わった頃合を見計らって掛けたからか、リョーマはすぐに出てくれた。

「いきなりすまない。今、話しても大丈夫だろうか?」
「別に平気だよ。それにしても電話でもそんな口調なんだ?」
「そんな、とは?」
「いや、真面目で真田さんらしいというか」

からかわれているのだろうか、と真田は眉を寄せた。

「それは堅苦しくて、話をしてもつまらないということか?」

真面目なやつ、と悪い意味で陰口を叩かれる時もあった。
己の信念を通して何が悪いと、堂々と胸を張って対峙したが、
リョーマに言われるとどうしてかショックを受けてしまう。
つまらない奴と思われたくない。
自分を変えるべきなのかと考えていると、
「そうじゃないっすよ」と明るい声が返って来た。

「何でそんな風に考えるんすか。真面目って悪いことじゃないのに。
真田さんは不器用だけど真っ直ぐで、何に対しても真剣だって知っているから。
少なくとも俺はあんたのそういう所気に入ってるよ」
「そ、そうか」

リョーマの言葉が、じわっと温かく心に沁みこんで来る。
こんな風に思えるのも大切な友人の言葉だからだと、真田はそう解釈した。

「ところで本題に入っても良いか?」
「うん。何?」
「昨日会った仁王のことで気になる話を聞いたのだが……」

柳生から聞いた情報をリョーマに伝える。

全部聞いてからリョーマは「その人のこと、俺は全然知らないんだけど」と前置きしてから口を開いた。

「やっぱりその幼馴染がいなくなるから、寂しいんじゃないっすか。
落ち込んでいるのかもしれない」
「仁王が?いや、しかし」
それは無いと、真田は言った。
仁王は一人でいても平気な奴だとも説明する。
しかしリョーマは「でも聞いてみなくちゃわからないでしょ」と返す。

「印象だけで結論出すのは早いんじゃない?
まずはその仁王さんって人に聞いてみたら?」
「けど、俺に打ち明けるとは思えん。パートナーにも言わない位だからな」
「でもこのままだと何も変わらないっすよ。変えたいんでしょ?
だったら、なんとかしないと」
「それも、そうだな」

原因が何にあるかなんて、ここで話をしても正確な答えは出ない。
やはり仁王本人に確認する他なさそうだ。

「すまなかったな。俺の相談を聞いてもらってばかりで」
「何言ってるんすか」

携帯の向こうで、リョーマが呆れたように言う。

「あんたの話を聞くって言い出したのは俺の方だろ。
困っているならいつだって相談に乗るから、一人で抱え込んだりしないでよ」
「……わかった。ちゃんと報告しよう」

年下なのに妙に頼りになって、安心させてくれるようなことを言ってくれる。
いつか見合った分の恩を返すことが出来るだろうか。
こちらが負担を掛けてばかりで申し訳無い。
そんなこと言ったら、「何言ってんすか。水くさい」と怒ったように言われるのgaわかっているから、黙っておku。

でも、いつか。リョーマの助けになることが出来たらなとは、思う。
リョーマが困った時には一番に掛け付けて、手を貸してやりたい。
今の所、頼ってばかりで説得力も無いのだが……。

心地良いリョーマとの会話を楽しみながら、真田はそんなことを考えていた。










翌日。
部活が始まる前に仁王の姿を見付け、真田は思い切って話し掛けてみることにした。

他に、人影は無し。
今だと思って、「仁王」と名前を呼んだ。

「真田か。おはよう」
「おはよう。その、少し話がある。いいか?」
「もうすぐ朝練始まるぜよ」
「わかってる。なるべく手短に話す」
「なんじゃ」

軽く言う仁王に、内心緊張しつつ真田は話を切り出した。
二年以上チームメイトとして過ごしたのだが、
仁王の思考を理解出来た事は無かったと、気付かされる。
しかし尻込みしている場合じゃない。

「その、最近悩んでいることはないか?」
「は?」

意外な言葉を聞いたかのように目を丸くする仁王に、構わず続ける。

「落ち込む要因を抱えているのなら、相談に乗るぞ。
頼りないかもしれないが、これでも副部長だ。話位なら聞いてやれる。
良かった、何でも言ってくれ」

それを聞いた仁王は半笑いをして、
「別に何も悩んではおらんよ」と言った。

「何を思ったのかは知らんが、お前さんの気のせいじゃろ。
相談するようなことは無いよ」
「しかし、幼馴染が留学すると聞いたんだが。その、気落ちしているんじゃないかと思って」

その途端、仁王の顔色がさっと変わる。
やはりか、と思って「いなくなることを考えると、寂しいのだろう?」と口にする。

「まさか。そんなのありえんよ」
「仁王」
「余計なお世話じゃ。朝練が始まる時間だから、この話は終わりじゃな」

話を続けようとしても仁王は無視して、集合場所へと行ってしまう。

真田は大きく溜息をついた。

どうやら失敗してしまったようだ。
何故、上手くいかないのdろう。
ただ悩みを聞いてやりたいだけなのに。
副部長失格だなと、帽子をぎゅっと被り直した。






「おー、仁王。真田と何話していたんだよ?」

朝からガムを噛んで声を掛けて来た丸井に、
「ちょっとな」と仁王は話をはぐらかした。

「なんだ。また説教されtのか?真田の奴、なんだかんだとお前に文句つけてばっかりだな」
「いや、そうじゃない……」

大丈夫だというように笑うと、丸井は腑に落ちない顔をしながらもそれ以上の追及はしなかった。
もう朝練が始まるからだ。
私語を続けていたら、真田に注意されてしまう。
ポケットから包み紙を取り出し、ガムをそこへ吐き出す。

正直、これ以上話をしたくなかった仁王にとっては、ありがたいことだ。
ミーティングが始まって、今朝のメニューを発表する柳と、隣にいる真田に目線を移す。

‘寂しいのか?’

言われて、ドキッとした。
まさか当てられるとは思っていなかったから。
いつだって風の吹くままというスタンスを取っている自分が寂しいなんて悟られたくない。
舞子がいなくなるまで後僅か。
行ってしまった方がいっそのこと楽になるかもしれないと、この頃思い始めている。
大丈夫だ。彼女がいなくなっても変わることは何もない。

今はそう言い聞かせて、必死で耐えている。
いつも一緒だった存在がいなくなる、たかがそれだけで崩れそうになる自分の弱さを、誰かに見せるわけにはいかない。


(真田の奴、当てずっぽうにしちゃ鋭いの……。
しばらく近付かんようにした方がいいかもしれん)

舞子には「元気でな」とあっさりした態度で見送ってやりたい。
そうしなくてはいけない。
寂しいなんて言って困らせたらいけないのだから。


チフネ