チフネの日記
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| 2010年06月01日(火) |
miracle 28 真田リョ |
「お大事に」
会計の人の声を待たずに、リョーマは病院を後にした。 やれやれ。 これでようやく練習に参加出来る。 眼帯が完全に取れない限り部活に出ることは許さんと、きつく言われていた為我慢していたが、 大手を振って出られる日が来たのだ。
(長かったな……。けど退屈はしなかったか)
病院への往復、図書当番に、幸村へのお見舞い、真田の相談を受けたりと、 テニスをしなくても色々忙しかった気がする。 明日から部活に行くことになるから、当分幸村にも真田にも会うことは出来ない。
(どうしよう。今から幸村さんの所に行ってみようかな)
しばし、考え込む。 当分顔を出せないことをメールのみで連絡するのはまずい。 電話越しにさめざめと泣かれそうで怖い。 そうなる前にフォローしておくべきか。
(俺なんかよりよっぽど良い友人に恵まれているくせに、まだ不満だなんて我侭だ)
自分の性格を棚上げしてそんなことを考える。 それも仕方無いことだ。 幸村には真田という得がたい友人がいる。 あんな真っ直ぐな性格で友人思いの真田が側についてて、何が不満だというのだろう。 真田一人居れば、ずいぶん心強いはずだ。 その上他の部員にも慕われているようだ。 もう充分なのではないか。
(なのに俺に会いたいって、変だよなあ)
それともやはり同じチームの友人には心配掛けたくないという部分があるのかもしれない。 だとしたらそこだけは支えてやらなければならない。 ああ見えて幸村は意外と色々考えているようだ。 家族には弱気なところは絶対見せたりしない。気を遣っていることはわかっている。
リョーマはポケットから携帯を取り出した。 幸村の病院へ行く前に、真田に連絡しておこう。 この前、一緒に見舞いに行こうと会話したものの、ハッキリとした日時は決めていなかった。 待ち合わせて行くのは次回でもいい。 今回は先に行くけど、後から来られるだろうかと、メールを送っておいた。 部活で忙しいのなら無理して来ることもない。 真田はいつでも病院に行ける距離にいるのだから。 しかし自分はそうはいかない。 遅れた分を取り戻さなければいけないし、都大会も始まる。 地区大会の時ほど、楽に勝たせてはもらえないだろう。 その為にも、これまで以上に練習に励まなくてはならない。 今までみたいに、ふらっと平日に見舞いに来ることは出来ないのだ。
「やあ。来てくれたんだ」
約束無しの見舞いだったが、幸村はとても喜んでくれた。 しかし明日からどうなるかわからないという事情を告げると、たちまち顔を曇らせる。
「しばらく来られないって、本気で言ってる?」 「しょうがないじゃん。やっと練習に参加出来ることになるんだし、大会だって近い。 その代わり、オフの日はこっちに来るからさ。我慢してよ」 「それもいつになるんだろ。オフがいつかって、決まってないんでしょ……。 当ても無く待ってるのは寂し過ぎるよ」 「……」
予想以上のごね方に、閉口してしまう。 年上のくせに、時々こんな子供みたいな事を言うから驚かされる。 しかしそれだけ寂しがっているのかと考えると、無下に突き放すことも出来ない。 心を許されているからこそ、幸村は自分に本音をぶつけ来るのだろう。
『俺なら、大丈夫だから』 家族の前では、いつも気丈に振舞っているのを知っている。 だったらせめて寂しいと言えない部分はこちらで埋めてやりたいと思う。
(案外俺も、お節介な奴なのかも)
肩を竦めて「決まったら、一番に連絡するから」と言う。 「ばあさんにいつ休みになるのか、早い所教えてもらうよう頼んどくからさ。 そんなに拗ねないでよ」 「本当に?一番に教えてくれるのかい?」 「うん、約束する」 「絶対だよ。守ってくれないと病院を抜け出して君の家に押し掛けるから」 「ちょっと。それは俺が皆から怒られそうなんだけど」 「冗談、冗談」
あんたが言うとしゃれにならないんだよと、唇を尖らせる。 しかし幸村は涼しい顔して笑っている。 どこまで本気なのか、さっぱり読めない。
「そうだ、リョーマ。昼に母さんが来てお菓子を置いていってくれたんだ。 見舞いに来た友達に出してあげてって。良かったら食べる?」 「あー、うん」 「どうかした?」
口篭るリョーマに、幸村は不思議そうに首を傾げる。
「いや、名前で呼ばれるの、まだ慣れなくって」 「やっぱり、嫌?」 「そんなことは無いよ」 首を振って否定する。 「向こうじゃ名前で呼ばれるのが普通だったから、むいろ越前って呼ばれた時の方が違和感あった。 でもそれが段々当たり前になってきて、突然名前で呼ばれてびっくりしている。 多分、それだけ」 「そう、ならこれからもリョーマって呼んでもいい?」 「うん」 こくんと頷くと、幸村は楽しそうに笑った。 「なんなら君も俺のことを名前で呼んでもいいんだよ?」 「え……」 少し考えて「止めとく」と答える。 「言いにくいし、幸村さんって呼ぶので慣れてるから」 「酷いなあ、それ。毎日呼べば当たり前になるかもしれないよ?」 「……考えておく」
またごねられる前にはぐらかしておこうと、リョーマはそんな風に返した。 幸村は納得していないような顔をしているが、それ以上しつこくすることもなく、 「じゃあ、お菓子食べようか」と言ってベッドを降りる。 「あ、俺が用意するから」 「いいよ、この位。今日は気分がいいんだ。 何のお菓子にする?焼き菓子だけど、あんずといちじくとぶどうとりんごがあるよ」 「ぶどうがいい」
即答すると、幸村がくすっと笑った。
「リョーマは本当にぶどうが好きだね」 「そう?」 「うん。ファンタもグレープが一番好きでしょ」 「まあ、わりと。でもよく見てるね。そんなことまで」
つまらないことなのにと、笑おうとした。 が、幸村が真顔でいることに気付いて、笑うのを止める。
「そんなこと、じゃないよ。俺にとっては全部大切なことだ」 「幸村さん?」 「リョーマに関することは、なんだって知っておきたい」
そう言いながら、左手に触れてくる。 手を握られても、リョーマは特に何も思わなかった。 いつものスキンシップだと捉えていたからだ。 だけど顔が近付いていて、少し妙だなと思った瞬間、 病室にノックの音が響いた。
「……はい」
仕方無さそうに幸村が答えると同時に、扉が開く。
立っていたのは真田だった。
幸村とリョーマの二人がそれほど距離を取らず立っているのを、 不思議そうに見比べていた。
チフネ

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