チフネの日記
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| 2010年05月10日(月) |
miracle 7 真田リョ |
青学のテニス部に入部して以来、リョーマの心は今ひとつ晴れない状態が続いている。
都内では強豪だと聞かされていたが、その肝心なレギュラー達と一年生は打ち合う機会が無いと聞かされた時はショックを受けた。 基礎練習に不満があるわけではない。 もちろん基礎は大切で、リョーマも自主練する時にも欠かしたことは無いのだけれど。
全くチャンスが与えられないということは、納得いかない。 青学に入ったら少しは楽しめるかもしれないぜ、と無責任に言い放った父親を恨みたくなる。 夏の大会が終わるまでの半年間、一年生はコートに入ることが出来ないなんて。
「ありえない……」
おまけに一つ年上の先輩に妙に絡まれて、鬱陶しいことこの上無い。 今日はラケットを隠される嫌がらせまでされた。 さすがにここは強く出なければと判断し、全員の前でボロラケットを使用しても尚こちらが格上だと知らしめてやった。 あれで少しは大人しくなればいいんだけど、とリョーマは小さく溜息をつく。
こんな状態が続くようなら、やっていられない。 レギュラーと打ち合えないのなら、テニス部に在籍している意味もないような気がする。 どこか外部のクラブに通うとか考えるべきか。 だらだらと部屋で寛ぎながら思案していると、不意に携帯が鳴った。 メールの着信だとわかっていたので、のろのろと起き上がって机に置いていた携帯を開く。
『もう部活は終わった頃かな?今日はどうだった?』
相変わらずマメな幸村に感心しつつ、リョーマも返事の文を打った。 『いつも通り。あ、でも今日は前に言っていた嫌がらせしてくる先輩を〆た』
するとすぐに、 『それ、どういうことなの?』と幸村から再びメールが入る。
幸村のメールは必ず毎日2回以上送られて来る。 そして一度返信すると、何度かやり取りすることになるのがもうパターンとなっていた。 病院生活は退屈だろうと思って、リョーマも出来るだけ返すことにしている。 最近は近況ということで青学の話ばかりだ。 幸村が聞きたがっているのだから、文字を打つのは苦手だが出来るだけ答えている。
入部が決まって、今は基礎練習ばかりと送った時に、 『立海に入ってくれていたら、俺がなんとか手を回してレギュラー達の練習に混ぜるんだけどな』 との返事にはさすがにぐらっと来た。
お喋りな同級生が言っていたが、立海大はここ近年は優勝続きのレベルの高いチームらしい。 そんな中での練習は確かに魅力的だ。 少なくともこのまま半年ずっと基礎だけやらされるよりは楽しいだろう。
しかしどう考えても立海大にまで通うには、無理がある。 今でさえ睡眠が足りないのに、それを通学時間に取られたら……きっと毎日遅刻する。 気持ちは嬉しいが、やはり青学に通うしかない。 リョーマがやっぱり立海に変わると返事しなかったので、幸村はそれ以上は何も言って来ない。 日常メールだけは相変わらずだ。
(どういうことかって。 まず、荒井先輩にラケット隠されて、って打つの面倒だな)
リョーマは『今度説明するよ』と返した。 するとすぐに『それはいつになる?』とのメールが入る。
入学してから、さすがに病院に足を運ぶ頻度は下がっている。 寂しいのかな、と考えて、リョーマは『明日、そっちに行く』と文字を打った。
明日はランキング戦の発表のみで、その後は各自での練習となっている。 試合前にトレーニングはそれぞれ、という方針らしい。 一年生の自分は関係ないのだから、さっさと着替えて幸村のところへ向かおうと考えた。
『本当に?すごく嬉しい。待っているからね』
思った通りのメールを打って来た幸村に、 大袈裟だなあとリョーマは目を細めて、携帯を再び机の上に置いた。
翌日。
リョーマは足取り軽く、幸村のいる病院へと向かった。
(まさか俺がランキング戦に入るなんて、ね)
どうせ一年だから関係無いと思って出てみたら、 ランキング戦の表に名前が載っていたから驚いた。 他の一年はもっとびっくりしたらしく、リョーマのことをすごいとか、頑張ってとか言いながらはしゃいでいる。 同じ一年が試合に出ることで、希望が持てたようだ。 反対に二年生達の中で面白くなさそうな顔をしていた人もいたが、 それは知らん顔してやり過ごした。 表立って文句を行って来た荒井は、昨日の件がよっぽどショックだったようで絡んでも来ない。
(ランキング戦に入れてくれたのって、おばさんか、それとも部長か)
今まで部長といえば問答無用でグラウンドを走らせる融通の利かない奴かと思っていたが いい所あるじゃんと、少し見直す。 なんにしろ、これでレギュラー達と打ち合う機会を得ることが出来た。 後は試合に勝って、自分がレギュラーになるだけだ。 そうしたら少しは楽しめそうだ。他に練習場所を探しに行く手間が省ける。
幸村に話すことがもう一つ増えたと、少し浮かれながら中へと入る。 すっかり病室がどこにあるか覚えているので、迷うことなく足を進める。
そして部屋の前でノックをすると、 「はい、どうぞ」と幸村の声が聞こえた。
「こんにちは」 挨拶しつつドアを開けると、幸村の他に客が二人程いた。 以前に会った人物ではない。 また違う友人達がお見舞いに来てくれているらしい。
寂しげにしているけれど、こんなに来てくれる人がいるじゃん、とリョーマは内心で呟く。
「こいつ、誰?」
一人の赤い髪をした男がリョーマの方を指差して言う。 ガムを噛みながら言った男に、「こいつなんて言ったりしたら駄目だよ」と幸村がたしなめる。 「全くです。初対面の人に失礼です」 もう一人の眼鏡を掛けた男が幸村に同調する。
「あー、悪かった。ま、ここ座れよ。俺はこっちに行くからさ」 丸井、と呼ばれた男が自分の座っていた椅子を譲る。 いいのかな?とリョーマが首を傾げると、来るようにと手招きされる。 ここで拒否するのもなんだし、とリョーマは大人しく丸井が譲ってくれた椅子に座った。
「幸村の友達?それとも妹さんの方の知り合い?」 興味深々で丸井はリョーマの顔を覗きこんで来る。 それを幸村は制するように、リョーマの肩を掴んで自分の方へと引き寄せた。 「俺の友達だよ。この子は越前リョーマ君。 丸井がそんなに近付くから、怖がっているじゃないか」 「いや、怖がってなんか……」 「あー、悪い。ちょっと不躾だったよな。 俺は丸井ブン太。幸村とは同じテニス部。シクヨロ」 「はあ」
変わった名前だな、と思いながらもこれなら一回で覚えれそうだとリョーマは考えた。 するともう一人の男が「私は柳生です」と名乗った。
「幸村君に他校の友人がいるとは知りませんか。 ここの病院で知り合ったんですか?」 「えっと」 「まあ、いいじゃない。俺達が親しいことに変わりはないんだから」 柳生の詮索を止めるように、幸村は言った。 しかし柳生は納得しないように、 「でも彼もテニスをするのでしょう?」とリョーマの持っているバッグを見た。
「どこの学校ですか。この近辺では無いようですが」 「青学だけど」 つい正直に答えると、「青学かよ!?」と丸井が声を上げる。
「なんでそこの部員と幸村が仲良くしているんだよ。 あっ、さては情報を収集しようと思って」 「丸井。いくらなんでも言い過ぎだよ」
低い声で言う幸村に、丸井は慌てて「冗談だって!」と言い訳をする。
「一年生がそんなことまでするわけないよな。うん、俺の勘違いだった」 「はあ」 しかし最初に言い出した柳生は、まだ疑わしそうにリョーマのことを見ている。 これじゃとても明日からランキング戦やってレギュラーになれる可能性があるかもしれないとは、 言い辛い。
どうしよう、と目を泳がすリョーマに、幸村が「そうだ。丸井達がケーキ持って来てくれたんだ」と雰囲気を変えるように声を上げる。
「越前君、ケーキ好きだったよね。丸井が持って来てくれるのはどれも美味しいんだ。 是非食べて行って」 そう言って、脇のテーブルに置いてあった箱を差し出す。
「あー!それ、俺が選んだシュークリーム……」 「丸井君はさっき食べたでしょう。私の分も合わせて2つ。もう十分ですよ」 呆れるように言う柳生に、丸井は「そうだっけ?」と頭を掻く。 その間に幸村は箱からシュークリームを取り出し、「はい」とリョーマに渡す。
「でも、これ…幸村さんの分じゃないの?」 「俺は今日はそんな気分じゃないんだ」 「気分じゃないのなら、俺に……って、痛えな、柳生!」 「いい加減にしたまえ。そろそろ柳君よりダイエットするよう指導されますよ」 「そんなに太ってねえよ。俺のどこ見て言っているんだ」
食べにくい……。 こんな所で食べてと言われても、困ってしまう。 しかし幸村はにこにことした笑顔でリョーマが食べるのを待っていて、 その隣で丸井はじっとシュークリームを見詰めていて。
少し考えてから、リョーマはシュークリームを半分に割った。 中からどろっとしたクリームが流れるより前に、 丸井に「はい」と渡す。
「半分こ、しよ。これならあんたも満足でしょ」 食べることを断ると、幸村が後で丸井に文句を言うかもしれない。 かといって全部食べたら、丸井に恨まれるかもしれない。幸村の友人とはケンカしたくない。 そう思ってリョーマは半分だけ食べることにした。
「お前、いい奴だなー!本当にくれるのか?」 「うん。俺は帰ったらすぐ夕飯だから、これだけでいいよ」 クリームが零れそうになったから、慌てて口を開けて放り込む。 なる程。確かに美味しい。 今まで食べたシュークリームの中でも、郡を抜いている。
ぺろっと指についたクリームを舐めると、 「もう、越前君まで丸井をそんな風に甘やかさなくてもいいからね」と幸村が言った。
「こうやって皆がお菓子をあげるから、もっともっとって胃袋が大きくなるんだよ」 「全くです。細かいことは言いたくないですが、結局丸井君がほとんど食べてしまったんじゃないでしょうか。 お見舞い品という名目で、自分が食べたいだけのような気がします」 「まあまあ、細かいことはいいだろい」 満足したように、丸井は笑った。 実際、お腹は満たされているのだろう。
「今日もジャッカルと赤也を誘ったんだけど、あいつらさっさと教室からいなくなっているんだぜ? 折角のオフなのによー。俺がこうして誘ってやっているのに」 「それはこうなるのを見越していたからでしょう。 先日購入したケーキも丸井君がほとんど食べたと伺っていますが……」 「ぼやぼやしているあいつらの方が悪い。だから食われても仕方無いだろ」 「……それは違うかと」
二人の会話を聞きながら、常勝・立海大も意外と普通に楽しそうだなとリョーマは思った。 練習は厳しいかもしれないが、部員は普通に仲が良さそうだ。
(あれ、でも真田さんは……?なんであんな難しい顔していたんだろう)
この二人とは対照的に顔色が悪かった真田のことを思い出す。 ひょっとして悩み事は部活と関係ないことなんだろうか。 友人である幸村に部活以外のことで悩みを打ち明けてもおかしくない。 きっとそうだ、とリョーマは思うことにした。
それ位、目の前にいる丸井と柳生の会話は、和気藹々としたものに映った。
今日は青学の話を蒸し返さずに帰ろうと、こっそり決める。 折角、良い雰囲気に戻ったのだ。 青学の出来事を話したら、また柳生が疑わしい目を向けてくるかもしれない。
今日はこのままで、とリョーマが考えた矢先に幸村が口を開く。
「そういえば、越前君」 「何すか」 「昨日のメールに書いてあったよね。 嫌がらせしてくる先輩を〆たって。あの話、詳しく聞きたいけどいいかな?」
幸村の発言に、丸井と柳生は会話を止めて、マジマジとリョーマを見詰めて来る。
「え、マジかよ!?青学の先輩?相手は誰だよ!」 「一体どういう状況でそんなことになったんですか。私も是非知りたいです」
この二人の前で話すつもりは無かったのに……。
元凶の幸村に視線を移すと、期待した目をこちらに向けている。 悪気は一切無さそうだ。 ただ、メールを読んでずっと気になって聞いただけなのだろう。
仕方無いなと、リョーマは溜息をついて昨日の出来事を語り始めた。
チフネ

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