チフネの日記
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2010年05月28日(金) miracle 24 真田リョ


真田との待ち合わせは、立海の部活が終わってからになる。
まだ時間は充分にあると考え、リョーマは幸村の病室へと立ち寄った。

ノックして中に入ると、幸村は憂いそうな笑顔を浮かべて迎えてくれた。

「こんなに早く来てくれるなんて嬉しいよ。
怪我の具合は大丈夫なの?もう治った?」
「そんな早く治ったりしないっすよ。でも、もう少しすれば練習に参加出来ると思う」
「そっか。でも、そうなると平日にこっちに来てくれるのは難しくなるね。
それはそれで複雑だよ」
「何言っているんすか」

先日とは違い、和気藹々とした感じで会話が進んで行く。
あの時の幸村は少し様子がおかしかった。
どここが、と具体的に説明出来ないのだけれど、違和感は拭いきれないままだ。
原因は何かと考えてみたが、結局思いつかない。

しかしこうして穏やかに会話する幸村に、気のせいだったか、とリョーマは思った。

(いつもの幸村さんだ。何も心配することはない)

ホッとしつつ、頂いたお菓子を食べながら幸村の質問に答えていく。

今日あったこと、クラスの友人は誰なのか、どんな風に過ごしているのか。
そんなこと聞いてどうするのかというようなことまでも、幸村は聞いて来る。

変わり映えしないこの病室での日常に退屈しているのかもしれない。
大したことなんてないけれど、自分の話しを聞いて楽しいと思ってくれたら……。

リョーマは幸村の気が済むまで答え続けた。


そうしてしばらく時間が経過した頃だろうか。

最後の質問というように、幸村が口を開く。

「ところであれから真田と連絡を取った?」
「ああ。この間、電話をもらったっす」

間を開けずにリョーマは答えた。
真田と友人になったことは幸村も知っている。
立海での揉め事の相談にこっそりと乗っていたのだが、
知られた今、隠すことは無いと堂々と答えた。

が、幸村は笑顔を消してしまう。

「真田から電話?一体なんだって?」
「よくわからないけど話があるんだって。だからこの後、会う約束をしてるっす」

顔を強張らせる幸村に、何かまずいことを言ったのかと考える。

嘘はついていない。
だから後ろめたいことは何一つ無いはずだった。

でも、だったら何故幸村は顔を強張らせているのだろう。

「幸村さん?」

呼び掛けるとハッとしたように幸村は首を軽く振った。

「えーっと、真田とこの後会うの?」
「うん、そうだけど」

何の確認?と思いつつ頷く。

「どうして?真田の悩みは俺が相談に乗ることに決まったじゃないか。
もう越前君の手を煩わせることは無いんだよ」

そう言いながら、手を握られる。
真剣な目で訴えてくる幸村に、リョーマも真面目に答えた。

「部活のことは関係ないみたい。俺に話があるだけだって」
「話?何の?」
「さあ。教えてくれなかったから」

それを聞いて幸村は難しい顔をして黙り込む。

(何だろう。真田さんの話を聞くことが、問題なのかな)

呑気にそんな事を考えつつ、リョーマはお菓子の残りを平らげた。


「越前君。もし良かったら、待ち合わせをここに変更出来ないだろうか」
「え?ここ?」
「うん。真田が話したいという内容を俺も知っておきたいんだ。
友人が苦しんでいる時こそ、力になりたいからね」

しかしリョーマはゆっくりと、首を横に振った。
それは何か違うと思ったからだ。

「ううん。まず俺が話を聞くよ。
頼まれたことだから、俺一人でちゃんと真田さんの話を聞いてあげたいんだ。
友達の頼みにはきちんと応えるべきじゃない?」

本当は幸村が一緒だと、真田が萎縮して上手く話せないかも、と思った。
だから先に聞いてあげた方が良いと判断した。
その後で幸村にも相談するかどうかは、真田が決めることだ。


「君は……本当に優しいね」

どこか溜息交じりで言う幸村に、リョーマは何かおかしなことを言ったかなと首を傾げる。

「そんなことないっすよ。俺がそうしたいだけで」
「ううん。素でそう言える君は優しいよ」

リョーマの決意が固いとわかったのか、幸村は「しょうがないね」と呟く。

「今日の所は真田を君に任せよう。話を聞いてやってくれ」
「うん」
「どうせ後から真田に確認するけどね……」
「え?」
「いや、なんでもない。待ち合わせは何時から?」

壁に掛かっている時計を見て、「そろそろかな」とリョーマは立ち上がった。

「じゃ、行くね。また来るから」
「うん、待ってるから。
ここで待ってるからね……リョーマ」

急に名前で呼ばれて、驚いてしまう。
目を見開いたまま、リョーマはその場から動けなくなった。

「えっ、と」
「あ、名前で呼ばれるの嫌だった?」
「構わないけど。急にだったから、驚いただけ」

日本に来てから、皆は名字で呼んでくる。
それに慣れていた頃だったので、油断していた。

幸村はにこっと笑って、
「じゃあ、これからは名前でもいいかな?」と聞いて来る。

「いいっすよ。でも、何で?」
「うーん、君との距離をもっと縮めたいから、かな」

そう言いながら、また手を握ってくる。
ぎゅっと両手を取られても、リョーマはじっとしていた。
いつものことだからだ。

ひんやりとして幸村の手に、寂しいんだろうかとぼんやりと考える。
幸村は病院から出ることが出来ない。
なのに真田とは外で会う約束をしている。
そんな話をするなんてうかつだったかと、反省する。


「また来るよ。今度は真田さんと一緒に」

今、リョーマが言える精一杯の言葉だった。

幸村は驚いたような顔をして、それから「うん」と頷く。

「でも君が一人で来るのも歓迎するからね」
「わかった」

そこで、やっと手を放される。

「またね」と挨拶して、リョーマは病室を出た。


















(真田と一緒に、か)

リョーマに言われた言葉に、幸村はぎゅっと唇を噛み締める。


真田とは友人として会っているだけだ。
それ以上は何も無いと、リョーマの表情が物語っていた。

けれど、この胸騒ぎは何だろう。


(真田の奴。人が折角、牽制掛けたっていうのに、何を考えているんだか。
普通、友人の好きな人だとわかったら遠慮しないか?)

予想外だったと、舌打ちする。

約束してしまったものは仕方無い。
無理矢理引き止めても、リョーマの不興を買うだけだ。

それよりこれからのことを考えなければ。

リョーマの心を手に入れるには、どうするべきか。

有効な方法は何か無いものか。


夕陽が差し込む病室で、幸村は黙ったまま思案に耽った。


チフネ