チフネの日記
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| 2010年05月31日(月) |
miracle 27 真田リョ |
翌日、幸村に呼び出された真田は意気揚々と病院へと向かった。 呼び出しがなくとも行くつもりだったからだ。 リョーマとの会話で得た情報を是非幸村に伝えたい。 真田の心はそんな善意で占められていた だから何故呼び出されたかなんて、まるでわかっていない。 リョーマと二人きりで会ったことで幸村が気分を害したとか、想像すらしないのだ。
朗らかな顔をして入って来た真田に、 (どうやら何一つ察していない、か)と幸村は額に手を当てた。
「……忙しい所、呼び出して悪かったね」 「何を言うか。俺の方こそお前に伝えたいことがあったから、丁度良かった」 「へえ。どんな話?まあ、そこに座って聞かせてよ」 「ああ」 ベッドの脇に置いた椅子にどっしりと腰を下ろし、真田は少し興奮した面持ちで口を開く。 幸村の役に立てる。そのことで頭が一杯だった。
「実は昨日、越前と会って重大なことを聞き出した」 「……二人で会っていた理由は後でじっくり話してもらうおうか。 今はまず、そちらの言いたいことからどうぞ」 「うむ。実は越前がどんなタイプが好きなのか俺なりに探って、そしてその回答を得たのだ」 「へえ」
案外やるじゃないかと、幸村は目を見開いた。 恋愛話に疎い所か脳にインプットされていないんじゃないかと思われる真田が、 「好きなタイプ」を聞き出して来たとは。 すごいことだと、素直に感心してしまう。
「好きなタイプか。どんな風に言っていた?」 当然、重要な情報は把握しておきたい。 幸村は先を促した。 真田は真面目な顔をして「ポニーテールが似合う子だ」と言った。
「ポニーテール?意外な回答だね……」 変な所にこだわりでもあるのだろうかと、幸村は首を傾げた。 だがあまり役に立ちそうにないなと思った瞬間、 「そこで考えたのだが、どうだ、幸村。髪を伸ばしてみないか」と、真剣な表情をした真田に言われる。
「髪を?なんで?」 「伸ばしてポニーテールにしてみたらどうだろうか。 きっとお前なら似合うはずだ。 越前の好みに近付けたら、今より進展すると思うのだが」 「……」
からかっているのではないということは、顔を見てわかった。 しかし、(そうきたか)と幸村は苦笑した。 真面目な男だと思っていたが、ここまでとは。 女の子ならともかく、男にポニーテールをしてはどうかと勧めるとは予想していなかった。 仕方なく「考えさせてもらうよ」と曖昧に答える。
「うむ、そうだな。参考になれば幸いだ。 実現しやすいものだったから、是非報告せねばとずっと考えていた」 「へえ。俺のポニーテール姿って実現しやすいものなんだ……」 「どうかしたか?」 「いや、なんでもない」
ハハッ、と乾いた笑いを浮かべる。 嫌味も通じない。 やりにくいな、と幸村は眉を寄せた。 悪意が無いだけ、遠まわしな言い方ではわからないのだろう。 しかしハッキリ言えば色々考えて落ち込む可能性が高い。 それがリョーマに伝わるのはもっとまずい。 リョーマの中にある‘病気に耐えつつも頑張っている健気で優しい人’というイメージは出来るだけ崩したくない。 だからこそ慎重にする必要があった。
「あのさ、真田」 「何だ」 「君がそうして調べてくれるのは嬉しいし、助かるよ。 だけど二人だけで仲良く会ってると聞かされて、ちょっと寂しいなと思って」 幸村の言葉に、真田はハッとしたように顔を上げる。 やはり言わなければわからなかったのかと思いつつ、先を続ける。 「だから君達だけで会うのは、もうこれっきりにして」 「わかったぞ、幸村」 心得たとばかりに、真田が頷く。 「そう、理解してくれたんだね」 「ああ。越前も同じようなことを言っていたからな」 「えっ、どんなこと?」 「実は昨日、是非二人で一緒に見舞いに行こうと話をしていた」 「一緒に……。いや、それは二人きりにさせてくれた方がありがたい、かな」 「大丈夫だ。越前はお前のことをちゃんと気に掛けている」
自信満々に言う真田に、 (チッ。察しろよ)と幸村は心の中で舌打ちをする。 どうにかして言い包めなければと口を開き掛けたその時、 「幸村君。明日の検診のことでちょっと良いかしら」と看護師が入って来た。
「あら、お友達が来ていたのね」 「いえ。もうお暇します。それじゃまたな、幸村」 「あ、ちょっと話はまだ」 「失礼する」
さっさと帰って行った真田に呆然としてしまう。 人の話を聞けというのに。 恐らく昨日の成果を報告したことですっかり満足してしまったに違いない。 とはいえ、看護師を前に強引に引き止めることも出来ずに、仕方なく大人しくベッドに背を預ける。
(今度しっかり言い聞かせればいいか……)
機会はいくらでもあるさ、と内心で呟く。 悠長に出来るのも真田が自分を差し置いて出し抜く可能性がゼロだと確信しているからだ。 たとえ真田が内にあるリョーマへの好意に気付いたとしても、それを口に出すことは、 『絶対に無い』。
それだけは断言出来る。 あれ程正直で義理堅い男が、友人の好きな人だとわかっている相手に手を出すはずがない。 自分の気持ちに気付いても、黙って身を引く。 真田とはそういう男だ。 幸村はその点をよくわかっていた。 だからこそ「リョーマが好き」ということをわざわざばらしたのだ。 先に言ってしまえば、真田の方で勝手に遠慮してくれる。 勿論、今は友人として接しているだけだから抜け駆けしているつもりは無いのだろうが。
(真田の性格を知った上でやったことだ。 卑怯なことかもしれない。 けど、俺だって必死なんだ)
自分の知らない所でリョーマが誰かと仲良くしている。 考えただけで胸が苦しい。 その相手が真田だとしたら、尚更許せない気持ちになるのも当然だ。
(お前には俺の苦しみはわからないよ。 自由に外で会える。 そんな些細なことも幸せだと気付かない内は……)
「幸村君、聞いてる?」
他事を考えているのがばれたのか、尋ねて来た看護師に慌てて愛想笑いを浮かべる。 そして今度こそちゃんと話を聞く為に、顔を上げて向き直った。
チフネ

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