チフネの日記
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2010年05月15日(土) miracle 12 真田リョ

仁王に取り直してくれた礼の為、真田はその日の練習が終わって直ぐに幸村のいる病院へ向かった。

「俺は仁王とちょっと話をしただけだよ。大したことはしていないよ」

謙遜してるが、上手く説得してくれたに違いない。
改めて礼を言って、その場から失礼した。

しかし目的は幸村と会うことだけでは無い。
今日は日曜日だからひょっとして、と真田は病院を出る時もその後駅までの道をきょろきょろ見渡して歩いた。

リョーマと会えるかもしれない。そう思ったからだ。

しかしどんなに待ってもリョーマは現れない。
休日だからといって、必ずしも幸村の見舞いに来ているわけでは無いようだ。

ならば、平日のどこかに来るかもしれない。

そう考えた真田は、翌日から練習後に必ず幸村の病院周囲を張るという行動に出た。
頻繁に顔を出すと幸村の負担になるから病室には近寄らず、
リョーマが通りそうな所だけをぐるぐると歩いて回る。
他人から見たら怪しげな行動だが、真田はこうするのが良いと信じて疑わなかった。


だが、金曜日になってもリョーマは現れることなく、真田はついにこの計画を断念した。

(これだけ待っていても来ないということは、平日に会える可能性は無いということか)

青学からここはかなり距離がある。
平日に幸村の所へ顔を出すのは大変だと思うが、もしかして、という気持ちがあった。結局予想は外れていたわけだが……。

後は、真田自ら青学に行くしかない。
来るかどうかわからないリョーマを待っているよりも、その方が確実だ。

(あいつには、直接会って礼を言わなければならないからな)

リョーマが後押ししてくれたおかげで幸村に素直に相談することが出来て、
仁王も普通に声を掛けてくれるようになった。

恩人にはきちんと礼をしておくべきだろう。

幸いなことに明日の土曜の練習は、午前中で終わりだ。
日曜日に他校との練習試合を組んでいる。
それで柳が前日は軽く仕上げる程度にしようと提案して来たのだ。
以前ならば逆にもっと練習量を増やすべきだと反対しただろうが、
ここは耳を傾けておくべきだと判断し、午後は各自の判断に任せることにした。

半日とはいえ珍しく休みを決断した真田に、部員達は戸惑っていた。
が、すぐに喜びの表情に変わる。
最後に練習が休みになったのはもう随分前のことだ。
久し振りの自由時間だと、あからさまにホッとしている者もいる。
中には『真田の奴、自分が休みたいだけじゃねえの?』と陰口を叩く者もいた。
だが、真田は聞こえない振りをしてやり過ごした。

仁王が話し掛けて来たことにより、一時期悪かった部内の雰囲気が少し和らいでいる。
それを、壊したくないと思った。

だから悪意のある陰口を聞いても、『無駄口を叩くな!』と怒鳴ることなく黙って耐えた。
幸村と違うのだから、今までの真田のやり方に不満を思う者も出るのも当然だと。
これから少しずつ改善していかねば、と決意を心に刻んだ。


午後の休みを真田も一度は自主練習を考えたのだが、
やはりリョーマに会ってお礼を言うことに使うことにした。
今週を逃したら、次の週は地区大会を控えている。
そうやっている間に、時が経ってしまう。
遅くなる前に、伝えたかった。
ここはやはり青学に向かうべきだろう。

しかし問題が一つある。
それはこの土曜にリョーマが学校に来ているかどうかわからないことだ。

以前、リョーマと会った時、背にラケットバッグを背負っていたのを覚えている。
あの時は自分の悩みのことや、リョーマに言われたことで尋ねる余裕も無かったが、
今になって思うと彼もテニスをやっているんじゃないだろうか。
だとしたら、幸村との接点もそこから繋がったのかと納得出来る。
テニス部に所属していたら、学校に出ている可能性は高い。
しかし、どこか余所のクラブに通っているだけだとしたら……。

(ええい。考えても仕方無い)

行って不在だったら、その時はその時だ。

午前の部活を終えて、真田はすぐに青学へ向かった。
















青学に足を運んだことは初めてだったので、真田は道を何度も確認しながら辿り着いた。
余所の学校を偵察するよりも練習して自分が強くなる方を選択するので、どうしても情報には疎くなる。
柳に頼ってばかりなのも考えものだと、青学の正門前で大きく溜息をつく。
勝手に中に入っていいものか、そういう判断にも困る。

数分考えた挙句、真田は中へと足を踏み込んだ。
咎められたら偵察に来ただけだと謝罪するしかない。
うだうだこんな所で考えていも、リョーマに会えないままだ。

しかし意外にも青学の生徒と擦れ違っても、特に驚かれることもなく、すんなりと中へ進むことが出来た。
テニスコートがわからず、仕方なく近くにいた生徒に道を尋ねたら親切に教えてくれた。
案外、他校の生徒の見学にも寛容なのかもしれない。
良かった、とほっとしつつ教えられた道を進んで行く。

すると、テニスコートはすぐに見付かった。

立海よりも少ないが、青学のコートもそれなりの数はある。
部員達は皆練習に励んでいて、それぞれのメニューをこなしている。
一部の目立つジャージを着ているのは、レギュラーだと真田も知っている。
青学はレギュラーだけ特注のジャージを着ているからわかりやすい、と柳が言っていたからだ。
そこから視線を移して、背丈が小さい一年生の中からリョーマの姿を探す。
一年生はボール拾いとコート端での基礎練習に別れている。
だが、どちらにもリョーマの姿は無かった。
欠席か、それとも部に所属していないのかはわからない。
だが、今日リョーマに会えないことだけはこれでハッキリした。

がっかりして、真田は肩を落とす。
これでまた、礼を言う日が一日遅れてしまう。

「あれー、真田じゃないの?こんな所でにゃにしてるの?」

不意に声を掛けられて、顔を上げる。
するといつの間に寄って来たのか、フェンス越しに菊丸がこちらを見ている。
菊丸はゴールデンペアと呼ばれ、全国にも出たことがあるから顔位は知っていた。
しかし直接話したことは無いはずだ。
なのにやけに馴れ馴れしい喋り方に、真田は戸惑いを隠せない。

「ねえねえ。聞こえてる?」
「あ、ああ。聞こえているが」
「じゃあ。俺の質問に答えてよ。にゃにしてんの?」
「それは……偵察だ」
「偵察ー?」

首を傾げる菊丸に、変なことは言っていないはずだ、と真田は厳しい顔をした。
一体、何が疑問だというのだ。

「地区大会も始まっていないのに、偵察に来たんだ。
立海は随分準備がいいみたいだね」

今度は別の方向から声がした。
その声の持ち主にも見覚えがある。
天才、不二周助。青学のNO2だ。

「本当に偵察だけなのかな」

薄っすら開いた目が、真田を凝視する。
一瞬、怯むがすぐに体勢を立て直す。

「近くに来たから寄ってみただけだ。迷惑なら、直ぐに帰るつもりだ」
「別に構わないよ。ご自由にどうぞ」
「不二ー、そんなこと言っちゃっていいの?」
「いいの、いいの。どうせ見ても困ることは無いでしょ」

ふふっ、と笑う不二に、なんだか馬鹿にされている気がした。
初めて会話を交わしたが、こんな奴だったのかと眉を寄せる。見た目は優しげだが一筋縄ではいかなさそうな性格をしている。

どちらにしろiリョーマがいないのだから、ここには用はない。
真田はすぐにコートから離れた。






「おい、不二。今の立海の真田じゃないのか?」
不二と菊丸がフェンスから離れた所で、大石が声を掛けて来た。
「うん。そうだったよ」
「何しに来ていたんだ?」
「偵察だって言ってたけどお、変だよね。大会も始まってにゃいのに」
「単に熱心なだけじゃないのか?」
真面目な顔をして言う大石に、不二はにこっと笑った。
「それだけだったら良いんだけどな」
「そこの三人。何を話している」
「あ、手塚」

立ち止まって喋っているのが目に付いたのだろう。
手塚が注意の為に声を上げる。
それに不二は「今、立海の真田が来ていたんだよ」と説明をする。

「真田が?」
「うん。君がすみれちゃんとちょうど話していた時にね。
偵察だって言っていたけど、何か裏がありそうな匂いがするね」
「えっ、どんな!?にゃんか面白そう!」
「英二、面白がることは何も無いと思うぞ」
「一体、どういう話だ……」

纏まらない話に手塚が眉間に皺を寄せる。

「いや。僕の推測なんだけど、一年がレギュラー入りしたこと知ってて来た可能性もあるんじゃないかってこと」
「まさか。越前は大会にも出ていないんだぞ。どうしてそれがわかる」
「そんなのは知らないよ。あくまで推測なんだから」
「……そうか。しかし真田は何も知らなかったんじゃないか。たまたまこの近くを寄っただけかもしれないだろう」
「本人もそう言っていたけどね」
「だったら間違いないだろ。それに地区大会は来週だ。
今知られるか後になるかだけのことじゃないのか」
「まあ、ね。僕も考え過ぎだったかな」

ひょい、と肩を竦める不二に、手塚は大きく溜息をついた。

「不用意に煽るようなことを言うのは止めたらどうだ……。全く」
「いいじゃない。これが楽しみなんだから。
しかし一年のレギュラーがいると知ったら、真田はどんな顔したかな。
ちょっと見てみたかったかも」
「そのレギュラーが昼寝の罰で走っていると知られなくて良かったと、俺は思うぞ」

手塚のその言葉に、不二は「そうだね」とフッと笑った。








テニスコートを離れ、真田は元来た道を戻っていた。
リョーマがいないのなら、ここに用は無い。
こうなったら平日に待ち伏せするべきかと、考える。
連絡先を聞いておけば良かったと悔やむが、どうしようもない。
こうなったら幸村に尋ねてみようかと、悩む。
リョーマとかなり仲良くしていたから、「どうしてそんなこと聞くの?」と詰問されることは間違いない。
詳細を話したら、
「相談するかどうか、自分で決めることも出来なかったんだ」と呆れられるだろう。

困ったなと腕を組んだ所で、
「真田さん!?」と声変わり前の少し高い声で名前を呼ばれる。

「越前……?居たのか」
「どうしたんすか。今日は青学になんか用事あったんすか?」

汗だくで近付いて来るリョーマに、真田は目を見開く。
それもそのはず。
一年生のリョーマがレギュラージャージを着ている。
一瞬、体操着が無くて他の誰かに借りたのかと想像するが、すぐに否定した。

そのレギュラージャージがリョーマの体にぴったりと合っていたからだ。
こんな小さなサイズ、さっきざっと見たコートの中に居た他の部員には合わない。
紛れも無くこれはリョーマのジャージだ。

「青学のレギュラー、だったのか」

真田の呟きに、リョーマは首を傾げ「そうっすよ」と答える。
「ついこの間のランキング戦からだけどね」
「そうか……レギュラー、か」

ということは、いつか試合で当たるかもしれない。
お互い、敵同士ということだ。

複雑な思いに黙っていると、「どうしたんすか?」とリョーマが顔を覗き込んで来た。

「なんか、俺変なこと言った?」
気遣うようなその表情に、真田は慌てて首を振った。
「そんなことは無い。
……一年でレギュラーになるとは、強いのだなと見直していたところだ」
「そう?ありがと」

素直に礼を言うリョーマに、敵とかそんなことに拘るのは止めようと思った。
幸村に相談しろと後押ししてくれたことに感謝する気持ちに変わりない。
青学のレギュラーだからといって、会話をしてはいけないなんて規則は無い。
目の前にいる越前リョーマ個人と話していると思えばいい。

そう思って、真田は口を開いた。

「実は、お前に一言礼が言いたくて、今日はその為にここへ来た」
「え?わざわざ青学まで?」
「そうだ」

今度はリョーマの目を見て、ちゃんと言えた。

「少し、時間をもらえないか」
「……えーっと」

リョーマは少し考えてから、「いいよ」と頷いた。

「じゃ、ちょっと移動しよ。見付かるとうるさいから」
「うるさい?誰が?」
「部長。今も休憩時間に昼寝してたのがばれて、グラウンド走っていたところなんだ。
ちょうど休憩したいと思っていたから、ちょうどいいや」

それはまずいのでは、と思ったが「いいから」と袖を引っ張って誘導するリョーマに逆らうことが出来ず、
さわれるままその後について行った。


チフネ