チフネの日記
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| 2010年05月19日(水) |
miracle 16 真田リョ |
その日の夕方、リョーマの携帯に真田から電話が掛かって来た。 幸い自室に戻っていたので、すぐに出ることが出来た。 これがまだ部室で着替えていたら、躊躇していた所だ。 何やらこちらの動向を気にしている不二に見付かったら、また詮索されるだろう。 面倒なことは少しでも避けたい。
そんなことを思いながら真田に何かあったのかと聞く。 たどたどしく今日の出来事を話す真田に、 リョーマは何が悩みなんだろうと思った。
「で、あんたは遅刻したその人への罰が足りないって不満に思っているんだ?」
ごろっとベッドに横になって聞き返すと、 「そうかもしれないな」と真田が返事したので笑ってしまいそうになる。 真剣に悩んでいるらしい。 笑ったら悪いと思い、リョーマも真面目に答えてあげようと自分なりの意見を口に出す。
「けどあんまり厳しくすると、また不満に思われるかもしれないんでしょ。 とりあえず様子を見たら? その人も反省しているようなら、今回はこれで許すってことでいいじゃん」 「しかし、やはり今までのやり方を考えると温過ぎるような」 「だーかーら!」
悩み続けそうな真田を、一喝して止めに入る。
「今までより軽かったと思って、それでまた明日は別の罰を言い渡すの? 相手にしてみたら一度に言えよって、それこそ不満に思われるよ。 他の人だって、どうしたいんだって批判が出て来るかもしれない。 終わったことはもうそれで良しとすればいい。 納得いかないなら、次から考えれば?」
畳み掛けるように言うと、真田は圧倒されたかのように「そう、だな」と言った。
「今回のことで誰からも文句は無いんでしょ? 良かった、って思わないと」 「お前は随分前向きなんだな」 「そりゃ、ね。落ち込んでいても何も変わらないから。 立ち止まってるよりも、進む方がずっといい」 「反省するのも大事だと俺は思うぞ」 「時にはね。けど、真田さんのは考え過ぎ。上手く行っているのに、悩むこと無いでしょ」 「そうか……考え過ぎか」
少しは気が晴れたのだろうか。 最初に話を始めた頃よりは、明るい声になっている。
「そっちも地区大会始まるんでしょ。あんまり悩んで負けるようなことにならないよう、気を付けてよ」 「馬鹿を言うな。そこまで落ちぶれたりはせん」 「ふーん。言い返せる位なら、大丈夫そうだね」
リョーマの言葉に、真田は少し笑った。
「お前と話していると、悩むのが馬鹿馬鹿しくなってくるな」 「それ、褒めてんの?」 「さあな。だが、気が楽になったのは確かだ」 「真田さんは色々考え過ぎなんだと思う。 まあ、こんな会話で気が紛れるなら、また電話してよ」 「そうだな。また、連絡する
素直に返事する真田に、リョーマは「そうして」と言ってから、 お互い電話を切った。
あの程度の会話もする相手が、立海にはいないのだろうか。 色々考え過ぎて身動き取れなくなっているんじゃないかと、リョーマは真田のことを心配した。
同じ立海の部員で相談出来る相手がいれば、もっと彼も楽になれるだろうに。 自分では話を聞く位しか出来ない。
(大丈夫かなあ……)
真面目過ぎて、全部一人で解決しなければと思い込んでいるように見えた。 もっと肩の力を抜いて、気楽にやればいいのに。 それが出来ない性格なのだろう。
なんとかならないかなあ、とあれこれ考えていると、 再び携帯が鳴った。
「あ……」
相手が幸村だとわかって、リョーマは急いで出る。
「もしもし?幸村さん?」 「うん、そうだよ。今、話しても平気?」 「いいよ。でもそろそろ病室に戻る時間じゃなかったっけ?」
病室では携帯禁止だ。そろそろ夕飯の時間で戻らなければならなかったはず、と時計をちらっと見る。
すると幸村は「そうだけど、その前に君の声が聞きたくって」と言った。
「けどさっき掛けた時は通話中だったから、ぎりぎりまで待っていたんだ」 「そう、なんだ」
真田と電話していた時だ。 別に後ろめたいことは無いのだが、幸村の知らない所で立海の相談に乗っているということが言い出せず、口篭ってしまう。
「越前君が電話なんて、珍しいね。急用だったの?」
幸村の質問に、「まあ、ね」とリョーマは必死で言い訳を考える。
「今朝、遅刻しちゃって。それで明日の朝練には必ず時間通りに来いって、部の先輩に言われてた所っす」 「そうなんだ。けど、越前君が遅刻しないように連絡してくれるなんて、いい先輩だね」 「はあ」 「相手は誰かな?手塚、じゃないよね?」
なんでこんなに聞いて来るんだと思いつつ、 咄嗟に「桃先輩っす」とでっち上げた答えを口にする。
「きっと俺があんまり遅刻するから見るに見兼ねて口出しして来たんじゃないっすかね」 「そう。桃先輩、ね」
幸村の静かな声には妙な迫力があって、リョーマはごくっと唾を飲み込んだ。 何か気に障るようなことを言っただろうか。 全く覚えが無い。 けれどなんとなく幸村の機嫌が悪いことは伝わって来る。
どうしようと頭の中でぐるぐると言い訳を考えていると、 向こう側で幸村の名前を呼ぶ声が聞こえた。 耳を澄ませて聞いてると、どうやら病室に戻るようにと言われているようだ。 リョーマは時計を確認した。 夕飯の時間だ。ということは、もう幸村とはこれ以上会話が出来ない。
どこかホッとしたような気になっていると、 「越前君?」と幸村の声がした。
「夕飯だから病室に戻れって言われちゃったよ」 「うん。聞こえた。じゃあ、もう電話切らないと」 「残念だなあ。もっと詳しい話を聞きたかったのに」 「……」
何が詳しくなのかは、聞けなかった。
名残惜しそうにしている幸村に、「地区大会が終わったら必ず行くから」とだけ約束して、 通話を終える。
(隠し事って、なんか嫌なんだけどなあ。 けどこの場合は、しょうがないか……?)
他校生の自分が、真田の相談(という程でも無いのだが)に乗っているとは言い辛い。
それに幸村はあまり部内の話に関心が無さそうに見える。 ただそう感じるだけで、幸村が実際どう思ってるかは聞かないとわからないのだが……。 ここ最近、立海の話を振ると「よくわからないから」とやんわり拒絶される。 その話はしたくない、そんな風に見えてしまって、 ますます真田と会っていることが言い出し難くなってしまう。
(けど、このままってわけにもいかないだろうから、 一度真田さんにも相談してみようかなあ)
立海の様子が落ち着いたら、実は真田から色々話を聞いていたと幸村に打ち明けてもいいかもしれない。
それはいつになるんだろう。 早ければいいな、とリョーマは軽く考えながら、ごろっとベッドに横になった。
病室に戻った幸村は、出された夕飯を前に溜息をついた。
食べている場合じゃない。 もっと、リョーマと話をしていたかった。
けれど時間通りに病室にいないと叱られる上、両親にも報告されてしまう。 入院してから父も母も妹も自分のことを心配している。 これ以上家族に心配は掛けられない。
だから、仕方なく幸村は夕飯を口に運んだ。
食べながら考えるのは、リョーマのことだ。
練習が終わって、自宅に帰った頃を見計らって携帯に掛けたのだが、 ずっと通話中だった。 こんなこと、初めてだ。
リョーマにそこまで長電話する相手がいるとは、今まで考えもしなかった。 いつも青学での話を聞き出して、特定の仲の良い友人がいないか探りを入れていたのだが、 誰に対しても素っ気無いようで安心していたのに。
(桃先輩ね……。そういえば、越前君の口から一度名前を聞いたことがある)
入部前にリョーマが対戦したと言っていた部員だ。たしか桃城とかいう名字だったはず。 二年生ということで、青学のレギュラーと言われてもぴんと来ない。 幸村が青学で知っているのは手塚と不二を含む三年生達だけだ。
一体どんな奴なのだろうかと、想像を膨らます。
気兼ねなくリョーマと長電話する位だから、社交的な奴なのだろうか。 それとも手塚みたいに規律に厳しく、注意しようと思ってお説教の電話を掛けたのか。
色々考えても、何もわからず焦りだけが増していく。
(お願いだから、越前君との距離をそれ以上縮めないでいて欲しい)
同じ学校という立場にある分、自分といるより一緒にいる時間は長いはず。 そしてどんどん親しくなって、そっちと遊ぶ方を優先して行くようになって、 いつか見舞いに来ることも忘れてしまったら。
震えた指先に気付いて、幸村は箸をトレイに置いた。
(今はまだ想像に過ぎない。今は、……)
しかしそれがいつ現実にならないと言えるだろう? リョーマだって病院に来て話すだけのことより、一緒にテニスをしたり、他のことをして遊んだりしている方が楽しいと思うに違いない。
何故、病気になんてなってしまったんだろう。
テニスをすることが出来ないことが辛い。 リョーマと外で会えないことも辛い。
こんな体になった自分の運命を恨みながらも、幸村は(絶対に諦めるものか)と心の中で決意している。
回復する見込みは低いと医者は言っていたが、ゼロでは無い。
(今は取りあえず我慢して、でも必ず復帰してみせる)
それまでリョーマに悪い虫がつかないように、と願うしかない。
取りあえず桃城とやらはどういう人物なのか、 次会った時詳しく聞く必要があると、幸村は心の中に刻み込んだ。
チフネ

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