チフネの日記
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| 2010年05月14日(金) |
miracle 11 真田リョ |
翌日の日曜練習。
早くからコートへ入っていた真田に、仁王は「おはよう」と声を掛けた。
最近は目が合っても無視されてばかりだった。 普通に挨拶して来たことに驚いていると、仁王は更に話し掛けて来る。
「今日の練習、柳生とのダブルスでやってみたいことがあるんじゃ。 時間多めに取ってもらえんかの」 「あ、ああ。わかった」 仁王の変化に動揺しながら、真田は頷いた。 「だが練習の件なら柳にも一言断ってくれ」 「わかった」 笑顔を見せて仁王は離れて行く。
これは元に戻ったと考えて良いのだろうかと、真田はその後ろ姿を見て考えた。 他の部員も仁王の変化に顔を見合わせている。 これまで彼が真田を無視しても堂々としている裏で、同じように調子に乗ってた部員もいる。 いきなり態度を変えたことで、戸惑っているようだ。
(幸村が、もう動いてくれたのか)
腕を組んで考え込む真田に、「弦一郎」と今度は柳に呼ばれる。
「今、仁王に今日の練習メニューを変えて欲しいと頼まれた。 お前も了解済みだと言っていたが、本当か」 「ああ。俺も今聞いたところだ。別に構わないだろう?」
すると柳は少し考えてから、口を開いた。
「話し掛けて来た、ということはもう仁王は幸村と会ったということか」 「蓮二?」 「そうでなかったら、今日も無視していただろうな」
何故幸村の名が柳の口から出たのか。 部のことで相談した時、柳はいなかったから知らないはずだ。
「ひょっとして、幸村から何か連絡を受けたのか?」 柳はあっさりと認めた。 「ああ。客観的な意見を欲しいとメールを貰った しかし意外だな。お前から相談を持ちかけるとは」
柳にも同じことを言われて、真田は耳を赤くいた。 結局部長を当てにしている情けない奴と思われただろうかと。 だが柳は「賢明な判断だった」と言った。
「そう、思うか?」 「ああ。もし何も幸村に話すことをしないまま、一人でがむしゃらに頑張っていても解決はしない。 部長に相談することも大切だ。 それを自身で気付いて欲しかった」 「蓮二……」
気付けて良かった、というように柳は笑った。
「仁王もこれで無視するのは止めると決めたようだから、 倣っていた連中も大人しくなるだろう。 しかしお前自身も歩み寄る努力をしなければ、事態は変わらないぞ」 「わかっている」
幸村の力を借りているだけでは、駄目だ。 自分も変わらねば、部を纏め上げることは不可能だろう。 勿論、彼と同じように出来るとは思えない。 自分らしく、それで皆とどう上手くやって行けるか、考えることは沢山ありそうだ。
「良い返事だ」 柳は満足そうに頷いた。
「しかし自ら相談に行くとは、どういう心境の変化だ?何かあったのか?」 「いや、別に何も……」
一瞬、リョーマのことが頭に浮かんだが、慌てて掻き消す。 年下の、しかも他校の選手に背中を押してもらった等ととても言えることではない。
リョーマには自分から、こっそりと礼を言おうと決めているのだから。
話を逸らす為、「そういえば、ダブルスの練習を他の部員にも参加させるのはどうだろう」と提案を出してみた。
真田から離れた仁王は、ガムを噛みながらやって来た丸井に絡まれていた。
「仁王。なーんで、真田に話し掛けてんだよ」 「なんでって、同じテニス部じゃろ。いつまでも無視するのも良くないと思ってな」 「はあ?殴られたこと、忘れたのかよ」 「忘れてるわけじゃない。けど、もういい。 面倒なことになる前に、俺から折れるべきだろうからの」 「どういう意味だ?」 眉を寄せる丸井に、仁王は小声で伝える。
「幸村から指示じゃ。さすがの俺も無視は出来ん」 「えっ。幸村が?」 「ああ。お前さんも俺の件で真田に突っ掛かるのは止めにしろ。 これ以上、幸村に心配掛けたくないならな」
丸井は幸村のことを部長として尊敬していた。 しょっちゅうお菓子を貰っていたから、餌付けされていたとも言うが。
「なんだよ。真田の野郎。幸村にちくったのかよ。 自分が最初に部員を殴って雰囲気悪くしたくせに」 ふんっ、と丸井は横を向いてガムを膨らます。 それはすぐパチンと音を立てて弾けた。
「まあ、そう言うな。真田も必死なんじゃろ。 それに俺達が奴を無視することで乗っかって来る連中もいる。 正直、あんまり気分は良くないぜよ」
ちらちらと遠巻きにこちらを見ているレギュラー外の三年や二年に、 丸井も「あー」と間延びした声を出す。
「そういや、俺もなんか真田を副部長辞めるように言えとか誘われたなあ」 「なんて答えたんじゃ」 「別に。俺は個人的にムカついているだけで、つるんであいつを陥れることには興味無いからな。 やりたければ勝手にしろって言っといた」 「そうか……」
どうやら思った以上に、部内はバラバラになっているようだ。 個人で好き勝手に行動する仁王に、そんなこと提案する馬鹿はいなかったが、 いつか巻き込んでこようとしてくるかもしれない。 そうなる前に、真田と今日、表面上だけでも会話しといて良かったと思う。 これで当分は、静かにしているだろう。所詮、集団でいても人に頼るような連中だ。 レギュラー同士が一旦落ち着いたと思わせれば、効果はある。
「仁王が真田のこと許したって言うのなら、俺は何も言わないけどよ」 再び丸井が口を開く。
「けど、今回のことでお前が俺に心配掛けたのは事実だ。 今日は練習終わったら、付き合えよ。いいな!」 命令形で言う丸井に、仁王は溜息をつきながらも「わかった」と頷いた。
「よーし。じゃあ、決まりだな。 逃げるなよ、仁王」 「わかったが、あんまり甘い物は勘弁してくれんかの」 「何言っているんだ。甘い物は脳の栄養にもなるんだぜぃ」 「……」
まだ練習が始まる前から浮かれる丸井に、仁王はどうしたものかと額に手を当てた。
一方、青学は本日ランキング戦、二日目。
海堂に勝ったことにより、リョーマの注目度は更に上がっていた。 どうせレギュラーには勝てないだろう。 そう思っていた部員がほとんどだったのに、予想をひっくり返したのだから。
今度こそは、負ける。 相手が青学NO3の乾にはさすがに勝てないと言う者も多くいたが、 リョーマは温存していたスプリットステップを使い、取られていたデータ以上の力を出し切ることで勝利を手にした。
当然、応援していた一年生達はリョーマの勝ちを喜ぶ。 体格差ではかなりハンデがあったが、リョーマはテニスは身長でするものではないと教えてくれた。 背が高くないからと諦めずに努力し続けていたら、勝てるかもしれない。 一年生だからと諦めることはない。 そんな希望を与えてくれたリョーマに、賞賛の言葉を送る。
一方、この結果を面白くない思わない者もいる。 ぽっと出の一年生が部長に目を掛けられ、ランキング戦に出場してレギュラーになってしまった。 自分達が望んでも叶えられなかったことを、いとも簡単にリョーマは手にした。 勿論リョーマは今日まで練習を重ね、努力しなかったわけではない。 しかし結果だけを見て嫉妬する人もいる。
そんな悪意の篭った視線に気付くことなく、リョーマは大きく伸びをしてコートから出た。
(あ、もうメールが入っている)
全ての試合が終わった後、一年生達で片づけをしていたら少し遅くなった。 幸村は今日のことを気にしていたから、早めに連絡しようと思っていたが、 それより前に『どうだった?』とのメールが入っている。昨日と同じパターンだ。
(俺の方から連絡するって昨日送ったのに)
そう思いながらも、幸村の今居る状況を考えると送るなとも言い辛い。 きっと彼と同じ学校の部員達も練習に励んだり勉強したりと忙しいだろうから、 一人で居る時間が多い。 テニスも出来ずに、一日病室に居るだけだとしたら。 リョーマにとってそれは退屈で、拷問に等しい。 幸村の気持ちを思うと、早くメール送ってしまうのもわかる気がした。
急いで着替えて、「お先に」と部室を出ようとする。 「あっ、リョーマ君!僕達、リョーマ君のレギュラー入りをお祝いしようって今」 「悪い、急いでいるから」
少し悪かったかな、と思ったが今日は結果報告すると約束している。 早めに連絡しないと、待ち切れなくなった幸村から電話が掛かって来るだろう。 明日なら付き合えるから、と心の中で謝罪して校門へと急ぐ。
外に出た所で、リョーマは携帯を取り出した。 そして歩きながらゆっくりと、文字を打ち込む。
『レギュラーに決まった』
これだけじゃなんだから、今日の対戦相手について書こうと指を動かしていると、 不意に肩を掴まれた。
「おチビちゃんー、誰にメールしてんの!?」 「あんたは……」 「あんたじゃない、菊丸英二ー!」 「はあ。それで、おチビちゃんって一体」 「え、あだ名だよ。ぴったりでしょ」 「はあ!?そんなの止めて下さいっ」 「いいじゃん。似合っているんだから。おチビ、おチビー」 「英二。ちょっと静かにしたら?越前が驚いているよ」 「えーおチビちゃん、そんなことないよね?」 「どっちかというと迷惑なような」 「酷いー!」
後ろからぎゅっと抱きついて来たのは三年生のレギュラーの一人、菊丸だ。 隣にはいつも笑顔を絶やさない同じくレギュラーの不二もいる。
一体何故この二人が声を掛けて来るのだろう。 訳もわからず目を泳がせていると、 「僕達、さっきまでお喋りしていて今帰るところなんだ」と不二が言う。
「そうしたら越前が来るのが見えて、つい声を掛けてみたってわけ」 「はあ」 暇なのかな、と首を傾げる。 来たからって一々構うことないのに。
眉を寄せるリョーマに、不二は更に会話を続ける。
「越前って、学校出たらすぐに携帯取り出してメールを打っているよね。 この間も見たよ。頻繁に連絡する相手でもいるの?」
いつ見ていたんだと、ぎょっとする。 不二は涼しい顔をして、「たしか僕が見ているだけで、3回はあったね」と言う。
「えー、そうなんだ。ひょっとして彼女?一年生のくせに生意気だぞー!」 「変な想像しないで下さい」 菊丸が妄想を広げる前に、リョーマは素早く否定した。 「そんなんじゃないっす」 「じゃあ家族の人?今日の夕飯のリクエストかにゃ」 「なんでそんなことわざわざする必要があるんすか。朝、言っておけばいいでしょ」 「だったら相手は誰なのかな?」
にこっと不二に微笑まれて、リョーマは後ろへ足を引く。 当然、抱きついている菊丸にぶつかって、逃げ出すことは出来ない。
(何、この人)
妙な迫力を感じる。 幸村も時々こんな風に笑顔でごり押して来ることを思い出す。 似たようなタイプなのかもしれない。
「友達、っすよ」
下手に嘘をつくとますます興味を持たれそうだと判断して、 リョーマは一部分だけ真実を話す。
「友達?そんな親しい子がいるんだ」 「はあ。でもその人、入院中で……見舞いとか毎日行けないからこうしてメールを送っているんす」
リョーマの言葉に菊丸が「おチビ、優しい!」とぎゅっと抱き締めて来る。
「良い子だね、おチビー。なんか感動しちゃったあ」 「ちょっ、だったらまず放して下さい。苦しい!」 「あ。ごめん、ごめん」
やっとのことで解放されて、リョーマはほっと息を吐く。 どうやら菊丸は納得してくれたようだ。 不二は、とちらっと上目で確認すると何を考えているかわからない笑顔を浮かべている。
「そう。だったらメール打つの邪魔しちゃいけないね。 英二、行こうか」 「うん。おチビ、そのお友達早く元気になるといいね!俺も応援してるからさっ」
バイバイ、と菊丸は手を振って歩いて行く。 しかし不二は少し遅れて、リョーマの耳元で「君の友達って年上なの?」と囁く。
「え、なんで」 「さっき僕が親しい子、って言ったのに、君は『その人は入院している』と言ったよね。 同じ年の友達ならその人なんて表現しないと思ったんだ」
フフッ、と笑って不二は「どっちでもいいけどね」と菊丸の後を追って行く。
「なんなの、一体……」
立海に負けることなく青学のレギュラーも個性強そうだ。
呆然としつつ、手元の携帯を見て幸村にメールしなければと慌てて続きを打ち込む。
今のことはさっさと忘れてしまおう。
そうして再び指を動かす。
レギュラーになったことでまた忙しくなるけれど、 休みの時は必ずそっちに行くとの文字も忘れずに付け加えた。
チフネ

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