チフネの日記
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2010年05月30日(日) miracle 26 真田リョ

幸せそうに抹茶あんみつを口に運んでいるリョーマを見ていると、ほのぼのとした気持ちになる。

気の許せる友人との時間はこんなにゆったりしたものだったのかと、真田は思った。

「食べないんすか?」

真田の手が止まっていることに気付いたリョーマに、じっと上目使いで見られる。
そして視線は皿に乗っているクリーム大福へと移る。

特に食べたいものがなかったので、真田は和菓子と抹茶のセットを注文した。
何種類もの中から選べるといもので、この時期限定だという大福にしたのだが、
それでもどうしても食べたいという気持ちは無かった。

リョーマがあんみつを注文しているのに、自分だけ飲み物だけでは格好つかないという理由だけで頼んだだけだ。

「良かったら、半分食べるか?」

皿を差し出してやると、リョーマはきょとんとした表情でこちらを見る。
いいの?と、言いたげな顔だ

「実はあまりお腹が空いていない。食べるのを手伝ってくれると、助かる」
そう付け加えると、「了解」と言いながらもリョーマは嬉しそうに皿を手に取る。

こういう所は子供っぽくて、実にわかりやすい。
真剣に悩みを聞いてくれたり、一生懸命アドバイスをしようとしてくれた時とはまた違う顔だ。

越前リョーマは色んな表情を持つ魅力的な人物だと、真田は分析するように内心で呟く。

幸村が惹かれるのもわかる気がした。
同性とかそんなのは些細なことだと、好きになるのも無理はない。
一見、生意気そうだが親身になって相談に乗ってくれたり、心配もしてくれたり、
幸村に対しては神奈川まで何度もお見舞いに来るという律儀な面を持っている。

それに、今まで意識はしていなかったがなかなか可愛らしい容姿をしている。
幸村が彼を好きだと言ってから、気付いたことだ。
同性に恋するなんて、と思ったこともあったが、
リョーマの容姿を改めて見るとそんなのどうでもよくなるな、と感じた。
二人が並んでいる所を想像してみると、違和感無くしっくりと来る。
だから真田としても幸村の恋が叶うといいと、心からそう願っていた。

「これ、あんこだけじゃなく中にクリームとフルーツが入っているんだ。
珍しいね。それにすごく美味しい……」

クリーム大福を半分に割って、頬張っているリョーマの姿はとてつもなく幸せそうだ。
同じテニス部の丸井みたいだな、と思った。
彼も甘い物を食べている時はこのような顔をしている。

「越前は甘い物が好きなのか?」
「うん。でも海老せんべいとかも好きっす」
「ほお。そうなのか」
ケーキやジュースといった系統のものに囲まれていそうなイメージだったが、
せんべいとは渋いものも好むらしい。

「うん。ちょっと前まで揚げてあるやつに嵌っていたんだけど、
今は薄くてパリパリしているやつが好きで、よく食べてるんだ」
「一つ、聞いてもいいか?」
「何すか?」
「よく間食しているようだが、それで夕飯も入るのか?」
「真面目な顔をして何を聞くかと思えば、そんなことっすか」
くすっと、リョーマは笑った。
「余裕っす。育ち盛りなんで」
「……」
「あ。今、それだけ食べているわりには身長が全然伸びていないって思わなかった?」
「そんなことは無いが……」
心を見抜かれたかと冷や汗を掻く真田に、「いいけどね」とリョーマは横を向く。
「いつか成長して驚かせてやるから。
その時は真田さんよりでかくなってるかもよ」
「そうか。まあ、頑張れ」
「何すか。そのやる気の無い声援は!」

ムッとするリョーマに「すまん」と一応謝罪する。
だが自分よりでかくなるのは無理そうだと、心の中で思った。

「ところで、結局話したいことって何だったんすか?」
身長の話題から変えようとしているのか、リョーマの方から軌道修正を口にして来た。

「あ、いや……」

恋人はいないことは聞いた。なら次に聞くのは?
動揺しつつも、真田は質問しなければと口を開く。

「その、お前の好みのタイプは、どんな感じなのだ?」
「えっ。何それ。何かのアンケート?」
わけがわからないという顔をして、リョーマは首を傾げる。
「まあ、そんなもんだ」
「ふーん。変なの」
「とにかくどんな人が好きなのか教えてくれないか。
儚げとか、芯はしっかりしているとか、リーダーシップがあるとか色々あるだろ」

リョーマの好みが幸村に近いのなら、恋が成就する可能性は高くなる。
そう思っての質問だったのだが、全く違うことを言われてしまう。

「ポニーテールが似合う子、かな」
「ポニーテール?なんだ、それは」
「知らないんすか?こう、後ろで髪を一つに束ねてるやつっす」
左手で拳を作り後頭部に当てるリョーマの仕草に、ああ、と頷く。
あれがポニーテールというのかと、今気付く。

「そういう髪型をしている子が好みなのか?」
「違う違う。パッと見て良いなと思った時があったから、好みなんて言われてもよくわからないし」
「そういうものか」

しかし良いことを聞いた。
ポニーテールなら、幸村でも出来るかもしれない。
もっと髪を伸ばすよう勧めてみるかと考える。
一瞬でもリョーマが良いなと思えるのなら、恋の切っ掛けになれるかもしれない。
今度伝えておこうと、真田は心にしっかりと留めた。

「それにしてもさっきから変な質問ばっかりしていない?」
じっと見詰めて来るリョーマに「そ、そんなことは無いぞ」と答える。
「ただの世間話だ」
「そうかな?恋人がいるとか、どんなタイプが好きかって聞いてくるなんてさ。もしかして……」
ばれたか、とぎくっとして体を強張らせる。
幸村の恋心がこんなことで知られてしまったとしたら、侘びを入れても足りないだろう。

「ねえ。もう教えてくれてもいいんじゃない?」
「それ、は」
やはりわかっていたのかと観念して目を瞑ろうとした瞬間、
「告白されたんでしょ?」と言われる。
「何のことだ?」
「惚けなくってもいいよ。恋愛の相談をしたいのなら、そう言えばいいのに。
照れて言えなかったんだよね。察しが悪くてごめん。けど真剣に聞くから」
「何のことを言っているんだ?」

変な方向へ話を持って行こうとするリョーマを、慌てて止める。

「さっきも言った通り、俺は恋愛について考えている余裕などない」
「真田さん本人が誰かを好き、とかじゃなくてもあるでしょ、そういうこと」
「何が言いたい?」
「誰かに告白でもされたんじゃないかって、そう思ったんだ。違う?」

ニヤッと笑うリョーマに、真田は首を横に振って全力で否定する。

「違う。そもそもそのようなことなど有り得ない。
俺に告白するような女子などいるわけがない」
「えっ。そうかなあ?」

そう言って、リョーマは真田の顔を見た。

「背だって高いし、顔だって格好いいと思うけど。
性格だって真っ直ぐで、誠実なのって女の子は好きなんじゃないっすか?」
「……」

褒められているのか?と、真田は思った。
そんな風に言われたのは初めてで、返す言葉を失う。
だが、驚くにはまだ早かった。

「俺が女だったら、真田さんを選ぶと思うよ」
さらりと続けるリョーマの言葉に、仰天してしまう。

「何!?」
あまりの言いようにn目を瞠った真田に、
「なんてね」とリョーマは小さく舌を出す。
「俺をからかっていたのか!?」
「ちょっと、声でかいって」
「あ……」
店員が顔を覗かせ、こちらの様子を眺めている。
我に返り、背中を丸めて小さくなる。

それにしたってリョーマの今の言葉は心臓に悪過ぎる。
冗談で良かったと思う。

だってリョーマには幸村のことを好きになってもらわらないと困る。
友人の恋を応援している立場の真田を選ぶなんて言われたら……、どうしたら良いかわからない。

黙ってしまった真田に怒ったのかと解釈したのか、
リョーマは身を乗り出して顔を覗き込んで来る。

「からかって、ごめん。
けど真田さんの悩みはちゃんと聞くから。茶化したりもしないって約束する」
「いや、越前……。告白されたというのがそもそも勘違いだ」
「えっ、そうなの?じゃあ、俺になんであんな質問したんすか?」
「それは、」
「それは?」
畳み掛けられ、真田は苦し紛れにに「甥っ子の話だ!」と誤魔化す。
「甥っ子?」
「そうだ。実は甥の左助から相談を受けてな。同じクラスに好きな女子がいるのだが、好きと伝えるか悩んでいるのだと言われた。
近頃の小学生はませていて、実にけしからん。
だが真剣に話をしている以上、無視するわけにもいかず困っていた。
もしお前がそういう話に詳しいのなら参考になればと思って色々質問をしたのだが。すまなかったな」

こんな言い訳通用するわけないと思ったが、
意外にもリョーマはあっさりと信じた。

「へえ。小学生の甥っ子がいるんすか?
しかも恋愛の相談?
うーん。子供でもその気持ちは真剣だから、たしかに無視は出来ないっすね」
納得したように頷いている。
「でもあまり力になれそうにないっす。もっとそういうの詳しい人に聞いてみたら?」
「そう、だな。そうさせてもらう」
「うん。その子の悩み、解決するといいね」

にこにこ笑うリョーマに、真田の良心がちくんと痛む。
恋人の有無や好きなタイプを聞き出し、幸村に教えてやろうなんて本当のことは話せない。
いつか二人が付き合い始めたら、その時は改めて謝罪しようと決める。


「そうだ。良かったら、もう半分も食べてくれないか?」
侘びのつもりで、再び皿をリョーマへ差し出す。
「え、いいんすか?」
「ああ。なんだかもう食欲がなくなった……」
「じゃあ、遠慮なく。
でも勿体ないなあ。こんなに美味しいのに」

言いながら、とろんと目を下げて大福を口へと運んで行く。

子猫が好物を食べている表情に似ているな。

そんなことを思いながら、真田は優しい目をしてリョーマが食べ終わるまでずっとその様子を眺めていた。


チフネ